「それじゃ、永琳しっかりと頼むわね」

「…輝夜もう一度聞くけど、本当にいいのね?」

そう念を押す永琳は私にはとても滑稽に見えた。何を今更、彼と出会った時から決めていたというのに。
頷く私を見つめ手にした小瓶の中身を彼の食事に混ぜ加える。中身は私と彼が永遠に夫婦でいられる調味料、蓬莱の薬だ。
ふふ…これでずっと一緒よ○○。


最初の一年。
既に成人を超えた○○に目だった変化はもちろん無い、大怪我をしたり死んだりすれば分かるだろうが、そんな事は私がさせない。
○○に薬を飲ませたのはサプライズだ、何十年経っても老いたりしないことを○○が知ったらきっと大喜びしてくれるだろう。
もちろん私とも永遠に居られるのだ、体は蓬莱人だが精神は元人間である○○が嬉しすぎて狂ってしまわないか、それだけが心配だけど。

五年目
この五年、当たり前だが私と○○の関係はアツアツだ。
人間なら外見や雰囲気がどことなく変わる年月であったがもちろん○○はあの日のまま。
この関係が永遠と続くなんて私の方が嬉しくて狂ってしまいそう。
ああ、この事を早く○○に教えてあげたい。そして一緒に喜びを分かち合いたい。
でももう少し我慢、もう何年か経ってから教えてあげたら○○の喜びも一層高まるに違いない。

十年目
とうとう○○も体が老化しないことに気づいたみたい、鈍感なんだから。でもそのお陰でこの十年バレずに済んだわけだからよしとしよう。
永琳に体のことを相談したみたいだけど、もちろん薬を飲ませた事は言わないように永琳に釘を刺しておいた。
直接私の口から聞かせなきゃ意味がないもの、早速今夜にでも○○に言ってみよう。
そういえば今日でちょうど十年目だ、そんな日に告白できるなんてなんてロマンチックなんだろう。



夜中、輝夜と○○の寝室で彼女は十年越しの告白をする。

「ねぇ○○?永琳に何を相談してたの?」

「…なんだか俺全然成長っていうか、老ける気配がなくてさ、ずっと二十代入ったぐらいの見た目のまま変わる気配がなくて不安で…」

「ふぅん、それで永琳はなにか言った?」

「それが永琳さんにも分からないって言われちゃったんだ」

「私は原因を知ってるわよ?」

えっ?という顔で彼は私の顔を見つめる。ああ、この驚いた顔が直ぐに万遍の笑みを浮かべて私と笑ってくれるなんて!
直ぐにでも教えてあげたいけど、もう少し焦らしてあげよう、ふふ○○ったら驚くんだろうなあ、黙ってたことちょっとは怒るかなあ。

「ほ、本当か!?輝夜頼む教えてくれ!」

ガッと肩を掴んで私の顔を真っ直ぐ見つめながら言う。
ちょっとこの反応は予想外だ、老けるならともなく老けないならそんな必死にならなくてもいいじゃない。
彼を落ち着かせて呼吸を整える、私も大分興奮しているみたいだ。こんなに胸が高鳴るのは妹紅が初めて殺しに来た日以来かもしれない。
いよいよ彼に理由を話す、心臓が高鳴る。

「○○、あなたはね十年前の今日、私と同じ蓬莱人、不老不死になったのよ」






「○○、あなたはね十年前の今日、私と同じ蓬莱人、不老不死になったのよ」

え?彼女の言ったことがよく理解できない。
蓬莱人?不老不死?輝夜と同じ?
いつまで経っても死なずに生き続ける?そんな事は無理だ精神が参ってしまう。
しかしなんで輝夜は微笑んでいるんだ?頬を赤らめていつも通りに優しく笑ってくれる。
最初に会った日から顔を会わせる時も廊下ですれ違う時も朝会った時も二人で出かけた時もおやすみと言う時も毎日毎日毎日毎日毎日。
いつでもどこでもどんな時でも誰と居る時でもずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと変わらず、俺がなにをした?愛していてくれていたんじゃなかったのか?
ただの人間風情に永遠に姿形を変えずに生き続けろ?


輝夜が真っ直ぐ見つめてくる。
先程まで優しい笑顔だった、最愛の妻。だが今は恐ろしい化け物に見える。

「うあああああああああああっっ!!!!!」

奇声を上げそれを突き飛ばす。
その反動で起き上がり襖を蹴破り逃げ出す。
寝巻きのまま永遠亭を飛び出し竹林に逃げ込む、夜の竹林は迷いやすいし妖怪もいて危険だから入らないようにと言われていたが関係ない。
十年。十年経っても一向に老ける気配がない、本当に不老不死になったのか?
まだだ、もしかしたらただの不老かもしれないこのまま竹林に居る妖怪にでも殺して貰えばはっきりする。
だが永遠亭にアレのいる場所には戻るわけにはいかない、戻ったら本当に不老不死にされてしまうか、死なない程度に永遠に飼いならされるだけだ。
いきなりの激しい運動に体が悲鳴を上げるが関係ない、とにかくアレから離れ…




朝日で目が覚める、場所は竹林。
昨日はあれからどうなったんだ?逃げ出して、それから気がついたら朝だ。無我夢中に走り続けてそのまま気絶でもしたんだろうか?
体中が痛いがともかく移動しないと、そう思い体を起こそうとして愕然とした。
寝巻きは食いちぎられたかのようにビリビリに引き裂かれおり、腹部にはぽっかりと穴が開いていてその回りは血がべっとりと付いていた。
咄嗟に体を探ってみる、痛いところは無いほど全身が痛かったが切り傷一つついていない。もちろん腹にも。



彼は不老不死になった。

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最終更新:2011年03月04日 01:02