白蓮が出てきたので龍神像前を去った(逃げた)○○だが、
今は仕事を見つけ、姉に金を返さなければならない。
それも一週間以内に。
いつもの様に約束を無視してもいいのだが、さすがに3回目はまずいと思ったのでその選択肢は無い。
すでに良さそうな仕事を見つけ、現場に向かっている最中である。
永遠亭とかいう所らしい。
何でも新薬を試したいという話だ。
たった3日で給金は高い(そして健康の保証はしない)という話だ。
迷いの竹林を迷わずに着き、ちびのウサギと話をする。
「という訳でその治験とやらを受けにきたんだが」
「あんたが働く? きっと明日は大雪ウサ」
妖怪も年寄りほど、言葉に遠慮が無くなっていくものらしい。
隣を担架が駆け抜けていく。担架の上を見ると、
ブレザー姿のウサギが痙攣しながら運ばれている。
「俺生きて出られるかねぇ……」
「あんたは無駄に頑丈だから大丈夫ウサ」
治験内容は眠り薬との話であるが、その粉薬は虹色だった。
どう見てもヤバいお薬である。
「依存性とかないよなコレ」
目の前の女医に聞く。
「夢を見るだけだから大丈夫よ。多分」
手渡されたヤバ気な薬を水に溶かす。
特に色の変化は無い。コップを傾けて一気に飲み込む。
「味はどうかしら? 匂いは?」
「……どっちも無いな」
何やら書き込んでいるが○○には関係の無い事だ。
(何にも起きないn)
突然、目の前が真っ暗になる。
そして夢を見た。
洗っても、埋めても消えない、自分の過去を。
コレはどういう事だ!!
鬼子だ…鬼子が生まれた……
殺せ、妖の子はいつか人に仇なす
この子は■して■い!
子はすぐ死んだという事にしろ
「お前は何故生きる?」
心臓を突いたはずだ!
吊るせ、明日、法師様を呼ぼう
「生きているから」
ご■■ね、あん■事■■て……
あの人達は■してあげて……
■の事は許さ■いでいいから……
いく■でも恨■で■■から……
「こんなに」
妖怪め、切り殺してやる!
半妖風情が、貴様など同胞などでは無い
「辛く」
うわぁ!ば、化け物だ!!
人に上手く化けたが、私の目はごまかせんぞ
「苦しいのに」
お、俺を……だ、騙したな……!
よくも……よくも……
それでも生きてやるっ!! 誰が拒もうと、誰が嫌おうと、俺だけは俺を愛してやる!!
「目覚めはどう?」
「……最低だ」
目を覚ました○○は吐き捨てるように答えた。
清潔そうなシーツの上から降り、そのまま部屋を出ていく。
「お疲れ様、お金は受付で受けとってちょうだい」
久しぶりの纏まった金もさっき見た悪夢を掻き消してくれなかった。
どうにも過去を拭いきれない。未だに頭にこびりついている。
(もう関係ない事だ、白蓮も慧音も関係ねぇ)
慧音を姉では無く昔の呼び方で呼んでいる事に気づいていない辺り、
過去を思い出す事は○○にとってよほど嫌な事なのだろう。
冷静になりきれていない。
(金は返して……それからどうするか)
いつも通りに戻るだけだろう。つまり、自堕落な生活に戻る。
私は時々昔の事を思い出す時がある。
○○という半妖に対し、自分があそこまで関わりを持った時の事だ。
まだ封印される前の話になる。
あの頃、私は妖術で死と老いを遠ざけて、自分の妖術を維持するため、
自分の欲のために妖怪を助けていた。
「酷く凶悪で手に負えない妖怪がいる」
そんな話を聞いたのは何時だったか。
あちこちで戦が起き、僧すらも血生臭い事に精を出していた。
そんな世だからか、人は不安に駆られ、ただの盗賊を妖怪だと間違えるような事も多くあった。
その話もそれだと思っていた。
「あの山に入ったお侍も戻ってこねぇし、尼様の法力でどうにかできねぇですか?」
そういった少女はその化け物に父親を殺されたらしい。
父親は化け物退治に赴き、そして戻って来なかったそうだ。
「ええ、仮に妖怪なら二度と悪さ出来ないようにしましょう」
私はその妖怪がいるという暗い山に向かった。
最終更新:2015年10月11日 20:55