「かふっ……はっ……」
妹紅が自らの腹を貫き、その肝を取り出している。
全てはその想い故の狂気だろうか。
妹紅はとある男……○○のことを愛している。
「あは……これで○○も蓬莱人になれるね……
待っててね。すぐに私と一緒にしてやるから」
口から血を吐きつつも、その表情には明るい笑みが浮かんでいた。
だが、笑みからは形容し難い狂気が感じられる。
「ずっと、ずっと一緒……ふふ、あはははは」
妹紅の独り言は暫く続き、周りの静けさからだろうか。
その独り言は――やけに澄み渡って聞こえた。
「よう。妹紅……飯食わせてくれるって?」
「いらっしゃい。
良いものが捕れたからね。それを食べてもらおうと思って」
(上手く気付かれないように、食べさせないと……)
○○は妹紅に呼ばれ、竹薮の中に存在する家まで来ていた。
○○自身貧乏しているので、非常に助かる話だ。
これを受けない話はない。そう思って来た。
「そうなのか。
その良いものって、一体なんなんだ?」
「ある妖怪の肝さ。
味は保障するから、○○も食べてみるといいよ」
妖怪の肝と聞き、○○は少し顔を顰める。
……まぁ、問題はないだろう。
そもそも知恵のある妖怪は人の形を取っているし、人と妖怪の間にはルールが成立している。
スペルカードルール。
ハクレイの巫女が提唱した、新しい決闘方法。
もちろんルールに従わない者も居るのだが、概ね普及していると言えるだろう。
ともかく、そんなルールが成立しているのだ。
肝を獲ったというのなら、ルールを無視したのだろう。
それなら殺されても仕方ない……
あまり気は進まないが、折角呼ばれたのだ。
それに、こんな美人の誘いを断る理由はない。
そう考えた○○は、妹紅の誘いを承服することにした。
「それじゃ、もらおうかな」
そう言い、○○は差し出された生肝を食べる。
「どう?美味しい?」
美味しいか?と聞かれれば、美味しい部類だろう。
ただ、お勧めと言っていたわりには味が良くない気がする。
好みが合わなかったのだろうか?
そう考えた○○だが、妹紅にそれを伝えることもないだろう。
「うむ、美味い!」
「良かった……」
○○の言葉を聞き取った妹紅は、顔を綻ばせる。
「これでずっと一緒だよ」
そして妹紅の口から、意図のわからない言葉が出てくる。
「ずっと一緒?」
「うん、ずっと一緒だよ……その肝ね、私の肝なんだ」
妹紅の口から、信じられない言葉が吐き出される。
自らの肝を食べさせる。
――とてもではないが、正気があるとは思えない行為だ。
「げほっ! おぇ……えぇぇぇぇぇぇ!」
そんな言葉を聞かされてはたまったものではない。
○○はすぐに、口の中に入れたものを吐き出した。
正確には吐き出してしまった――というのが正しいか。
同じ人間の肝を食べるなど、普通の精神ではできない。
「ねぇ、○○……どうして吐き出しちゃったの?
美味しかったっていうのは、嘘なの?」
「あ、当たり前だ!
なんて物食わせてくれたんだ……!狂ってるよお前!」
そう言い捨て、○○は一目散に逃げ出した。
賢明な判断だろう。今の妹紅と一緒に居れば、何をされるかわかったものではない。
(ああ、嫌われちゃったかな?
仕方ないよね。こんなことがわかったら……でも……)
「酷いよ、○○……折角私の肝なのに、吐き出すなんて」
そう言いつつも、妹紅は妖しく笑う。
まるで、これから起こることが楽しみで仕方ないというように。
(でも、永遠の時間は辛いんだよ?○○……
最後には誰も何も信じられなくなって、私しか居なくなるからね。
その時まで○○を待ってるからね……愛してるよ)
最終更新:2010年08月27日 10:38