紅魔赤軍3

 紅魔館において執事として働く○○であったが、
ここ最近彼にモテ期が訪れていた。彼を好きだという
メイドの女性が彼に猛烈にアプローチして来たので
ある。今も彼は廊下で、彼女に迫られている。
「○○さんに教えて頂いたおかげで助かりました。
本当○○さんはいい人ですね。」
「いや、其程では無いですよ。」
彼が謙遜するも、彼女はグイグイと迫ってくる。
「そんなこと無いですよ!他の人も噂しているん
ですよ。○○さんが皆に親切だって。」
周りの意見を付け加えて、自分の意見を補強している
辺り、彼女は中々強かであろう。
「いや、そう言われると何だか恥ずかしくって…。」
あくまでも低姿勢な彼に彼女は攻め口を変える。

 「○○さんはクッキーとか好きですか?」
突然の申し出に彼は思わず本音を零す。
「まあ、偶に食べる程度かな。里で買うのは機会が
あまりなくって。」
そうして開いた突破口に攻め手は突撃する。
「あら、そうなんですか?でしたら今度作るので
是非食べて下さい。」

ここに来て、彼はしまったと思うが今更自分がアレルギー
等と、嘘をついて躱すこともできない。
「楽しみにしていて下さいね。」
そうコロコロと鈴が鳴るような、甘い声と綺麗な笑顔で
彼女に言われると、彼はその申し出を断り切れなかった。

 ところで、彼と彼女が楽しく話しているのは廊下であり、
密談には少々不向きであったりする。彼は廊下には誰も居ないと
思っているが、実はそうではない。例えば廊下の端から
紅魔館の当主が、彼と彼女を射殺さんばかりにじっと
見つめていることもあるのだから。


 数日後、彼と彼女はまたも廊下で話し合っていた。
クッキーに舌と胃袋を捕まれた彼は、以前より彼女との
距離を縮めていた。
「いやぁ、あのクッキー美味しかったよ。今まで食べた
クッキーとは全然違っていたよ。」
「本当ですか!嬉しいです。」
ちゃっかりと彼の腕を掴んで、更に彼に接近した彼女
は本陣に切り込んでいく。
「里の霧雨商店で買ったバターを使ったんですよ。そういえば
今度近くに新しい喫茶店が出来まして、買い物に行く時に
一緒にどうですか?」
彼が思わず頷きそうになった時に、怒りが籠もった低い声が
割って入る。
「咲夜。」

 次の瞬間彼は、レミリアの後ろに立っていた。
歯ぎしりをしながら赤い槍を持つレミリアは、紅魔館で
雇っていた下働きのメイドに宣告する。
「彼に取り入って、何しようとしているのかしら。」
背後にメイド長の咲夜を控えさせ、彼に近づいた
メイドの女に判決を下す。勿論判決は死刑のみである。
 咲夜が彼の目を覆ったことを横目で見たレミリアは、
眼前にいる被告人に槍を突き刺す。廊下には濃厚な血の
臭いが漂う中、レミリアは硬直した彼の手を引き、自室に
連れていった。彼の背後に咲夜をつけているのは、せめて
彼が悲惨な状況を見ないようにする為か、それとも
彼が逃げないようにする為か…

 部屋に着いたレミリアは咲夜を下げて、二人っきりで
彼を詰問する。
「いい、あの女は貴方に近づいて、紅魔館に侵入
しようとしたスパイなのよ。」
「そんなことはない筈…。」
恋人がいる時に、更にもう一人からアピールされる
という、初めてのモテ期に浮かれた弱目もあってか、
彼が弱々しく反論するが、レミリアは口調を強めて断定する。
「いいえ、そんなことあるわ。私が運命を見なかったら
貴方はあの女にホイホイついていったでしょうし。」
首元に牙を突き立てて、彼の血を吸いながら、彼女は
尚も彼を追い詰める。

「貴方の価値を分かるのは私だけなんだから、あの女な
んかが分かる訳がないじゃない。」
貧血になり朦朧とした頭で彼はレミリアを離そうと
するが、いくら押そうが小柄な彼女を少しも動かせない。
「違う。」
「いいえ、貴方は私だけの物なのは違わない。」
意識が遠くなってきた彼に、レミリアは執拗に声を刷り込んでいく。
「貴方を愛しているのは私だけ。貴方を分かるのは私だけ。
他の誰にも渡さない。」
レミリアの歪んだ愛を受け彼の意識は暗転する。

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最終更新:2016年05月23日 21:58