何かを出せば最後までもがくように求めるのが外の世界の常識であった
その常識に浸っていながら今更それが悪いと言うつもりはない。けれども何度も求められればうんざりするのも当然な筈だ

そんな外とは違い、迷い込んだ先の世界は酷く平和であった
何を出しても必要最低限しか求められない
悪く言い換えれば皆自分のことで精一杯なのだがうんざりする程外に浸った自分としては欠点などないように思える

そんな良さを後押ししたのも彼女のお陰だ
彼女は素晴らしい。おそらく外界の女性の美や他のことでは到底敵わないほどに
彼女と自分は種族こそ違えど思いは共感できていた
彼女が興味を持つものには自分も興味を持ち、持たぬものにはとことん持たなかった
やがて自分と彼女はその一生を添い遂げることを決意した

添い遂げる中、世の情勢は変わり生きにくくなっていった
それでも自分と彼女は周りが呆れるほど、不安に思うほどに愛し合った
その頃に自分は人間を捨て彼女と同じ種族になっていた
幸せだった。元の世界のことなどとうに忘れ、眼前の幸せの道を彼女と二人で歩いていた

それでも、世の情勢は巡るように変わり続けた
その度に彼女は不安になり私を求め続けた
「行かないで」「消えないで」の言葉は未だに耳に残っているものの一つだ
外と同じだな、と思ったがこの頃は自分も彼女を求めていた
いわゆる共依存なのだろうか。とにかく精神がある意味衰退していたに等しかった
それでも自分は幸せだった

とうとうこの世界でも外と同じ様に戦争が勃発した
自分と彼女は必死に逃げた
ある時は南、ある時は北へと
しかし必死の逃避行も虚しく、ある時流れ玉が自分に当たってしまった

痛みはあったが、外傷というよりかは精神面での痛みが大きかった
彼女が泣いたのだ。尋常じゃないほどに
それは初めてであった
彼女は持てる力を持って自分を治癒してくれた
しかしその行為も虚しく、自分は死を迎い入れた
最期に見えたのは啜り泣く彼女の姿と、彼女の姿をした何かであった

死後自分は旅をしていた
先の見えぬ道をただひたすら歩いていたが、何処も見覚えがあった

彼女と共に歩んだ道であったからだ

ここを通るたび自分は無意識のうちに彼女を探していた
やはり自分は彼女に依存していた
そして見つけ出した

見つけ出した彼女は変わらずの笑顔であった
変わらない笑顔を見せる彼女に触れる。瞬間

それは幻影かの様に崩れ落ち、粉となって自分の前から消えた

自分は愕然とする
長い時間かけて、何度も何度も声を出して、
呼び求めた彼女はいずれも偽物でしかないからだ
涙は出ない。とうの昔に枯れ果てたからだ
血は出ない。とうの昔に絞り尽くしたからだ

だが声は出る。何度も何度も、何度も出しているのに一向に枯れる勢いがないからだ
自分の声を振り絞り、今までよりも大きい声で彼女の名を呼ぶ

「フラーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!」


「○○?○○なの!?○○ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」



「また、だわ」
紅魔館の図書館は地下室の上にある為、地下の振動はよく伝わる
そして、その振動の正体はわかっている為、レミリアは魔術書を持ち地下室に向かおうとする
それをパチュリーが止めた
「レミィ、これ以上は駄目よ。いくら貴女でも身体の限界を過ぎてるのは分かってるでしょう?」
レミリアの身体はボロボロであった
ここ約500年間、時間を問わず暴れ出す二人、フランドールと○○の暴走をレミリアは不眠不休で止めていたのだ
「お願いだからこれ以上は止めて。貴女まで消えてしまったら今度こそ二人は止められなくなるのよ、だから此処は抑えて、私に任せて」
「止めてパチェ、私をこれ以上迷わせないで」
パチュリーの抵抗虚しく、レミリアはずかずかと図書館から地下室に向かう
「これは罰なのよ。二人が亡霊となって暴れ出す様になってしまったのは私のせいなの。あの時…400年前の大戦争に巻き込まれる様なところに私が住んでいたからあの二人まで巻き込まれてしまった」
「……」
「本来ならあそこで死ぬのは私一人で十分だった。なのにあの二人が死んでしまった。……この責任は私が一生を捧げても払いきれない。400年どころか800年も10000年捧げてもまだ足りないのよ。それほど幸せの代償は大きいのよ。」
喋っている内にレミリアは図書館の入り口に立つ
ドアに手を掛け、開ける
「……ごめんなさいパチェ。貴女の心配を無駄にして。でも私に出来ることはこれぐらいしかないの」
やがて閉まるドアと共にレミリアの姿は見えなくなる

「…最早形式美ね」
館全体に結界を張りながらパチュリーは呟く
この約500年間、あの二人はほぼ毎日暴れ続けた
理由は実に簡単だ。どちらも求めているのだ
フランが○○を、○○がフランを
死後もその愛は途絶えず、寧ろ生前よりもずっと大きくなった
「本当に愛は厄介ねぇ……だからあの時少し離しておけばよかったのに……」
心の不安に負けて放置していた自分を恨み、今日もまたパチュリーは結界を張るのであった

ー自分が信じたものほど、自分が嫌うものは潜んでいるのだろう

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年10月08日 23:36