関西熟年夫婦3
「タバコまた変えたん?」わたしはミルクを冷たいコーヒーにいれながら、ピンクに上目遣いにきいた。甘いのがあまり好きではないのに、ブラックは嫌いっていう。
私は、大通りに面した豆腐屋の裏手に、ちょこんと建っている喫茶があり、内装も醸す雰囲気も落ち着いて、いつものオキニの店にしている。そこで、ド派手な柄の着物をきた華仙とお茶を飲んでいた。
「よく見てる、あのひとが関わるときにはいつも盲目目暗な癖に。」
華仙は一度鼻から煙を長く吹き出して、灰皿にぐりぐりとタバコを押し付けて、空になった金マルの箱を握りつぶしてそのまま灰皿に放り込んだ。ヤニ切れでむかむかしているおっさんみたいに、急がしそうにふところからセッタの長いのを取り出して、口に加えた。
「昨日寝た男のやつ、パクってきた。やっぱり宗派が違うと不味いよ。」そういいながら、わたしにくわえたタバコをつきだした。
下品なことをするのねこの子と思いながらも、しぶしぶと、バックの底にあったくしゃくしゃになったマッチ箱から一本取り出して、手を添えて火を着けてやった。
「仙人でも、そんだけ見境なく男を漁ってたら、身体に一つや二つにお土産が入ってくるんでないの。」
カラカラとストローでかき混ぜると、ミルクのベールが一瞬で溶けて白くなってしまった。
「なるかい、仙人パワーなめんな。逆に治したる」斜め向かいに吹いた煙は宙を滑るように走って、空気に溶けていった。
髪に匂いが付いたら嫌だなと思いながら、ストローの袋を小さく小さく折り畳んでいく。
「そういえば、もうすぐ〇〇の誕生日でしょ、何かあげるの。」興味が無さそうなふりをして、華仙が聞いてくる。そんな様子をみていると、胸の奥に硬く重いものが圧迫するような息苦しさを感じた。
私はそれを表に出さずに、
「考え中やけど、最近先が潰れてきたし、太筆にしよかなって感じ。」と言った。
「何か婆臭いもん渡すなぁ、少しはそうね、色気のあるのとかにしたら?」そういって自分の胸をわしわしと揉んで見せる。彼女の後ろの席に座っている、しわしわのじいさんが、少し新聞をずらして鋭い目付きでその様子を凝視していた。握り締められた新聞は、ぐしゃりと皺がよっていた、ここの店のなんやろうけどなぁ。
「例えば何よ。」
「うーん、7月だから。土曜の丑で、全裸に鰻とかないかな。」
「あうと。」
そんなこんなで、だらだらとしゃべっていたら、西日が窓をさすようになってきた。
「なあ、華仙。一緒にあの人の誕生日祝えへん?」
「どうして、そんなこと言うの?」心底不思議そうに、聞く姿はまるであの頃そっくりで。
「まあ、ええやん。」自分の訛りが上手くならないのを思い知らされて。知らぬうちに、自分の腕に爪を立てていた。

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最終更新:2017年01月09日 23:33