探偵助手さとり第4話


 名探偵の掟として、探偵が犯人を追い詰めると、犯人は
蕩々と自白を行う事となっている。彼らは決して言い逃れをしないし、
動機を正直に告白して自分の罪を認める。
 しかし大抵の場合、探偵が
「犯人は貴方です!」
と言った所で、その人物を捕まえることが出来るかは甚だ怪しい。
適当に嘘をついたり、周囲を言いくるめて罪を逃れたり、探偵が指を指している
時に逃げたりしても良い訳である。

 「らしくない」探偵の彼としては珍しく、彼は吹雪の中でロッジに閉じ込められていた。
しかし別に殺人事件が起きる訳では無く、只単に彼の友人に頼まれて、
シミュレーションゲームのオフ会に、最近始めた初心者として参加しただけである。
他の皆は知り合いであるので、これでは窃盗すら起きそうにない。但し、ストーカーは
何処かに居るのであるが。
 今回の依頼は、友人に付きまとうネットストーカーを、どうにかして欲しいという物であった。
友人達は、普段インターネットを通じてゲームを行っているのであるが、その中に一人
友人にセクハラ発言を繰り返す、ネットストーカーがいた。周囲に諫められても反省せず、
あまつさえは、パスワードを入力する必要があるチャットにまで入り込むに至っては、
誰かがストーカに情報を流しているのか、誰かがストーカーであるかという、
嬉しくない二者択一であった。 

 友人には件のストーカーから、今回のオフ会に参加させまいと嫌がらせのメールが来ていたため、
最低でも使い捨ての盾にはなるであろうと、急遽探偵を参加させていた。生憎探偵にはその種のシミュレーション
の経験は無いものの、反則級に強い(実際の所は反則であるが)助手が付いていることで、
他の経験者に良い案配で食らいつくことが出来ており、期待の新人として注目を浴びていた。
そして深夜他の参加者が寝静まり、友人が探偵の部屋に作戦会議と称して出向いて行くと、
探偵の部屋には助手が既にスタンバイをしていたので、此方の心を読んだかのような準備に
驚きを持つ。そこで探偵から、他の人が現在ストーカーを特定中であり、丁度最終日に結果が分かるので、
そこで犯人に仕掛けるようと言われると、すっかり感心するのであった。

 さて最終日になり、吹雪が止んで他の参加者が続々と帰る中、犯人とオフ会の主催者をロッジに残し、
探偵が名推理を披露することとなった。
 容疑者は女性であり、友人はまさかこの人とはと、予想外の様子であった。貴方がストーカーですね
と探偵が糾弾するも、敵も然る者で自分が犯人である訳がないと、頑として認めようとはしない。
警察ならぬ探偵には、通信会社より履歴を請求することは出来ないので、証拠の代わりに
隠し球の助手を投入する。即ち、鳴かぬなら、泣かせてしまえ ホトトギス と。

 助手は手元の白紙を見ながら、蕩々と喋る。
「XX時XX分貴方の持っている、もう一つのタブレット端末より、ストーカーの文章が投稿されております。」
「その端末は直後に、貴方が管理しているSNSに接続し、貴方の私生活に係る文書を投稿しています。」
「これが、貴方がストーカーである証拠です。」
そして助手は、なおも違うだの、乗っ取られただのと言って往生際が悪い犯人に近づき、耳元で告げる。
「貴方が作った、人には見せられない小説を朗読してあげましょうか? 
それとも、ネットで注文したXXXとかいう、変態同人誌を公開しましょうか?」
顔面が青白くなり、落ち着きが無くなった容疑者の横で助手が、依頼者はストーカー行為を止めるならば、今回の件を
公にしないつもりであると言えば、容疑者はか細い声で謝罪し、一件落着となるのであった。
 容疑者が退出した後に、主催者が彼女を退会させる事を依頼者に告げ、出来れば依頼者はこのまま
活動を続けて欲しいと、急に下心に露わに友人にすり寄って来た為、探偵は事前のカンペに従い、主催者に
釘を刺しておく事とした。
「そういえば、容疑者の人の通信記録を閲覧した時に、貴方があの人と交際していることを知りまして。」
固まった主催者に対して、其れでは宜しくと述べ、三人は帰路に着いた。

 依頼の件がすっかり終わると、依頼者は探偵に感謝の言葉を述べると共に、御礼に食事でもどうかと誘うのであった。
しかしそうは問屋の代わりに助手が卸さず、
「この人はお忙しいので。」
と、-これ以上近づくんじゃねーよ、この野郎!-と威嚇をすると、
敵意を改めて感じ取った友人は、-お生憎様、野郎じゃないので!-とばかりに、
「あら、この人の予定を決めるなんて、助手の癖に彼女気取り?」
と真っ向の勝負を挑んでくる。-こんな若いだけの女になんか、負ける訳ないじゃない-と、
勝ちを確信した女が探偵の腕を取ろうとすると、助手が女の腕を掴んで爆弾を投下しに掛かる。

「先にXXさんとの不倫関係を、精算されてからの方が宜しいかと。奥様は気づいておられましたし。」
実際には奥方は、彼女の正体には全く掴めていなかったのであるから、
さとりの言ったことは真っ赤な嘘であるのだが、なおも絨毯爆撃は続いていく。
「探偵に依頼されていたので、次は弁護士に依頼をするかと。損害賠償、頑張って払って下さいね。
あっそういえば、過去の彼氏に貢いだ借金がまだ残っていましたね、100万円程。」
と追い打ちを掛けると、女はたまらず逃げ出していった。

 逃げ出した女を嘲りを込めて見送ったさとりは、早速帰ってXXさんの奥様に渡す報告書を作りましょうと、
マッチポンプに余念がなかった。友人の女から回収し損ねた分を、奥方からの依頼で取り戻す勢いである。
最も、
「折角ですし、指輪でも作っておきましょうか?」
と探偵に尋ねる辺り、彼女は気にしていたのであろう。
 しかしさとりのの愛が、見せつけようという段階に至ったことは、探偵にとって不幸なことである。
それはやがて、洗脳へと行きかねない、恋の病であるのだから。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年03月29日 21:45