金色の魔女




金色の魔女

 僕が彼女に出会ったのはしばらく前のことである。僕が何かに困って
町外れの空き地でぼんやりと夕方の空を眺めていると、目が開けられ
無い位の風が吹いて、次の瞬間には金髪の彼女が隣に座っている。
彼女は僕の悩みを聞いてくれて、最後には「魔法」を掛けてくれる。
 僕には彼女が掛ける魔法は何も見えないのだけれども、次の日には
困った事はいつも無くなっている。いつも僕一人の時だけしか彼女
には会えなくて、他の人と居る時には彼女を見たことは一度も無いの
がから、彼女は本当は存在していないのではないかと思ってしまう
ことがある。
 しかし彼女が隣に座っている時には、いつもハーブの香水の良い
香りが漂っており、それは風が吹いて彼女が去った後も残っていた
から、僕は里の霧雨商店で売っていたその香水を、誰に渡すのでは無く
とも買ってしまう程であった。
 彼女が僕の話を聞いて魔法を掛けてくれた後で、必ず言う言葉がある。
「借り、一つだぜ。」と彼女はいつも言うのだが、僕はいつ返せば
良いのかを尋ねると、彼女は笑ってはぐらかす。そういうものだから、
僕は彼女が照れ隠しに言っているのだと思っていた。

 そんな僕が里の女性と付き合うこととなったが、困ったことが生じた。
彼女が夜道を歩いていると、何か妖怪の様なものに尾けられたらしい。
らしいというのは、彼女も暗くて良く見えなかったからなのだが、
二度、三度と起こるようになって、彼女もすっかり参ってしまっていた。
僕も彼女を夜道で送るのだが、その時には決まって誰も怪しい奴が現れず、
徒労に終わるのであった。彼女が無事な事を喜べば良いのであるが、
やはり釈然としない気持ちを抱え、いつもの様に空き地で彼女を待っていると
こんな時に限って中々来ない。珍しいなと思いつつ帰ろうとすると、
夕空に流れ星が落ちたかと思うと、ぐんぐんこちらに近づいてきて、最後には
箒にまたがった彼女が空から落ちるように、僕の隣に着地した。

 普段はこうやっていたのかと、僕は一瞬見とれたのだが、やがて彼女が
本物の魔女だと理解すると、今までの彼女の魔法が本当に効果のあるもの
だったことに気づいてしまった。小さい時におとぎ話で聞いた、残忍な
魔女の話を思い出し、そんな魔女に貸しを作ってしまった事に忸怩たる
思いを抱くが、ふと邪な考えが頭を過ぎる。この魔女は僕の困ったことを
いつも唯で解決してくれたのだから、今の悩みも解決して貰えるのではないかと。

 僕はいつもの様に隣に座る彼女に、今の悩みを相談したのだが、今回は
彼女は魔法を掛けようとはしなかった。僕がどうして今回は魔法を掛けてくれない
かと尋ねると、「その悩みは解決しないぜ。」と初めて僕の願いを断った。
そして驚く僕にこう告げる。

 人間には五臓六腑あるというが、今までお前の悩みを締めて十一個解決して、
一つ一個と計算すれば、借りは今纏めて返してもらうぜ。つまりお前を・・・








感想

名前:
コメント:




最終更新:2019年02月09日 19:30