「どう・・・・して?」
落胆を隠し切れない妹紅に、今、俺からかけられる言葉はあるのだろうか
幻想卿に来ておよそ半年
俺を拾ってくれた妹紅に愛想が尽きた訳ではない
ただ、重いのだ。妹紅の愛が。いくら心が受け入れようとしても、俺の中で「逃げ出したい」という気持ちが強くなっていくばかりなのだ
「ほんの、ほんのちょっとでいいから・・」
「ごめん、もう、無理なんだ」
「そんな・・・・・いやだ・・・」
「ごめん」
もはや妹紅に、かつてのような笑顔は消えうせ、絶望に溢れている
目の前で苦しむ人、ましてや自分の最愛の人に対して、「ごめん」しか言えない自分に腹が立つ
「OO...」
「なんだ?」
「私も・・・・・・ごめん」
目の前が暗くなった
気が付くと、俺はベッドに縛られていた
妹紅は気づいたらしく、俺の頬にキスをした
「えへへ、おはよーのちゅー、だよ」
「なぁ妹紅、一体なんの・・・・!!!!!!!」
「ん・・くちゅ・・・・んは・・・」
今度は唇を無理やり重ねさせられる
そして、それと同じく、何かを飲まされる
「も、妹紅!!!」
「今、OOに飲ませたのは蓬莱の薬、私とおなじ、不老不死になれるお薬だよ」
「な、なんだと」
「証拠に、ほら」
妹紅が俺に、鏡を向ける
「なんだ・・・・・これ・・・」
写っているのは「白い」髪の色の、俺であった
「OOもこれで、私と同じ、老いることも死ぬこともなくなったんだよ、やったね!」
「おい、やめてくれよ、妹紅!」
「恨むんだったら、私を置いて消えたけーねたちをうらんでね」
「けーねたちがいれば、私の心は、OOでいっぱいにならなかったんだよ?」
「あ、でも、私は十分OOを愛しているからね、そこは心配しなくてもいいよ」
「だから、あなたも、私を愛して?」
「そ、そんな・・死ねない?」
「もー、信じてくれないの?仕方ないなー」
そういって妹紅が取り出したのは日本刀である
「少し痛いけど、我慢してね」
ふり構えたとほぼ同時に、妹紅は刀を振り下ろす
左腕が見事に切断される。しかし
「な、なんだよ・・・・これ」
血が出る間もなく、切断部から左腕が生える
1分も立たぬうちに、左腕は再生した
「驚いた?ね、ほんとうでしょ?」
「もしかして、びっくりした?」
「でも大丈夫!OOが私を支えてくれたように、私もOOを支えるから!」
「さぁ、これからずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと一緒に暮らしましょ、あ・な・た♪」
妹紅は笑っていた
だが、それは決して、「普通」の笑顔ではないことは分かっていた
俺は妹紅の体を押しのけ、玄関へと走った
逃げる。今の自分に与えられた行動は、それだけである
扉を突き破り、夜の竹林の中へと潜り込む
昼間の時点でかなり薄気味悪い竹林は、夜になるとその薄気味悪さが増していた
背後から自分を呼ぶ声がする。妹紅だ
だが、振り向いてはいけない。立ち止まるなど論外である
逃げる、ただそれだけだ
例え内臓が噴き出ても、火の玉で燃やしつくされようとも、今は逃げるしかない
かつての妹紅は、純粋な笑顔で満ち溢れた妹紅は自分のせいで姿を消した
そう考えただけで不意に涙がこぼれる
一体、どうしてこんなことに・・・
そう考えた途端、背中が熱くなる
妹紅が火を放ってきたのだ
いきなりのことだったので、走りのバランスを崩す
瞬間、倒れていた竹に躓き転倒
しかも運悪く足を挫いてしまった
やがて、妹紅が近づいてくる
「・・・ねぇ、OO」
興奮してるのかと思いきや、落ち着いた口調であった
「そんなに・・嫌・・?私といるのが」
「いいや・・・」
「じゃあ、なんで逃げ出すの?」
正直に言いたい。だが、正直に言えない。もどかしい感情が交差する
「ねぇ、OOは私と一緒に居てくれたよね?私と一緒に散歩だってしてくれたよね?一緒にご飯だって作ってくれたよね?あれは全部、嘘だったの?私は、OOの恋人にはなれないの?私のどこがいけないの?どうしたら認めてくれるの?ねぇ、ねぇ」
遊びなんかじゃない。全部本気だった。ただ、それらを妹紅が思っているように処理しなかった、否、できなかっただけである
「そっか~、ずーーっと黙ってたいほど、私とお話したくないんだー」
「違う、そんなんじゃ・・・」
「だったら答えてよ!!!!!!!!!」
怒り、憤激。今まで妹紅がみせなかった感情が一気に爆発した
そして、
「うぅ・・・・ぐす・・・・なんでよぉ・・・」
悲しみが後を追いかけるように涙となって現れる
「妹紅・・・・・」
「・・・・・・・・・・もういいや」
瞬間に回りの空気が変わる
「OOが悪いんだよ?私なんかに関わるからぁ」
妹紅の手にぎらりと光るものが見える
(肉切包丁・・・・・!!!!!)
間違いない、妹紅は殺しにくる
「大丈夫、OOの後から私もいくから」
「・・・・来世こそ、一緒に幸せになろ?」
酷く挫いたせいか、まともに立つことすらままならない
(もうだめ・・・か)
次の瞬間、大きな音と黄色い尻尾が微かに見えただけで視界は閉ざされた
目が覚めると、そこは電車の中だった
しかも、そこは自分がよく使った路線だった
車内を見渡すとあまり人は乗っておらず、女性が一人いる程度であった
やがて停車駅のアナウンスが流れると電車は減速し、車窓に駅のホームが見えた
女性は降りるつもりでもなく、かといって、他に客が乗ってくる気配もなかった
OOは再び座席に腰を下ろす
窓ごしに駅の時計に目をやる
時計の針は2本とも「12」を指し、動くような様子ではなかった
駅名は「横浜」。現実の世界では、この駅の近くに自分の家があるのでここで降りていた
しかし、今は降りる気分にはなれなかった。なぜなら、
「(ここが本当に俺のいた世界ならば、今までのことは・・・?)」
やがてドアは閉まり、電車が動きだす
それは、長いようで短い自問自答の始まりであった
電車が「川崎」を過ぎた頃、静かに本を読んでいた女性がOOに近づいてきた
「すまないがあんた、ひとつ聞きたいんだが。この電車はどこに向かっているんだい?」
「ええと、確か「大船」ですかね」
「おお、そうなのか。ありがとう。・・・って、あんた、どこかで・・・」
女性はOOの顔を見て考えるような表情になる
「あんた、もしかしてOOって名前かい?」
「?失礼だけど、あなたとは初対面じゃ?」
「おおっと、まずは私から名乗らないとだな。私は上白沢慧音」
慧音。その名を聞いてOOははっとした
「慧音って、まさか、妹紅が言っていたあの慧音か!?」
「なんだ、妹紅のことを知ってるのか。なら話は早いな」
「けれども、あんたは死んだはず。それに、そもそもここは一体・・・」
「なに、これから話すさ。何もかも」
長く感じた自問自答はここで終止符を打たれた
慧音曰く、この世界は死者の世界であるという
そして、自分はOOに伝えたいことがあるという
「俺に伝えたいこと・・・・?」
「ああ、妹紅のことなんだが・・・」
妹紅。彼女はOOを誰よりも愛し、そしてそれ故に狂ってしまった悲惨な「元」人間であった
「映姫に見せられるまで分からなかったよ。まさか妹紅があんな風に変わるなんて・・・」
「教えてくれないか?妹紅が、ああなってしまった理由を」
「ああ・・・」
今明かされる、妹紅の狂気の原因、理由
それらを受け入れるだけの覚悟は、自然とOOのなかでは作られていた
「私がまだ幻想卿にいた頃、妹紅はまだあんな風じゃなかった。寧ろ、あんな風になるなんて少しも想像出来なかった。多分妹紅の心の支えとなっていた私が居なくなったのが原因だと思う。ともかく、あんたと一緒にいた妹紅は私の知る妹紅ではなかった。ただ、妹紅が変わり始めたと思えるようになったのは、私が病に倒れた頃からだった。医者が言うにはもう長くないんだとか。それをそのまま妹紅に言ったら、妹紅は泣き出してな。「死なないでくれ」「独りにしないで」「離したくない」。一言一句忘れられない言葉さ。それから私が死ぬまで妹紅は私に毎日会いにきた。動揺を見せないためか、作り笑いだったのは確かだったな。そして、私が死ぬ間際、妹紅は「ありがとう」って言ってくれたので、もう私が居なくても大丈夫だと思ったんだが・・・」
「妹紅はあんたに不老不死にさせようとはしなかったのか?」
「ああ、死なずに寿命を受け入れたいと妹紅には言ってたからな。ただ、妹紅があんたを不老不死にさせたのは、もう限界だったんだろうな」
「限界?」
「ああ。妹紅は元々あんたのような外来人で、幻想卿に来る前からずっと独りだったんだ。おそらく、妹紅自身は独りでいることには慣れていた。けれども、私と出会い、触れ合うことで妹紅は人と向き合うことを覚え、依存するようになってしまったんだと思う」
「だから、あんな風に・・・」
「妹紅と一緒に居ながら妹紅をあんな風になるのを止められなかったのは私のせいだ。すまない」
「いや、妹紅の気持ちを受け入れられなかった俺のせいだ」
「だが・・・・」
「俺は最低な野郎だ。妹紅の純粋な気持ちを自分の勝手な都合で踏みにじり、挙句、中途半端なまま逃げようとした」
「そんなことは無いさ。あんたは私以上に妹紅のことを理解しよううとしてくれていた」
「え」
「死んだ後も、妹紅のことは見守り続けていた。無論、妹紅と一緒にいたあんたも見させてもらっていた。あんたと居た時の妹紅は私といたとき以上の笑顔だった。このまま、私は忘れられていくのかと思ったよ」
「・・・」
「あ、あんたを責めている訳じゃないさ。寧ろ、昔を思い出して精神崩壊されたほうが困ったしな」
段々と知らされていく真実。受け入れられるはずだったのにも関わらず、背けたい気持ちで一杯だった
「話を戻そう。私が死んだ後の妹紅は、生きていないみたいだった。こう、抜け殻みたいだったんだ。一日中、家の縁側にぼーっと座っていて、たまに動いたと思えば私の家に訪れて必死に私の名前を呼ぶんだ。しばらくすると黙って泣きながら帰る。これが何日も続いた。あんたが妹紅と出会うまでな」
「・・・」
「私から言えるのはこのくらいだ。その先からは、あんたのほうが詳しいだろう?」
明かされた狂気の全て
電車はOOの気持ちとは裏腹に、ただ前に進むのであった
「しかし、「横浜」であんたが降りなくて良かったよ」
「え?」
「死者の世界、って言ったけども現実の世界とも繋がっているんだよ」
「じゃ、じゃあもしかして、あの時もし降りていたら・・?」
「ああ、あんたは元の世界に戻る。無論幻想卿の記憶を持って」
瞬間「降りればよかった」という考えが過ぎる
慧音はそれを分かっていたかのように指摘する
「降りればよかった、とでも思っているんだろう。いや、責めているわけじゃないんだ。もしかしたら、あんたは戻りたくなったのかなって」
「確かにそう思ったさ。けどもそれ以上に妹紅のことが気になってな」
「それを聞いて安心した。やっぱり、あんたが一番、いや、あんたしか私の代わり勤まらないな」
代わり。そう、この人物、上白沢慧音は死んでいるのだ
「そんなあんたに、頼みがある。この世界から戻ったとき、妹紅のことを受け入れて欲しいんだ。例えどんな形でも」
「・・・分かっているさ。寧ろ自分から受け入れる。そうして自分自身でけりをつける」
慧音はOOの言葉を聞くと安心したように笑い、
「そうか。そういってくれただけで、私は区切りが作れそうだ」
やがてアナウンスとともに終点である「大船」に近づく
慧音は「あ、ここで降りなきゃ」と、降りる準備をする
電車が止まり、ドアが開く。そして、慧音が降りる
「それじゃ、さよならだOO。・・・頼んだぞ、私の親しき友人を」
それだけを呟くと背を向けて階段へと向かう
ドアが閉まり、電車が動きだす頃にはOOには覚悟が出来ていた
(終わらせよう。そして、受け入れるんだ。例え、望んでいない結末だとしても)
車内が明るくなる頃、OOの意識はすでに遠のいていた
目が覚めると、そこはとある屋敷であった
そこはどこか見覚えのある場所だった
何度か訪れたことはあった。しかし明確には覚えていない
深く考えているうちに障子が開いた
「OOさん、おはようございます。お体の方はいかがでしょうか?」
入って来たのは以外にも、八雲藍であった
「いや、特には・・・」
そう言ってひっそりと体を撫でる
妹紅によってすでに死ねないようになってしまった自分の体
改めて、自分は現実に帰ってきたのだと実感する
「藍が居るってことはここは八雲家か。・・・もしかして、俺を助けてくれたのって藍なのか?」
「はい、あの時竹林からとてつもない妖気を感じたので」
「そうだったのか、いや、ありがとう」
「そんな、お礼を言われる程のことではありませんよ。それより、OOさんはあの時どうして竹林なんかに?」
「それは私から説明するわ」
声と共にOOの後ろから手が伸びる
「ゆ、紫!?」「紫様!」
「なによ、二人してそんなに驚いて」
声の主は八雲紫であった
「OO、あなたは妹紅とか言う娘と一悶着あったわね」
「ま、まあな」
「良かった、覚えてはいるのね。なら話は早いは」
紫はなにか重要なことを聞きたいのか、言葉を区切った
「OO。あなたは今の藤原妹紅としっかりと向き合うことが出来るかしら?」
その言い方は、まるで妹紅が変わってしまったとでも言いたいような言い方だ
だが、OOには無論分かり切っていたことであった
「ああ、その為にわざわざここに戻ってきたんだ。それくらいの覚悟はできてるさ」
その言葉に嘘偽りは無い。紫もそれを感じたのか、笑みを一つ浮かべた
「そう、それさえ聞ければいいわ」
紫は立ち上がり、障子の方向へ足を運ぶ
「行きましょう。彼女の元へ」
その時、藍が声を上げる
「そ、そんなの無理ですよ!彼女はまともに話の通じる相手ではないですし、第一OOさんはまだ病み上がりですよ!」
「藍、落ち着きなさい」
その言葉で藍は口を閉ざす
「話が通じないのはあなたが相手だったから。それに、彼はすでに不老不死よ。病なんてどうやってきにすればいいのかしら」
実際、OOが挫いた時の傷は藍が家に運んでいるときに完治してしまっていたのだ
「それに、私の世界、この幻想卿で苦しんでる人の姿なんて見たくないは。男と女の関係なら、尚のこと」
藍はすっかり黙ってしまった。それでも何か言いたいかのように体は小刻みに震えていた
「さて、OOさん。そろそろいきましょう」
「ああ。それじゃ藍、行ってくる。色々とありがとうな」
OOは布団から出ると紫の後に続く
その時、服の袖が引っ張られた。藍だ
「絶対に・・・もう一度会いに来てくださいね」
「・・・ああ」
時はすでに草木も眠る丑三つ時
だが、OOにとっては時は止まっているかのように、外は静かに思えた
「あなたには、謝らないといけないわね」
妹紅の家へと向かう中、紫はつかの間の沈黙を切り裂いた
「俺に?あんたが何を謝るってんだ?」
「今回のこと、すべてにおいてよ」
「・・・なぜだ?あんたは、一言で言えばただの傍観者、第三者にしかすぎねぇだろ」
「藤原妹紅。彼女の力は既にこの幻想卿の均衡を保つために無くてはならない程強大なものになってしまった。管理者である私からしたら、彼女の精神の狂いは何としても避けたかった。しかし」
「妹紅の心の架け橋となっていた上白沢慧音が病により急死。長年の孤独を塞き止めていた彼女の死は妹紅にとっては大きなダメージになり、遂には自暴自棄に。そこであんたが目を付けたのが、妹紅と関わりを持つようになった外来人、つまりは俺」
「・・・ええ、そうよ」
さすがの紫も驚いたのか、言葉を失う
しかし、OOの開いた口からでる言葉はまだ終わりではなかった
「もし、あんたが俺のことを、妹紅の精神を保つための道具だとしか考えてなかったとでも言いたいのなら、謝るのはこっちの方だ。元々今回の事の発端は俺にあるんだ。俺が妹紅の気持ちに素直に答えてやれなかったせいなんだ。だから、あんたが謝る必要はない」
「・・・あなたは本当に人間なのかしら?私が言おうとしていたことのほとんどを言い当てるなんて・・・」
「昔からこういう勘は冴えてたもんでな」
「ええ、その通り。私は物語を読みたいが為に、肝心な何かを見落としていたようなの」
「それに気づけただけでも万々歳だろう」
「随分と楽観的ですね」
「人間だからな。いつまでも後ろ向きには考えてられないんだ」
「そうでしたわね・・・・・・・さて、着きましたわよ」
「おお、そうか。ここまでの案内ありがとな」
「いえいえ。・・・それでは、ご健闘を心からお祈りしていますわ」
紫はそう言い残すとスキマの中へと消えてった
OOの目の前に映るのは妹紅の家、そのもの
果たして妹紅は、そしてOO自身は彼女を受け入れることができるのだろうか
答えを見つけぬまま彼は家の戸を開けた
家の中は外よりもしん、としていた
何よりも全体が暗く、そしてひんやりと冷たい
まるでこの家そのものが妹紅の心を表しているようであった
ゆっくりと襖を開け、寝室に入る
そこに、妹紅は居た
「妹紅・・・」
「誰?もしかしてOO?」
妹紅の声だ。しかし以前よりもか弱くなってしまっている
「ああ、俺だ。OOだ」
「でも嘘なんでしょ?あんたがOOだとしても、また、私の前から消えちゃうんでしょ?」
「違う、違うんだ。妹紅、俺は確かに戻ってきた」
「嘘、嘘よ・・・」
「嘘じゃないんだ」
「嘘よ!!!」
妹紅が甲高い声を出す。瞬間あらゆる場所からみしみしと音がする
「嘘よ・・・私は・・・もう一人ぼっちなのよ・・・愛する人も、愛してくれる人も・・・もう居ないのよ・・・」
言葉よりも体が先に動き、気がつけば妹紅を抱きしめていた
「・・・これで信じてくれるか?」
「O・・・O・・・・」
「ごめん。俺が弱かったばっかりに妹紅の気持ちに気づいてあげられなくて。妹紅ばっかり苦しい思いをして。挙句、俺は気づかない振りをして目の前に居る妹紅から目を逸らして。本当にごめん」
「いや・・・」
「そうだよな。妹紅にはただの同情にしか聞こえないよな」
「そんなことはない!!寧ろ、OOがちゃんと私のことを見てくれてて嬉しいよ・・・」
「そうか・・・」
「ねぇ、今度こそ、私の前から消えたりしないんだよね。私と一緒にご飯を食べて私と一緒に布団で寝て私と一緒に本を読んでいつでもどんな時でもOOは私の前からいなくなったりはしないでずっと、ずっとずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと私と居てくれるの?」
「勿論、その為に俺は妹紅の元に戻ってきたのだから」
「よかった・・・誓ってくれるんだね。ありがとう、OO」
OOはそこで意識を失った
「・・・・ここは」
「おはよう、私の、私だけのOO」
目が覚めた所は全ての始まりである、あの部屋だった
「なぁ妹紅、これは何なんだ?」
OOは手首に着けられた手錠の違和感に気づく
「それは私とOOの愛の証さ。これを着けている限り、私の好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで堪らないOOはずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーと、それこそ永遠に私のものなのさ」
「こんなものを着けてなくとも俺は妹紅から逃げたりしないさ」
「優しいよね、OOは。けれども人間は言葉だけだとなんでも忘れてしまうんだ。だから愛もなにか形として残しておかなきゃならないんだよ」
「そうなのか、さすがは妹紅だな」
OOは妹紅の頭を撫でる
「えへへ、ありがとう」
妹紅は嬉しそうであった
「そうだ、OO。食べて欲しいものがあるんだ」
そういって妹紅は紅く彩られた肉のようなものを差し出す
「私の、肝だ」
肝。それを食べてしまえばもう二度と、目の前の蓬莱人からは逃げられなくなる
だが当のOOは、寧ろそれを望んでいた
「奇遇だな、妹紅。俺も同じことを考えていたよ」
そういってOOは自ら腹をえぐり、血を撒き散らし、肝を引きちぎる
「だ、大丈夫か!?OO!?」
「へい・・・きさ、も、妹紅がおってきた・・・傷に比べりゃ・・・」
「さぁ・・・食べてくれ。蓬莱人である、俺の肝を」
「あ、ああ。勿論いただくさ」
「それじゃ、俺も妹紅の肝をいただくか・・・」
二人は互いの肝を食べあう
全てを食べ終わる頃にはOOの腹の大きな穴は塞がれていた
「ご馳走様。おいしかったぞ」
「ご馳走様。こちらこそ」
妹紅はOOに抱きつき、唇を重ねる
両者の口はどちらもほんのりと血の味がした
「・・・永遠に二人で過ごしましょうね。あなた」
「ああ・・・もちろんさ・・・」
夜空に浮かぶ満月は、まるで二人を祝福するかのように、輝かしく光っていた
<終>
最終更新:2015年06月19日 22:33