様子がおかしい事と気付くのふくのに時間がかかった。
最初は低血圧か、気に障る事でもあったかと思っていた。
季節衆目も問わず擦り寄ってくる輝夜、
最近は不機嫌そうに抱き着いてくる事。
鈴仙や永琳と話しているとそれを遮る様にだ。
「ごめん、嫉妬したの?」
と聞くと、
「んー……」
とお茶を濁す様に肯定していた。
機嫌が悪いんなら戻さないと、と、
適当に接待プレイすると気まずそうに、
「何か付き合わせたみたいで悪いね」
と言われる。
どうしたいんだ、全く。
「イナバや、永琳みたいな事言うけどね」
能力も、弾幕も何も無いまま、
ただ逃がさない様にぎゅっと抱きしめられる。
「○○を独占したい。
私の事だけ見て欲しい、考えて欲しい」
「はは、そんなの……」
「でも、駄目だよ。
強制なんかしたらそれは愛になるかもしれないけど、恋にはならないもん」
女心がわからない僕からすると、馬鹿な悩みだ。
頭をぽんぽんと叩く。
「ねぇ、どうすれば○○は私を好きになってくれるの?」
「今でも十分好きさ」
「駄目なの!
私しか見えないぐらいに悩殺しないと安心出来ないよ!」
「悩殺はちょっと違う気がするけどなあ」
じゃあ、次に会う時までに考えておこう。
そう言うと輝夜はしぶしぶ引き受け、
PS2の電源を入れてそっぽを向いた。
足をばたばたさせる辺り不満が見て取れる。
……さてどうしたものか。
帰りがけに永琳を連れ出し聞いてみると。
「だったら家事でもやらせて頂戴」
……だよなあ。
帰り道に行商を終えた玲仙に聞いてみれば、
「(家庭内で)自立した女性とか……ですか?」
やっぱなあ。
バカルテット一行でてゐを見つけて聞いてみると、
四人が割と真剣に考えてくれた。
「○○の好きな食べ物ってある?」
「え?ああまあ、オムライスとか?」
「じゃあそれを上手に作れる人って言えば良いよ?」
あー、まあ、オーソドックスだよなあ。
「じゃあそれで行くかな、ばいばいてゐ、また明日」
好きな食べ物か……
うーん、簡単過ぎると輝夜が不満かもしれんし、
かと言って難しい物だとあいつに作らせるのは怖いな。
……よし、逆転の発想で行ってみるか。
「はぁ!?輝夜を好きになるには、って?」
妹紅に呆れた顔で聞き返された。
「いや、あれ程最低な奴はいないだろ……無理無理」
「いやさそこを逆転の発想でな……」
「はあ……死なないから殴り放題?」
「そろそろくじけそうだ」
過程をすっ飛ばして数日後、
解答が見つかるまで永遠亭に行かない様にしようと思っていたが、
輝夜に言われて鈴仙が拉致しに来た。
「勘弁して下さい大人しく付いて来て下さい……」
泣きながら袖ををめくって注射針の痕を見せてくる。
む、永琳が一枚噛んでいるのか?
永遠亭に引き込まれ、永琳もまたすまなそうに僕を引っ張る。
小声で、
「一服盛ってるから」
あぁ、眠くなるくらいあるよ、かな?
「味は大丈夫よ?」
そっちかよ。
そもそも何で好きな食べ物の下りが……
あぁ、てゐか。
あいつめ輝夜が料理出来ないのを見越してチクったな。
「さあ、出来たわよ!」
自信満々の輝夜に出されたオムライス……?
即座に永琳に耳打ちする。
「……薬の分量間違って無いか」
「……不思議ね、着色料も入って無いのに青くなるって」
この世には私の知らない事もたくさんあるのね、
とそのまま遠くを見つめ始めた。
……苦労したんだな。
輝夜はというと、
(さあいっぱい食べてねきっとおいしいよおかわりあるからすぐに感想を聞かせてね!)
といった顔でスプーンを見つめてる。
ここ最近で一番輝く笑顔だ。
「わ、わぁい……頂きます……」
シ゛ャリ
味は大丈夫よ……
味は大丈夫……
味は……
体が即座に毒と判断して吐き出そうとするのを抑える。
大丈夫大丈夫、飲み込めば薬で楽になれる、
そうだあえて地雷を踏んで楽になるんだ……
「美味しい!?」
聞くなよしんどいのに……
「あ、あぁ……」あたま痛い。
そのまま床に倒れ込んで、
ひんやり気持ちいいと思った辺りでやっと薬が効いてくれた。
目が醒めると?
真っ暗な狭い空間。
まるで棺桶みたいだが……
「あ……やん」
何これやーらけー。
「輝夜……?これは一体?」
「能力で作った棺桶みたいな部屋。
こうすれば二人っきりだよ」
すりすりしてくる、
しかしこの狭さで擦り寄るも何も無い気がするが。
「で、さ。
○○はどうやったら私を好きになってくれるかな?」
「はぁ……もう十分だよ」
「こうしてずっと一緒にいてくれるのに、好きにならない訳無いだろ?」
輝夜がぶう、と息を吹き掛ける。
「そんなのいつでも出来るじゃない。
そんなんじゃ私だけを好きになったりしないよ!」
「ちーがーうーの」
抱きしめる。
「永琳や妹紅はここまでしないよ。
こんな所に監禁して……病んでるねえ」
「そ、それは○○の好みじゃない!
漫画とかラノベとか……エrg……とか」
最後の方コ゛ニョコ゛ニョ言って聞き取れなかったが。
「あのね……」
「それは知ってたから……私だってそうなろうと頑張ったんだよ?
監禁だって……永琳に頼らないで私一人で出来る様に考えたんだよ?」
「分からん子だな。
そこまでしてくれるから好きなの」
「え……?」
「自分を愛する人を愛さない訳が無いだろ?」
「うー……でもそれだと、永琳や妹紅も○○を気に入ったら、愛したりするんじゃない?
そしたら○○は浮気するよね?」
「そしたら病んだ輝夜が何とかするだろ?」
「……!
もう!ふざけないでよ!」
「あはは、ごめんごめん。
だって、人を好きになるのに理由なんて要らないだろ?
だから理由なんて無意味だし、気も変わる時があるさ。
だから、心をここに繋ぎ止めようとする君が好きなのさ」
「理由なんか要らない……か……」
部屋がさらに狭まる。
体は上に乗った輝夜と完全に密着し……
下手したら入りそうで怖い。
「か、輝夜?」
「そうね、○○の心を私に繋ぎ止める様に努力しなきゃね?」
「ま、待て、手段は選べ手段は!」
「ふふ、大好きよ、○○……」
部屋より先に体が潰れてry……
今日も万年火燵でゲームをする日々。
逃げようとすると輝夜が足を絡まして来る。
大丈夫、君の事大好きだよ。
今はね。
君以外を向き続けて、
その努力が報われなかった時、
どんな壊れ方をするのかな。
今からが楽しみだ……
「なあ輝夜、そろそれ俺達も……」
最終更新:2010年08月27日 10:32