今頃、あの人は何をしているだろうか――
ちゃんとご飯食べているのだろうか、心配だ――


あの人、○○とは私が人里に向かう途中で出会った男だ。最初に見つけたとき彼は道端で倒れていて脚から血が出ていた。放っておくわけにもいかない。しかしこの姿のままではまずい。とりあえず人の姿に化けて、彼に近づいた。
「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」
どうやら脚の出血はたいしたことはなさそうだが――
「.......ん.....あ......ここは.....?」
「よかった、意識が戻ったようだな」
「.....あんたは?って痛てぇ!!!!」
「もしかしたら足が折れているのかもしれないな。自己紹介は後だ。今、治療に使えそうなものはないんでな。お前の家は何処だ?」
「...あ...ああ、里の呉服屋の近くだ。....ってうわわ何すんだ!?」
「おぶってそこまで運んでやるんだ。そんな脚ではあるけまい?」
「う...動けねえけどよ、女におぶってもらうなんて......」
む、歩ける状態ではないのにわがままな奴だ
「じゃずっと此処にいるか?」
このままではなかなか決めなさそうなので少し強く言った。
「......家まで...お願いします...。」

「私は藍だ。人里から離れた場所に住んでる。」
いや、住んでる場所まで言わなくてもよかったかな。後でめんどくさいことになるかもしれないし。まあいい。こいつの看病したらとっとと帰ろう。人と長く関わるのは面倒だ。
「俺は○○だ。」
○○か、いい名だ。
「○○よ、お前なんであんな道端に倒れていたんだ?」
「え?...そっ..それは、まあ秋になったし?山の紅葉はすごいんだろうなぁと思いまして...」
「山に入ったのか」
「うっ...でも実際素晴らしかったぞ!いやあ藍さんも観に行ってみるといい!」
「話をずらすな。観に行くだけでそんな怪我するまい。何があった?」
「よ...妖怪に会って......。」
「攻撃されたのか...。」
「弾幕の衝撃で坂を転がり落ちちまってさ....。んで気が付いたら藍さんが。」
そりゃ妖怪の山なんだから妖怪はいるでしょうに...。最近の人間は妖怪の危険性が分かっていないのか?妖怪からしたらいい餌だな。

「言いたいことは色々あるが、まずは怪我の治療が先決だ。もうすぐ里に着く。」
「すまん...。ありがとう。必ず礼はする。」
「礼など気にするな。お前は治療に専念しろ。」
「ああ、そうする。........優しいな藍さんは。」
「人は皆、助け合って生きてるだろう?私だけがということはないさ。」
「いや、優しいよ藍さんは。」
「......そうか....」
なんだ?急に...。誰だって目の前で倒れてたら声ぐらいはかける。怪我をしていたら尚更だ。放ってはおけない。人喰い妖怪は別だが。.....っと、もうすぐ呉服屋だ。
「ああ藍さん。そこだ。そこの家が俺の家だ。」
ここが――?
なんだか随分ボロボロだな。

ほら、脚だして。」
「こうか?.....いっ!!痛てぇ!!!!」
「反応が大げさだ。少しは我慢しろ。」
「ぐっ....!!お...終わったか?」
「あと少しだ......。ほら終わったぞ。どうやら折れてはいないようだ。さすがに私も詳しくはわからないからあの八意の医者に診てもらうのが一番かな。」
「ん。わかった。ありがとう藍さん。ほんと助かったよ。」
「どういたしまして。さて、○○はまだ昼飯を食べていないだろう?何を食べたい?」
「いやいや、飯まで作ってもらっちゃ悪いぜ。怪我の手当てだけで十分だ。これ以上世話にはなれん。」
「そんなこといって、その状態で作れるのか?作れないだろう?遠慮するな。」

こんなのでまた怪我したなんて言われたら気分が悪い。飯炊きぐらい頼ってほしい

「...わかった、お願いするよ。」
「最初からそうしろ。で、何にする?」
「藍さんが作れるものでいい。俺、普段料理なんてしねえからな。なんでもいいんだ。」
「○○、食事はちゃんと偏りなく摂らないといけないぞ。」
「......慧音先生みたいなこと言うんだな、藍さん。」
「大事なことだ」
「まあ、任せるよ。」
「任された。」

早く良くなるよう沢山食べてもらわないとな。毎日、紫様のお食事を作っているんだ。
腕に縒りを掛けた料理を作ろう。楽しみにしていろ、○○――

「ほら、できたぞ。冷めないうちに食べてくれ。」
○○の家には物が少なく、大した量は作れなかった。
それでも味には自信がある。

「あー、ありがてぇ。美味そうな匂いだ。いただきます。」
「......どうだ?口に合うか?」
「...うめぇ。うまいよ藍さん!驚いた、作る人が変わるとこんなに飯も変わるもんなのか。」
「そうか、そうか。よかった。」
自信はあったが、まずいと言われたらどうしようかと。気に入ってくれてよかった...。

「いやあ、うまい、うまい!この魚の焼き加減もなかなk...ごっふ!ごほっ!!ごほっ!!!」
「どうした!?や、やっぱりまずかったか!?い、いやそれよりも○○!大丈夫か!?しっかりしてくれ!!」
「うっ!み...みず......。]
「水だな!!わかった!すぐに持ってくる!」
急いで、急いで持って行かなきゃ!

「ほら水だ!持ってきたぞ!」
「ん!んー........ぷはぁ!!ありがとう!...はは、あまりに美味いんでつい慌てて....。」
「えっ?ま、まさか咽ただけなの?」
「うん、咽ただけです」
「なんだ...........。まったく、今度は落ち着いて食べなさい。」
「へへ、分かったよ。でも藍さんがあんなに慌てるなんてな。」
「だ、誰だって慌てるさ!!ほんと焦ったのだからな!」
「すまん、すまん。でもなんか水渡してくれた時の顔が藍さんらしくなくてさ。」
私らしくない?○○は私にどんな印象を受けているんだ?

「...なんだそれは。どういう意味だ...?」
「ちょっと可愛かったかなーって話。」
「ばっ!ばか!からかうんじゃない!!こっちはお前が心配だったのに!」
「ははは、今後は気を付けるから。」
「はぁ、お前のこの先が心配だよ...。」
この調子ではまた何かやらかしそうだ...。なんだか不安だ......。

それからというもの、私はほぼ毎日○○の家に通った。
朝、彼が起きる前に朝食の支度をする。彼は何でも美味いと言ってくれるが、特に味噌汁を気に入ってくれたようだった。少し薄めの赤みそ。出汁は煮干しで。具は豆腐と油揚げ。それに少々ネギを添える。シンプルだが一番美味いと彼は言う。

朝食後、さっと洗い物を済ます。
食器を洗うぐらいなら俺でもできると手伝おうとしていたが怪我人は怪我人らしくしていなさいと一喝した。

○○は度々、手伝うと申し出ていたが、私は足の怪我を早く治すことだけを考えろと断った。
「はぁ~......。藍さん。あんたにゃ世話になりっぱなしだ。早いとこ治して礼がしてえよ。」
「気にするな。私が勝手にやっていることだ。それより一度は八意の医者に診てもらった方がいいだろう。洗濯物を干し終えたら行くぞ。」
「そうだな。早く治したいし、行ってみるか。でもあそこって迷いの竹林があんだろ?大丈夫なのか?」
「あの竹林には案内人がいる、心配ない。」
「そうかい。ま、なんとかなるか。」
私に医学の知識があればわざわざ行かなくても診てやれるのだが.......。仕方がない。行くからにはあの医者にはしっかり診てもらわねば......。


「なぁ、藍さん。別にまた背負ってもらわなくても多少は歩けるぜ?」
「そうかもしれないが、無理はするな。なに直ぐに着く。そうだろう?藤原妹紅」
「まぁね。あそこは遠いようで近いんだ。昔はもっと奥にあったんだが、人里の連中が来るようになってからは距離が縮んだよ。とはいえ、普通の人間が入ったら間違いなく出れなくなるがな。」

この竹林はいかな大妖怪も迷わせる力がある。その力に月の頭脳と云われている八意永琳が目を付けた。月の民から蓬莱山輝夜を守るため、そこに永遠亭を建てた。
その蓬莱山輝夜と因縁深い、藤原妹紅が迷いの竹林から永遠亭まで案内してくれる。

本当ならこんな奴の手を借りずさっさと八意のもとへ行って、○○の怪我の具合を診てもらいたいのだが...。
私でもたどり着くのが困難なうえ、○○に私が妖獣だということを知ってほしくない。

いくら助けるためだとはいえ、妖怪が人に化けて近づいたのだ。やはり、いい気はしないだろう。こいつに....、この人に嫌われるのは紫様に嫌われるのと同じくらいつらい......。
なぜつらい?......それはこれほどまでに世話してやってるからだろう。
いや、しかし何か違う...。紫様は主人であって私はその式神である。式神はなにをおいても主が絶対。それに私は式になったあの日から、紫様を敬忠してきた。
なのに...。

「藍さん?どうしたんだい?具合でも悪いのか?」
「...えっ?あっ、い、いや大丈夫だ!何でもない!」

○○に突然話しかけられ、はっとした。

「ん~?なんだ?あんたも病人かい?少し顔色悪いぞ。」
「私なら、大丈夫、平気だ。心配いらないよ。」
「無理はしない方がいいと思うけど...。ま、あとちょっとだ。頑張んな。」
「ああ。...○○は大丈夫か?足、痛まないか?」
「平気、平気。藍さんもあんま無理すんなよ?」
「少し、ぼうっとしていただけだ。気にするな。」

そうだ、思慮分別するのは後だ。今は○○が優先。

「あ、見えてきた。あそこが永遠亭。あとは自分たちで行って。私の案内はここまで。帰りはあそこの兎にでも頼んでくれ。」
「助かった、藤原妹紅。では、また。」
「ご案内、有り難う御座いました。藤原さん。」
「いいって。じゃあね、おだいじに。」

さて、早いとこ、怪我の具合を診てもらおう。何でもないといいな、○○

「へぇ、結構、人いるんだな。」

永遠亭の中に入り、○○を椅子に座らせた。どうやら暫し待たないといけない様だ。....仕方がない。

「そうだな。すまないな、○○。もう暫く我慢してくれ。」
「別に藍さんが謝るようなことじゃないでしょ。気長に待つよ。」
「そうか。○○がそう言うなら...。」
「でも待ってる間暇だな。よかったらさ、藍さんの話とか聞かせてよ。」
「私の?いったい何を話せというのだ。」
「ほら、俺のことは色々と話しただろ?でも、俺、藍さんのことよく知らないんだよな。あ、いや、別に話したくないならいいんだ。ただ藍さんって人里には住んでいないっぽいから気になって...。」

そういえば、○○のことは本人から聞いた。○○は幼いころ、両親を亡くしているらしく、父母共々、外来人で親戚はいない。それをみかねた里の一人が○○を引き取り、育てていった。しかしその者も昨年の年頭に亡くなったらしい。
その話を聞き、憐れだと思った。
きっと、こいつは今でも寂しい思いをしてるに違いない。
ならば、今だけは、私がその空いた心を埋めてあげよう...。そう決めたんだ。

「...まぁ、話したくないことぐらい誰にだってあるよな。無神経だったよ。ごめん。」

また、あれこれ考えてしまった。
「...あ、そ、そんなことはないが......。うん、いずれ話すよ。」

正直、あまり話したくない。嘘をついて私のことを伝えてもそれは本当の私じゃない。だが、本当の私を伝えても、そのせいで○○が私を避けるようになるかもしれない。嫌われるかもしれない。そんなのは嫌なんだ......。

「そっか。ああでも、だいぶ人減ったんじゃないか?...っお?」
「○○さん、お待たせしました。中へどうぞ。」

八意永琳の弟子、鈴仙・優曇華院・イナバ。
ようやく、診察か。

「ではいくぞ。○○。」


「で、今日はどうされました?」

永遠亭の主治医。八意永琳。

「2週間前くらいに脚を怪我しまして。まだ少し痛むので診てもらいに。」
「成る程。...ちょっと診せてね。此処が痛いの?」
「ええ、...いてっ。」

○○が顔を歪ませた。

「おい!優しくできないのか!!痛がってるぞ!!」

「大丈夫よ、大したことはないわ。随分としっかり処置されてる。この分だと後、もう2週間すれば治るわね。湿布でも出しておきましょう。」

そうか...。よかった......。

「藍さんのおかげだ。ほんと、有り難う。」
「いやいや、油断はするな。まだ治ったわけではないのだぞ?」
お前の行動はいつも肝を冷やす。私がいなければどうなることやら...。

「...藍?...あなた、あのスキマ妖怪の...。」

「!!...違う!!!私は人間だ!!」
思わず、カッとなり叫んでしまった。

「......。そう。...○○さん、少し外でお待ちいただけますか?ウドンゲ、彼をお願い。」
「あっ、は、はい。わかりました、師匠...。」
「え、あの、藍さん?いったい...。」
八意の弟子は、○○を連れ外に出ていってしまった。

「...さて。どういうつもりなのかしら?人に化け、人である彼を手当てとは...。」
「お前には関係ない。」
「私は医者よ?彼を診察したからには関係なくないわ。」

「...妖怪とて、人が倒れていたら助ける奴もいる。それだけだ。」
「あら意外。あのスキマ妖怪の式神が人を助けるなんて...。」

ふん、なんとでもいえ。

「私を謗る為に留めたのか?なら戻る。」
「待ちなさい。私が言いたいのはね、あなた、人と近づきすぎよ。」

なに...?私が...?

「どういう......。」
「あの子...、○○の怪我を診てわかった。異常なくらい完璧に手当てが施されていた。それも毎日、ね。あなたは妖怪。でも彼は人間なの。人と妖怪には越えられない境界が存在する。それは決まり事。どれだけあなたがあの子に尽くそうと、彼があなたと歩むことはないわ。」
「私が...、○○と......?」
「自覚してなかったの?断言...はできないけど、あなた、○○のこと好きなんでしょう?」
「す、き...?」

そう、なのか。私は...私は、○○が、好き、だ

なんだ、気づかぬうちに、私は○○に思いを寄せていたのか――
ただ、気に掛かる人間だなとしか考えていなかった。そう思っていた。
私が仕えるのは紫様だけ――

紫様の式神として一生を過ごしていく、それが全てだった。
だから、彼を、○○を救護したのは私自身、よくわからなかった。

○○には、放っておけない、心配だからだと口では言っていたが、本当のところ思い悩んでいた。いくら人が道端で倒れていてそれを助けたとしても、治るまで看病をするのは人が良すぎる。怪我人は助けるのは当然、とはいえ家まで通うのはいささか度が過ぎる。
だが、深く考えるのはやめていた。ほんのきまぐれで世話をしてやっているのだ――

怪我が治ったらまたいつもの生活に戻る。だから気にするのはよそう...。そう思い、頭の片隅に追いやった。
けれど、今なら分かる...。最初は良心からきたものだったのかもしれない。

しかし、日を重ねるうちにだんだんと心が惹かれていったんだ。この人の危なっかしいところも、私に向けた笑顔も、全部、全部、好き。いや、もう、これは"愛している"――
この愛は一体なんだろう? こんな気持ち、初めてで...。

いや、何でもいい、どんなものでも愛は、愛だ。
ふふ、ならば仕様がない――

○○はこれからも私が、力になろう。私達、二人の間に境界など存在しない。
ああ、○○...。一時も離れずに居よう。


「ねぇ、ちゃんと話聞いてる?」

おっと、また思い耽てしまったな。

「ああ、ちゃんと聞いてるさ。...そう...だな......。確かに私は〇〇に惚れ込んでいる......。だが私とて、人と妖怪の境を理解していない程、淺くは生きてないよ。ただな、あいつはそそっかしいから、私が傍に居てやらないと何を仕出かすか分からないんだ。後2週間。そしたら、あいつの元から離れよう。」

こうでも言わないと、こいつは私を帰さん。医者として〇〇の身の上が気になるのだろう。
だが、そうはさせない。なんとしてでも〇〇と生涯を共にするのだ。どんな手を使っても...。

「.........。わかったわ。勝手にしなさい。忠告はしたわよ。」

「ではこれで失礼する。...診察代はこれくらいでいいか?」

「ええ。.........妙な事考えないでね。」


「藍さん!!もう、いったいどうしたってんだい?」

〇〇が摺り足で私に近づいてくる。もう、わざわざいいのに。だけど嬉しいなぁ。可愛いやつめ。

「何でもないよ。......それより無理はするな、ほら、乗って。帰ろう?」

猫背になり、背中に乗るよう促す。

「そうか?あ、でもお金を......。」

「何だ、案ずるな。もう支払ったよ。」

こんな事を言うとまた、私に悪いと言って意地でも自分で支払おうとするので

「金の事は後ででいい。今は、帰ろう。」

そう〇〇にぴしゃりと言った。そんな義理堅いところにも惚れ込んだのだが。

「わかったよ。じゃあ藍さん頼む。」

〇〇が私の背に乗る。背中越しに伝わる〇〇の体温。とても心地良い。
できる事なら、正面から抱き締め、〇〇の匂い、温もりを感じとりたい––

でもそれは後々できる事だ。

「では鈴仙。帰りの道案内を頼みたいのだが......。」

「はい。お師匠様から〇〇さんの事、頼まれましたので道案内ぐらいしますよ。」

正直、〇〇と二人きりで居たい......。
だが我慢だ。あと少しなんだ...。

「ではよろしく頼む。」

「鈴仙さん、お願いします。」

「任せてくださいな。」

ようやく、生意気な薬師から解放された。気が付けばもう、午の刻を過ぎていた。

ではとっとと帰って、〇〇の昼食でも作るとしよう。彼は何でも美味しいと言ってくれるので、何を料理しようか悩む。

「なぁ〇〇。昼は何を食べたい?」

「そうか、もうそんな時間か。う~ん……。悪いんだけどさ、中華料理とかってやつ作れる?前に里に来た外来人が話してたんだよ。聞いた時から食ってみたくってさぁ。藍さん、色々知ってるし。出来たらだけど……。」

中華料理……。成る程、確か以前、紫様が急に食べたくなったと言って私に無理矢理作らせた事があったな。ま、当然、その様な物、私が知らない筈がなく、完璧に作り上げたが。

「出来るぞ。中華料理なんて私にかかればお茶の子さいさいだ。」

「おー。流石、藍さん。朝飯前ならぬ昼飯前ってか!」

よし、その時以上に美味しく作ろう。そして作ったら、そ、その、〇〇と……。あ….あーん……とかしちゃったり……。ふ…ふふ。うふふふ……。あー!もう!待ち遠しいなぁ………。


(………。う~ん。中華って何だろう。想像がつかないわ……。)

ふと横を見たら、この兎が腕を組んで耳を垂らし、何か思考している様子だった。
その姿を見て何となく察した。わからないのか、と言って、知識を自慢してやろうかと思ったが、こんな奴に口授しても意味ないな思い、話すのを止めた。


そうこうしているうちに竹林を抜けていた。もう、兎の案内は要らないな。
礼の言葉を言い、鈴仙を永遠亭に帰したその時----

「見つけたわよ、藍。いったい、何してるの?」

紫…様……?何故、此方に……。

「うわっ!お、驚いた。変な空間から出てきた…。妖怪か?」

「あら、スキマから失礼。私はこの幻想郷の管理者、八雲紫ですわ。でもそんな事はどうでもいいの。藍。貴女、仕事すっぽかして何してるの?おまけにそんな姿になって、人間にでもなったつもり?」

……っ‼
い…いまの……。〇〇に…...き…聞かれた?

「八雲…紫……。ってあの!?へぇ、初めて見たなぁ。…ん?今、人間の姿って言った…?」

「ちっ...ちがっ.........。」

違うと叫びたいのに声が出ない。どうにか、言い訳をしたいのに頭が真っ白になって言葉が出てこない。恐い。本当は人では無いと知られたく無い。
胸がつかえ、ほろほろと涙が出る。

「そう…そういう事ね。貴女、最近やけに機嫌良かったからいい事でもあったのかと思っていたけれど…。人間に見初めてたのね。でもね、藍。それは叶わない事よ。分かっているでしょう?なら戻ってきなさい。貴女の居場所は其処じゃないわよ。」

また、言われてしまった…。あの薬師に続き、紫様にまで…。

「ちょっ、ちょっと待てよ!話についていけねえよ!藍さんが人間じゃ無い?それに戻れって…。」

「ええそうよ、藍は私の式神。八雲の名を与えた妖獣。理解した?」

もう...嫌だ.........。ようやく〇〇への想いを確認できたのに…。共に生きようと心に誓ったのに………。このままでは………。つらくて、つらくて、いっそ明かしてしまおうか…。

「………。藍さん。本当なのか?答えてくれ。」

「………………。ああ、本当だよ。」

言ってしまった…。〇〇の顔を見れない……。舌を噛んで死んでしまえば、嫌われずに済むかな……。

「そっか。有難う、本当の事言ってくれて。」

…………?
あれ?今、彼は何て?

「貴方、ちゃんと聞いてた?藍は、妖怪なのよ?貴方の事を騙していたのよ?普通は怒ったりしない?」

「無い腹を立ててどうすんのさ。俺は騙されたなんて思っちゃいないね。藍さんは俺の恩人で善人だ。そんな人を妬めって?冗談。藍さんがどんな姿だろうと構いやしねえよ。」

〇〇----。
いいのか?いいんだな?そんな事、言われたらもう、歯止めは効かんぞ!

「〇〇—!!大好きだ!!愛してるぞー!!」

元の姿に戻り、彼に抱き着く。ああ、この匂い、温もり、堪らない!!絶対に離さないぞ!!

「えっ!!まじで!!そうだったの!?見初めたっていうのはそういう…。.…じ、じゃあ俺も好きだー!!」

「!! 本当か!?今の言葉、忘れないぞ!確かに聞いたからな!」

「はぁ…。藍と恋仲になると大変だっていうのに……。精々短い間、愛し合いなさい。命果てるその時まで……。」

いえ、大丈夫ですよ、紫様。
もう、決めましたから。〇〇が死ぬ時は私も死ぬ時です。
そしてまた、愛し合うのです。ずっと、ずーっとね……。

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最終更新:2015年12月16日 22:34