「お待たせしました。着きましたよ。」

長時間の空中散歩を終え、ようやく目的地に着いたようだ。ただちょっと里の外をうろつくだけのつもりだったんだが随分と遠くまで来てしまった。いったい、ここまでどれ程時間が掛かったんだか......。

「そうかやっとか...。」

妖夢は移動速度を徐々に下げ、俺を抱えながら地へと降りた。
うん、久方ぶりの立つ感覚だ。空は気持ちよかったが、やはり慣れている地上の方が気分が優れる。
すると今度は不思議な気分になってきた。普通ならあり得ない場所に俺は立っている。これはおもしろい。こんな経験は死ななきゃできねぇ。いや死ぬ気はさらさらないが、少し、妖夢に感謝だ。

「では、白玉楼へご案内します。付いて来てください。」

「ん?白玉楼?ここの名前か?」

――白玉楼
聞いたことがあるな。なんだったかな。

「はい。幻想郷の冥界、まー結構離れてますがそれがここ”白玉楼”です。」

――成る程。ここがそうだったか。
昔、博麗の巫女が異変解決に乗り込んだっていうあの場所がここなんだな。

「とりあえずは挨拶ぐらいは済ましとかないといけませんからね。」

なんだ、妖夢一人が住んでるわけじゃないのか...。
こいつ、自分のことあんま話さないんだよな。まぁ俺も聞こうとはしなかったんだが...。

「誰にだ?」

「そういえば話してませんでしたね。ここは西行寺幽々子というお方が管理しているのです。いうなれば主みたいなものですよ。それでこれからその方にご挨拶をと。」

ふぅ~ん。そうか...。

「って、め、冥界の主だって!?そんな相手に会って大丈夫なのか!?殺されねぇか!?」

「ふふ...。ご心配なく。そんな情のない方ではありませんよ。」

「.....?そ...そうなのか?な、なんの通達も無しに会って平気なのか?」

「寧ろ、お客様は歓迎する方ですよ。○○さんなら尚更大丈夫です。」


そこまで言うなら大丈夫なんだろう。ちょっとほっとした。
胸をなでおろしたあと、妖夢が前へ出て、俺を嚮導して歩き出した。
いささか緊張気味に歩を進める。
玄関が見え、中に入ろうとしたその時、”今度はしっかりと”聞こえた。

「......ま、もしものときは私に任せてください...。こんなところで貴方を死なせませんから...。絶対に。」

“はっきりと”。だけれど”静かに”。聞き取れた。
確かにいつもの妖夢なら言いそうな台詞ではあったが今回は様子が違った。
――敵意。
いや、今のは殺意すら感じ取れた。だがそれは多分、俺に向けられたものではない。
恐らく...は、その幽々子とかいう人に...。
前を向いてるため、表情が見えない。その状態がいっそう俺を恐怖にさせた。
まさか自分の主に殺意を向けるなんて...。あり得ない....。この妖夢が...?
さっきまでの緊張感はどこかへ吹き飛び、今度は圧迫感に苛まれる。
思わず顔から嫌な汗が流れ出る。体が一気に冷えていくのを感じた。

「......お...お...おい妖夢?ど...どうした?」

この重々しい空気から逃れるため、やっとこさ妖夢に話しかけた。
それに対し、妖夢はこちらを向き、

「え?何です?どうもしませんけど...?それより早く中へどうぞ。」

満面の笑みを浮かべながら、靴を脱ぎ、屋敷の中へ入っていった。
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「ではこちらの部屋でお待ちください。お茶とついでに幽々子様をお連れしてきます。」

ついでってなんだ...。自分の主だろう......。
はぁ...。あいつの様子、やっぱなんかおかしいぞ?そりゃ元々変な奴だとは思っていたが、あれは変人を通り越している。いや、根は悪い奴じゃないことは分かっている。だが先ほどのあれは”異常”だった。狂気染みていた。

俺は人の心を読み取ることが苦手だ。だから読む際はまず相手を自分に照らし合わせる。
要は自分が相手の立場だったら――。ってのを考える。
だからあいつが刀を直した後もちょくちょく工房にやって来てたのは、ちょっとした憧れで会いに来ていたんじゃないかと思っていた。実際、かっこいいとかなんとか言ってたし。

――あの時。妖夢と初めて会った時のことだ。
とっさになんだか分からんと言ったが、あの刀の壊れよう、あいつが自分でやったことぐらい見抜けた。だが敢えて分からないふりをした。深入りするのはよくないと思ったからだ。
しかし状況が変わった。ここは足りない頭を絞って何故、妖夢があんな事を言ったか考えるべきだ。
俺の勘違いで済むなら良いが、このまま無視しているともしかしたら取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

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最終更新:2017年01月16日 03:02