「××ちゃんが、軽自動車に突っ込まれた」
それを電話で聞いて、俺は放心状態になった。
××ちゃんとは、今日初めてのデートをする予定だったのに。
俺は、ダッシュで病院まで走った。
「先生!××ちゃんは、どういう状況なんですか!」
「…非常に難しい状態です。特に脳からの出血が…」
俺は二度目の放心状態になり、気づいたら医者の胸ぐらを掴んで叫んでいた。
「厳しい状態ってなんですか!はっきりしてください!あなた医者でしょう?お願いですから……××ちゃんを、助けてくださいよ」
最後は床にひざまずき、泣き崩れていた。
「「……」」
二人が黙っていると、看護師の声が聞こえてきた。
「先生!××さんの意識が戻りました!…○○さんですよね?…××さんが話したいそうです」
え、意識が戻ったんだろ?
話したいって、なんだ?
助かったんじや、ないのか?
混乱したまま、集中治療室に連れていかれる。
「…こちらです」
 
目の前には、体中に包帯を巻き、多くの管を通された××の姿があった。
 
俺は思わず、顔を押さえた。
しかし、頑張って××の元へ行く。
「あ…さん…」
××が喋ろうとしている。
「もういい…喋らないでくれ…お願いだから…」
「ぁ…ぅ」
「え?何?」
「……ぃ……今まで……ぁりがとぅ……」
それが引き金になったように、××はガクンとうなだれた。
「ねえ…嘘だろう…」
しかし、××の顔は冷たくなっていく。
「うああああああああああーーーーーー!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…さん、○○さん、大丈夫ですか?」
俺は一気に現実に引き戻される。
「ああ、有難う御座いますさとりさん…少し外の世界のことを…」
目の前にいる少女は、俺が幻想入りして初めて会った人…いや、妖怪か。
この前聞いてみたが、確か
 
「なんの能力も持っていない」
 
っていってたな…
「そう…何か悩み事があったら言って下さいね…」
「……はい」
さとりさまは、今では俺の保護者のようなもの。
本当に助かっている。
 
---○○がさとりに向ける思いは、感謝だった---
 
……○○には、私の能力は教えていない。
一目惚れした相手に避けられるのが怖かったのだ。
……でも、やはり行動にしなければ。
さっきの○○の心を読んで思った。
○○が、××とかいう奴のことを忘れられるように……
 
○○は、ぜーんぶ私のもの。
 
---さとりが○○に向ける思いは、独占だった---
 

××なんて女より、私の方が良いに決まっている。
私は、心を読み、あなたの望みをなんでも叶えてあげられる。
 
「○○さん、美味しいですか?」
「はい、とっても美味しいですよ」
……少し塩分を控えめにしようかしら。
 
「○○さん、湯加減は如何ですか?」
「はいー。ちょうどいいですー」
……もう少し温度を上げようかしら。
 
「…………」
「なんですか?さとりさん」
「いえ、なんでもないわ」
……何で○○は感謝の気持ちしか向けてくれないのかしら。
こんなにあなたに尽くしているのに。
あなたが望むのなら、何でもしてあげるのに。
だから、安心して××のことを忘れてよ。
 
 
……へえ、面倒臭い男が最近いるの。
じゃあ消しましょ。
……へえ、付きまとう女がいるの。
じゃあ消しましょ。
 
……なんで暗い顔してるの?
……え?周りの人が死んでいくから疫病神扱いされてる?
……じゃあ、周りの人をみんな消しましょ。
 
こんなに尽くしているんだから、早く、感謝以外の感情も頂戴よ。
ねえ。
ねえ。
頂戴よ。

○○は、一人で部屋に籠もり、考え事をしていた。
「……最近、変な事が起こるなぁ」
思っただけで要望が通ったり、身の回りの人が死んだり。
あまりにも偶然とは思えない事が重なっている。
「……俺のダチも、死んじまったし」
人が死に始めてから、人里に行っていない。いや、行けなくなっている。
周りから殺人鬼やら、悪霊やらいわれている。今では誰も口を聞いてくれない。
「……こうなったのは」
○○は無意識に口に出していた。
「……さとりさんと会ってからか……って!関係ある訳ねえだろ!何考えてんだ俺…!」
無理やり自分を納得させようとする。
しかし、○○は否定しきれなかった。
「……はぁ」
○○は、自分が嫌になった。あんなにも感謝してるさとりさんが、そんなことする訳が無い。きっと偶然だ。
「……よし。洗濯でもするか」
そう言って、○○は立ち上がった。
 
 
「どうしようどうしよう……」
さとりは、○○の部屋の前にいて、偶然話を、心を聞いてしまった。
「もし○○が私の能力を知ったら……」
きっと、いや、絶対。
○○は私から離れていってしまう。
「うわああぁぁぁん……」
さとりは手で顔を覆い、泣いた。
まだifの話だというのに、本当のことのように泣いた。
やっと手にした愛。それが失われようとしている。そう考えていた。
 
涙は、しばらく枯れることはなかった。


 
「さとりさん、最近元気が無いようですが、大丈夫ですか?」
「え、ええ……大丈夫よ」
○○の心を、××じゃなくて私が独占している。
数日前の私なら、すごく喜んでいただろう。
しかし今は、○○の気持ちが純粋であればあるほど、胸が痛む。
いつか、○○が私の能力に気づいたら、○○のこの思いはひっくり返るだろう。
恐怖するだろう。
軽蔑するだろう。
……私から、離れていくだろう。
それは、決して夢物語ではない。
勘のいい○○なら、いつか必ず気づくだろう。
「…………!」
私は、思わずしゃがみ込む。
「大丈夫ですか!?さとりさん!?」
止めて、そんなに心配しないで。
優しくされればされるほど、あなたを失いたくなくなってしまう。
ああ、どうせなら、いっそ……
「……○○さん」
私はゆらりと顔をあげる。
「っ!は、はい……」
「……私のこと、全て…教えてあげます」
いっそ、今嫌われよう。

私は、全てを語った。能力のこと、○○への独占欲、××への嫉妬心……
否、全てではない。怖かったのか、周りの人を殺したことは言わなかった。
 
「…………」
途中で自分でも何を言っているか分からなくなっていた。
しかし、とりあえず今の気持ちを言った。
「……御免なさい」
それは、色々な意味を込めた謝罪。
やはり口に出すと、とてもつらい。
涙が止まらない。
そんな中、○○は言った。
「……なにがですか?」
「えっ……」
なにがって?決まってるでしょう?あなたを、騙し続けてたんだから……
「逆に言ってくれて、有り難う御座います。成る程、だから色々思い通りになったんですね~」
うんうんと頷く○○。
私は、予想してた答えと180度反対で、呆然としていた。
「……なんでかって顔してますね。嫌われるとでも思いました?
 ……僕はさとりさんに感謝してるんですよ?」
……そうだ、○○は私が好きになった人だ。人を傷つけることを言うはずがない。
「…………っ」
改めて、○○のことが好きだと確信する。
「……それに」
「?」
「僕もさとりさんのこと好きですから」
「えっ……」
思考が止まった。
「そんな……そんなはずは無いわ……あなたは……そんなこと一度も思わなかった……」
「うーん、そうですね。じゃあちょっとだけ訂正します」
そう言うと、○○はゆっくりと言った。
「“今”好きになりました」
「…………!」
心を読む。その言葉に、偽りは無かった。
○○は、続ける。
「つまり、私のことをそこまで思ってくれたんですよね?恩人にそこまで思われて、嬉しくないはずないですよ。人に言われて、初めて気づく愛もあるんですから」
「でも、私は……」
まだ、あなたに人を殺したことをいっていない。
「ああもう、あなたが言っていた独占的な愛はどこいったんですか?もっと私を求めて下さい」
 
……嘘も方便。知らぬが仏。
今は、これでいい。
いつか、私の心の準備が出来た時に話そう。
きっと、彼は許してくれる。
「そうね……お言葉に甘えるわ」
今は、この幸せの中に。

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最終更新:2015年10月08日 23:49