蜘蛛の糸

ある日の昼下がり、妖怪の山にいる神様は何気無く下界の様子を見ていました。
活気ある人里、静かな湖畔、そして山の中腹の河童の屋敷の一室には、二人の外界
人がいました。
 一人は姫海堂はたての元で暮らす○○、そして河城にとりの家に住む彼の友人。
二人は閉ざされた部屋の中で、ここから出たいとしきりに語り合っていました。それ
を見た神奈子様は、以前○○が守矢神社を参拝していた事を思い出しました。少しは
良いことをした○○を見て、閉じ込められた二人が可哀そうだと思った神奈子様は、
二人を助け出だそうと思いました。

 河童の半地下室のその部屋には、光が差し込む為の高い窓がありましたが、とても
高く人の背では幾ら背伸びをしようが届きません。しかもその窓にはしっかりと、
刑務所の様な太い太い鉄格子が嵌っているのでした。そこで神奈子様は神通力で鉄
格子を外し、隣の部屋にあったにとり特製のマジックアームを、二人の前に顕せるの
でした。
 突然部屋の鉄格子が外れ、目の前に機械が出現した二人は大層驚きました。そこで
神奈子様は二人に対して厳かな声で、ここから出て守矢神社まで来るように告げる
と、二人は天の助けとばかりに地下室から逃げ出すのでした。
 二人は河童の機械で窓から這い出た後は、一目散に山道を駆け上り始めました。
ここで捕まってしまっては、また元の生活に戻ってしまいます。蜘蛛の糸を掴んだ
カンタダの様に、二人は一目散に上を目指して山道を登って行くのでした。

 二人が山道を走っていると、遠くから声が聞こえてきます。はたてとにとりが、
二人を探しに来たのです。二人の女性の声は高い声でしたが、○○と友人には地獄の
獄卒が喚く様な、地の底から這い出る様な声に聞こえ、背中をブルリと震わせて我武
者羅に足を速めるのでした。


 それから暫く経つと、○○と友人の息はすっかり上がってしまいました。命を掛け
て走ったのですから、それはもう力の限り走った訳ですが、そうすると一度限界を越
えてしまうと、体が言うことを聞かなくなりました。二人してそこらの石に腰かける
と、乱れた息を整えます。あれだけ走ったのだから、追手を振り切ったのではないか
と安心していた二人ですが、はたてとにとりの声がまた聞こえてきました。
 さっきは大分離れているような距離の遠さでしたが、今は大分近くなってしまい
ました。しかも悪い事に二人は大分怒ってきたようです。これを聞いた二人はこりゃ
あたまらんと、疲れ切った体に鞭を打ち再び走り出すのでした。

 必死に走っている内に、○○の心に疑問が湧いてきます。どうして自分たちの居場
所が分かるのかということです。いくら二人が一緒に逃げたとしても、こうも自分達
の居場所が分かるのは解せません。人間の里に逃げ込むか博霊神社に逃げることが
逃亡者の定石なのに、逆に守矢神社を目がけたと踏んで妖怪の山の上を捜索するので
は、二人が下山していた時には取り返しがつかない事になりかねません。あいつら何
か千里眼でも持っているんじゃないかと○○は考えますが、その千里眼の持ち主は
ここには居ません。しからば友人の方を見てみると、ああ、あるではないですか、
友人が後生大事に抱えている、自分たちを地獄から救い出した河童の機械が。

 ○○は友人にその機械を捨てるように言おうと思い、寸での所で止まります。そも
そも○○が幻想入りしたのは、友人が幻想郷に引きずり込まれ、それに巻き込まれた
からです。あの時天狗に○○の写真を見られなければ、今でも平和に生きられたのに
と思うと、○○の心の中に友人への憎しみがふつふつと湧いてきました。


 ○○は友人をおもいっきり蹴飛ばします。走って疲れ切っていた友人は、横からの
衝撃に耐えきれずに、ゴム毬のように跳ねて、階段を転げ落ちていきました。友人を
犠牲にすれば、そちらににとり達がかまっている間に、守矢神社に辿りつけるでしょ
う。あれだけ走った甲斐あって、神社はもうすぐのはずです。そして友人を尻目にラ
ストスパートを掛けようとした○○の背中を、あのマジックアームがしっかりと掴み
ました。

 友人を犠牲にして自分だけ助かろうとした○○は、カンタダと同じように奈落に
再び落ちました。もがきながらはたてに連れていかれる○○を見た神奈子様は、少し
悲しそうな顔をして溜息を付きました。
 ところで、神奈子様の隣には諏訪子様が居られます。○○の逃亡劇の間中、ずっと
神奈子様の隣で下界の様子を見ていましたが、○○が仮に助かった時に守矢の厚い信
徒である妖怪の二人が、神様に助けを求めたのならば一体どうなったのでしょうか。
 神奈子様は○○に肩入れをした以上、妖怪側に立つことはできません。しかし諏
訪子様は、怨みと祟りの神である諏訪子様の方は嬉々として、妖怪達に力を貸すのか
もしれません。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年01月16日 03:06