霊夢/21スレ/344




夕陽に染まる空を見上げながらうとうとしていると背後から音がした
微かに聞こえる声で誰だか分かったので振り返らず、聞かなかったことにし、再び空を見上げる

「○○……?」
無視が通じたのか、名前を呼びながら彼女はー博麗霊夢は自分に近づいてきた
「なんで黙っているの……?私の声が聞こえないの……?」
いつもの通り、自分の前にしか出さない弱々しく、またたどたどしい声だ
どうやら心が疲れたのだろう
「ねぇ…答えてよぉ……ねぇ……」
このままだとそろそろ彼女はいつものように泣き出すのだろう
だがそれでも振り返らない
「○○……」
振り返らない
「ねぇ……○○…」
手を回され抱きつかれてもだ
「ねぇ……ねぇ……」
決して振り返らない
「聞こえてるんでしょう……?ねぇってばぁ……」
背中越しに冷たく、温かいものが伝わった。彼女は今涙目のようだ
「○○ぅ……○○ぅ……」
今度は顔を埋めて泣き出した。手は先ほどよりも硬く、がっちりと締められている。その見かけからは想像できないほど強い力にも思える。精神が弱っていても物理的な力は弱らない、流石博麗の巫女とでも言うべきことか
「わたしがわるかったからぁ……わたしがぁぁぁぁぁぁああああ」
ダムの決壊のごとく、彼女の涙が溢れ出した

……駄目だ、ここで振り返ってはいけない
「ごめんなさぁいい……ごめんなさいぃ……」
駄目だ、駄目だ、振り返ってはいけない、抱きしめ返してもいけない、許してはいけない、キスなんて論外だ
「ねぇ……返事してよぉ……返事してってばぁ……」
ああああああああああああ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!
惑わされるな!ここで振り返ってしまっては霊夢を余計駄目にしてしまう!抑えろ!もう少しだから!


……ーもう少しで、霊夢は自分が死んだって理解するから、もう少しだ……



「やっぱり、今日も変わらずかぁ……」
神社の空高く、周囲に張られた結界にギリギリ付かない程度のところで魔理沙は霊夢の様子を伺っていた
……○○がこの世を去ってからの数日で、霊夢はすっかり壊れてしまった
もはや重症で手の施しようがないほどに精神は衰弱し、かつての親友であった魔理沙を含め、霊夢の目には誰も映らなくなり心を完全に閉ざしてしまった
終いには○○が死んだことを否定し始め○○の死体をまるで生きているかのように接し始めたのだ
「……スキマの言うことを私ももう少し真面目に伝えてやりゃよかったのかな」
神社の反対、里や山のある方向に魔理沙は顔を向ける
まだ痛々しい傷跡がいくつも残っていた。所々で黒い煙はあがっており、地面は細かく割れ、半分近く抉れた山は未だに緑が戻らない
全て、暴走した霊夢の仕業であるものの数々であった
「本当の幸せほどすぐになくなるもの、か……。神はきっと幸せを知らなかったんだな」
ぼそりと呟くと魔理沙は箒に跨り森を目指して神社から離れていった

眼下の神社では、霊夢は安静にあったらしく男の膝でスヤスヤと寝息を立てていた

それを動かぬ男は眉ひとつ動かさず、しかしあたたく見守り

目に見えぬ男は優しく彼女の頭を撫でるのであった









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最終更新:2019年02月02日 17:22