「○○くん、これで永遠に幸せですね」
ねえ、○○くん
「そ、そうだね…あはは…」
どうして…私のことを裏切ったの?
「本当に、いいんだね、早苗」
「もちろんです、神奈子様。
私がその、幻想郷に連れて行くのは○○くんと決めていましたから」
どうして…私のことを裏切ったんですか?
「そうかい…それならすまない、ねっ!!」ズゴッ
みんな、信じてたのに
「ごめんよ○○…ちと痛いかもしれないけど…まあ…」
みんな、大好きだったのに
「待って! ○○! 待って! 神奈子様!」
みんな…みんな…
「ごめんね早苗、彼は…連れて行かれるのを嫌がってたからさ…」
…酷い。
彼を失った状態で見る世界は何もかもが白と黒だった。
物と物の境界性が分かる程度。
そこには憧れも美しさも何もない。
ただ、そこに『ある』というだけ。
「ちょっと、なんでこんなとこに神社が建ってるのよ」
「この世界に守谷を広めに来たのです!」
この世界に移って暫くの間は大変だった。
霊夢さんや
魔理沙さんがやってきて弾幕ごっこというのをやってみたり、
空飛ぶ船を追いかけたり、巨大ロボットの影を追って幻想郷中を飛び回ったり。
全てが不思議な経験だった、そう、『ただそれだけ』だった。
そこに楽しさも喜びも感動もワクワクも何もなかった。
理由はもちろん、○○くんがいないこと。
(ほらやっぱり○○も連れてくるべきだったじゃないかぁ)
(
諏訪子…そうは言うけどさぁ…)
(何? ちょっと前まで早苗が上機嫌だったの忘れてた?)
(だって…)
(…ほぉ~? まさか、○○に肩入れしちゃったかなぁ?)
(…だ、だってあんなに辛そうな顔をしてたら…)
「ッ!!」ガタンッ!
(…!!)
…いけない。 私は私を殺さないと。 私を殺し続けないと。
感情を殺して、この2柱のために働く忠実な存在にならないと。
「さ、早苗…」「い、いやあ、騒がしくしちゃってごめんねぇ…」
「少し、外の景色を見に行ってきます」
「あ、ああ、そうかい。 好きなだけ見ておいで」
「あ、後のことは私たちに任せてそのまま寝ちゃってもいいからね…」
(ああもう諏訪子ったら!)
(いやあ…ごめんごめん)
外に出た所で見に行く場所なんてろくに無い。
今の私にとっては、自分の部屋以外の全てが白と黒の世界にしか見えない。
そんな時に一つの希望を与えてくれたのは霊夢さんだった。
「あら、早苗じゃない。 どうしたの、随分元気ないけど」
「あ、霊夢さん…」
「…本当にやる気なさそうね。
あ~…早苗にいつもみたいなやる気があるんだったら仕事でも押し付けたいんだけどねー」
「仕事、ですか」
「そうよ。 外来人を帰すっていうそこそこ大事な仕事よ」
仕事なんて他人任せにするものではない。
そういうのは自分だけで片付けるべき…ん? 外来人…?
「霊夢さん、外来人とは…」
「あれ、早苗はそういうのは全然知らないんだっけ?
時々来ちゃうのよ、外の世界から、外の世界の人間が…ね」
「ふぅん…続きをお願い致します!」
「あら、調子戻った? それでね…」
たまには友人と会話してみるのも良いものだ。
こういう発見があるのなら…ね。
僕の名前は○○。
ちょっと前まで人生の最高潮を味わっていた普通の男子。
「よう、マドンナのヒモ」
「友人に対して随分失礼な言い方だね…」
「ぶっちゃけ事実だろ?
…まあ、ここ最近は羨ましくは思えない状態だったけどさ」
ちょっと前までは本当に幸せな気分だった。
可愛い彼女がいて、楽しいイベントもいっぱいあって、本当に幸せだった。
『○○くん、私とどこまでも一緒に付いてきてくれますか?』
その一言を聞くまでは。
「でもさ、傍目から見てたらほんと最高のバカップルに見えたぜお前ら」
「…僕も、別に嫌ではなかったよ」
「ああ、俺もイライラするほど羨ましかったからな。
もっとも…おかしくなる前までは、だけどな」
あの言葉から僕の彼女、東風谷早苗はだんだんおかしくなっていった。
『おはようございます○○くん。
あ、鍵はお母様から聞いて預かってますよ』
『部活終わりですね、今日も努力する姿が素敵でした!
じゃあ一緒に帰りましょうか』
『ねえねえ、たまには私の神社に寄ってみませんか?
いつも○○くんのお家に行くのもなんですし』
『○○くんは優しくて素直でいい人で本当に私の最高の家族です!』
『大切な家族だから離したくない、そばに居てほしいです』
『ずっと一緒なんです、永遠に』
『だから一緒に行きましょう?』
『ね?』
最初は僕の側に居たがる程度だったのがどんどん距離が近くなっていき、
いつの日か僕の全てに彼女が関連したがるようになっていった。
そして、つい数日前にソレが起こった。
『嫌だ…行きたくない…』
『アンタ…○○だっけ?』
『…はい』
『やっぱりとは思うけどさ…アンタ、早苗のこと、怖いかい?』
『…』
『別に、はいでもいいえでも私は怒ったりしないよ』
『…はい』
『…はぁ。 全く、こんなことに巻き込んじゃって…悪いねぇ』
『…?』
『…スキを見てアンタを外までぶっ飛ばすよ。
後はそのまま走って逃げな』
『…あ、ありがとうござ、ございます』
『礼は良いよ…本来アンタは付いてきちゃいけない存在なんだから、さ』
そして謎の儀式をしている最中に僕は神社の外までぶっ飛ばされた。
その後は走って帰って何もなかったことにした。
「あー、でも学校一のマドンナが居なくなって寂しいもんだな」
「そう、だね」
「…あー、何があったかは知らないけど、これ以上は考えないほうが良いと思うぜ」
「…?」
「えーと、ホラー映画とかでよくあるだろ?
悪いことを考えているとそれが起きるってやつ」
「…ああ、そうだね」
僕は学校一のマドンナと一時期付き合っていて、ちょっとした問題を彼女は抱えていて、
その事情の関係で彼女はどこか遠いところに行ってしまった。
そう、そういう筋書きでこの青春物語は終わりを告げる。
ちょっと甘酸っぱい、じわりとくるような青春の一コマ。
「大丈夫だ、○○なら新しい彼女がまた見つかるさ」
「しばらくはモテるとかそういうのも考えたくないね…」
「うっ…スマン」
私は生きている。
この大自然、彩り豊かな自然の中で。
そう、『私は生きている』。
少し前までいた、『自分を殺し続ける自分』はもういない。
(ここ何日か、早苗の機嫌が妙にいいんだよね)
(機嫌がいいのは良いことでしょ? ひょっとしたら○○のことが吹っ切れたのかも)
(それだったらいいんだけどねぇ…)
「神奈子様、諏訪子様! 今日も信仰を集めに行って参りますね」
「ああうん、気をつけていくんだよ」
「あーうー、元気だね早苗は」
「ま、信仰を集めてくれるのは良いことだからね」
「そうだね、私達を頼ってくれないのが若干寂しいけど」
私は悩み続けていた。
離れ離れになった彼のことを。
もう、二度と会えない彼のことを。
『時々来ちゃうのよ、外の世界から、外の世界の人間が…ね』
『へぇ…』
『もちろん、とっとと帰還しようと頑張る人も多いわ。
でも、時々永住しちゃう人もいるらしいわね』
『そうなんですか…』
『時々と言っても結構しょっちゅう来るから面倒なのよね』
『それって、どれくらいの頻度なんですか?』
『大体…2、3日に1人くらいだけど…たまに1週間で10人とかも来るわね』
『大変なんですねぇ…』
『ええ、大変よ』
『興味深い話、ありがとうございました!』
『ま、単なる愚痴みたいなもんだから気にしないでね』
霊夢さんにとっては単なる愚痴。
けれど私にとってその情報は非常に素晴らしいものだった。
<元の世界に戻ることはできない。
けれど、彼をこちらに連れ込むことはできる>
その可能性は私にとって非常に嬉しいものであり、
例えその可能性がどれだけ低かろうとそれに掛けてみたくなるほどの魅力があった。
「すげー…何だってこんな事を起こせるんだぁ…?」
「新しくやってきた神様は凄いなあ」
(だって、滅多に起きないことが起きてしまうのが…)
「奇跡、ですから♪」
実を言うとこちらの世界に来た初めの頃に何度か、
向こうの世界と交信しようとした事がある。
(ケータイ…駄目、電波が通じない)
(パソコン…駄目、そもそも電気も無い)
けれど結果は惨敗。
そもそも、あらゆる電気製品を動かすには
当時、幻想郷には存在しなかった電気を使う必要があった。
今は諏訪子様の戯れで作られた核融合とか色々があるからほぼ解決したけど。
『ねえ神奈子、こっちの世界に移った以上はもう話してもいいんじゃない?』
『いやあ…でも』
『頭が固いなあ神奈子は。 いいかい早苗、早苗には神通力というのがあって…』
そのとき、私には神の力が備わっていることを改めて教えられた。
外の世界でもこっそりと使ってはいたが、こちらに来た当初は
○○くんの事だけを考えていたためすっかり抜け落ちていたのだ。
『ふーん…そんな力が私に』
『でもまあ、信仰が足りない今の状態だとあんまり強い力は出せないかもね…』
『そ、それでも、その辺の妖怪は軽く一捻りできるだけの力は出せるはずさ』
『ありがとうございます、神奈子様、諏訪子様』
ただ、既に携帯やパソコンによる交信に失敗していた私は
神通力をそれらに使うことに興味を示さなかった。
今となってはそのときに使おうとしなくて良かったと思う。
もし失敗していれば、それこそ霊夢さんから外来人の話を聞くより先に自害でもしていたかもしれない。
「これだけ信仰が高まればきっと…」ピッ
<1件 メールを送信しました>
「やった!」
外の世界と間接的に交信することには成功した。
…あとは、どうやって○○くんを巻き込むか。
ある日、僕のところに一通のメールが来た。
内容は、
『
お久しぶりです、早苗です。
○○くん、元気でしょうか?
結果的にあなたを置いていってしまった私の事を恨んではいないでしょうか?
お返事、待ってます。
』
というものだった。
普通、裏切った僕の方が恨まれるべき立場なんだろうけど…。
ともかく、ゲンソウキョウというところに行ってしまった彼女から
メールが来たので友人に相談することにした。
「はいはい、いたずらメールだろそんなの」
「いや、でも、この書き方は…」
「はぁ~…あのな○○、
世の中にはお前みたいな小心者をからかうためだけに生きてるような奴らってのが沢山いるんだよ」
「う、で、でも」
「心配すんな、お前の最高の友人であるこの俺様が
この不埒なメールを送りつけてきた奴を特定してボッコボコにしてやんよ」
確かに一種のいたずらメールなのかもしれない。
そう思いたいけれど、思わせてくれない文体と内容がある。
…仕方ない、彼にも説明しよう。
「じ、実は早苗さんがいなくなった訳というのが…」
「あん?」
僕はその、ゲンソウキョウというところに行ってしまった件について説明することにした。
「ふーん…ゲンソウキョウねぇ…お前、アイツに拘束されているときに頭までおかしくされたのか?」
「えぇ…」
「ゲンソウキョウっていえばお前、どっかの同人サークルが出してるゲームで出てくる地名じゃねえか」
「じゃあ、ゲンソウキョウっていうのは…」
「実在しねーよ、何だったらケータイやパソコンで調べりゃいい」
「まさか、騙されてた…の」
「そうだな…で終わってほしいか?」
「え?」
「仮にアイツがそのゲンソウキョウとやらじゃなくて
こっちの世界のどこかに居るならばなんでお前を捕まえにこない?」
「それはその…」
「それにだ、アイツの神社。
この間フラッと寄ってみたらもぬけの殻じゃねえか。
近所の人も引越しの業者が来たのなんて見てないって言ってるしよ」
「…」
「つまりだ、お前が何かの儀式に巻き込まれて、
そのゲンソウキョウとやらに一緒に連れて行かれそうになったのはほぼ間違いないって事だ。
そうだろ?」
うわあ…まるでファンタジー小説のような話になってきちゃった…。
「気をつけろよ○○。
あとそのメールに返事は絶対に返すな。
何が起こるかわからねえ」
「うん…」
「お前があいつを裏切ったことについて重く考えているのは分かる。
だけどな、お前は自分でそれを決めたんだ。
アイツの『恋人(モノ)』として生きていくんじゃないってな」
僕は…早苗のモノじゃない。
僕は、僕自身だから。
「とはいえガチでからかい半分でやってる奴も居るかも知れねえからな。
まあ、それならそれで無視し続ければいいだろ」
「分かった」
「よし、今日の相談会終わりー!
じゃ、どっかメシ食いに行こうぜ」
何故?
『返事を下さい』ピッ
どうして?
『私は怒っていません』ピッ
何で返事が来ないの?
『大丈夫です、私はあなたの味方ですから』ピッ
…しょうがない、次の手を打ちますか。
「神奈子様、諏訪子様、準備はよろしいでしょうか?」
「オッケー! バッチリだよ早苗ー!」
「ビデオカメラとアンテナでどうにかなるもの…か?」
「神奈子様、早苗はやってみせます!
だって私は、奇跡を起こせる存在ですから!!」
「本日の天狗ニュースは…」
あー…天狗のニュースよりももっと刺激的なニュースはないのか…?
「今日の天気は…」
はいはい、いつも通り晴れだろ…
「妖怪のy%g*e$…」ザー
「おわっ!? テレビが、私のテレビが!?」カチカチッ
くっそー…こーりんのところからテキトーに貰ってきたからな…
中古だったのかも。
「#&+*&#…おはようございます! 幻想郷の皆さん!」パッ
「あれ、早苗じゃないか?」
「我々守矢神社は今、奇跡の力で電波ジャックを行っている状態です!
驚きましたか? これが奇跡の力です!」
いや、奇跡の力で報道の妨害はどうかと思うぜ、早苗。
とはいえ…最近の神様ってのは凄いもんだなぁ。
「はい、オーケーだよ早苗ー!」
「まさか、本当にテレビ電波を乗っ取るなんて…」
よし。
電波のジャックが行える事は確認した。
あとはこれをどうやって外の世界に飛ばすか…か。
「これで幻想郷中に守矢神社の事を伝えられるね!
これで信仰もうなぎ登りだよ!」
「あ、ああ…そうだね」
「いやあ、我ながら奇跡って凄いんだなあと思いましたよ」
「テレビを使って宣伝するなんてやるじゃん早苗! やっぱり現代っ子は違うなあ~」
私が守矢神社の事を宣伝するのはあくまで副次的なもの。
○○くんをこちらに連れてくるための。
「しかし、奇跡の力とはいえ、天狗以外でも報道が出来るとなると…」
<ちょっと早苗ー! 博麗神社も宣伝させなさーい!>
<なあ早苗ー! 霧雨魔法店の宣伝なんてどうだー!?>
<さいきょーのあたいのせんでんもー!>
「ああほら…色々詰め掛けてきたよ…」
「別に、私はみんなの宣伝をしても構いませんよ? 神奈子様」
「えっ? それでいいのかい?」
「はい。 色んな方々に自分の宣伝していただいて、
そこに守矢神社も乗っかれば知名度は更に上がると思いますし」
何より、力のあるものが集まれば信仰の力もより大きなものとなる。
そうすれば○○くんを引き連れてくることもそう難しい話ではない。
(○○くん…もう少しで、逢えますからね)
もう一度逢いたい…そして、今度は離さない。
あのメールからしばらく経って、
時々また彼女らしき人物からメールが届いてそれを無視していた頃、
クラスではとある噂で持ちきりになっていた。
『なあ、知ってるか? 深夜の特番』
『知ってる知ってる。 何でも色んなコスプレをした美少女達が大量に出てくるんだろ?』
『何だっけ…グループ名』
『確かゲンソウキョウとか言ってたから、ゲンソウキョウってグループ名じゃね?』
『うわー…商業じゃないとはいえ、他人の創作物の地名を丸パクりかよ』
『俺、向日葵のお姉さんが良い感じだなと思った』
『俺は…うん、魔法使いっぽいコスプレした子かな』
『凄かったよなあのCG! すっげえ躍動感あって完成度たけーの』
『あー、弾幕ごっこだっけか? 楽しそうだよな、ゲームみたいで』
『あの番組のスポンサーの守矢神社ってこの近くになかったっけ?』
『あー! 確かにCMに出てる子、転校してった東風谷によく似てた!』
どうやら、深夜に特定のチャンネルの番組が違う番組に切り替わるらしい。
いよいよをもって怪奇現象じみてきたぞ…。
「あー…ネットで検索したけど守矢神社なんてスポンサーはいねえな。
ゲンソウキョウなんてグループのアイドルもいやしねえ」
「だよねぇ…うーん」
「まさか無名のアイドルグループが電波ジャックして
PV流したりCM流したりなんてのもありえねえし」
「それやったら警察騒ぎになるしね」
「そもそも無名のグループにそんな事ができる資金源も技術も無いだろ。
あ、そういえば○○、お前は番組見てみたのか?」
「いや、見たことないよ」
「じゃ、試しに見てみたらどうだ?
メールと違ってテレビは配信しか出来ないんだから、
視聴したからって向こうから反応があるわけでも無いだろ」
夜の12時半。
僕はテレビのチャンネルを回していた。
「別に、どこもそんなのやってないみたいだけど…」
せっかく身構えていたというのに…まあ、何も無いならそれで良いのだが。
「噂なら噂でどんどん広めないで欲しいよね…『やっほー! 皆さんこんばんわー!』…ん?」
随分とテンションの高い番組だ…
こんな時間だし、さっさと寝れば良いのに。
『私、河童の
にとりだよ!! この幻想郷で色んな発明をやってるんだ!』
<今日は河童のにとりさんの一日について、追いかけていきましょう>
…河童の生態を追いかけるドキュメンタリー?
しかもその河童、喋ってるし。
『この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りいたします。』
<守矢神社>
守矢神社?
っていうとやっぱり噂で言ってた…。
『春は酒臭い妖怪が辛い!』『イエス!』
『夏は太陽が暑い!』『イエス!』
『秋は畑の収穫が辛い!』『イエス!』
『冬は冷害が辛い!』『イエス!』
『そんなあなたに守矢のお守り!』『ヤー!』
『ありとあらゆる災厄からあなたや大切な人を守ります!』『イエーイ!』
<効果には個人差がございます>
『守矢神社でお守り、販売中ー!』
『お問い合わせは妖怪の山、守矢神社まで!』
…何これ。
『0.1%でも確率があるならば…そこに掛けるべきでしょう』
『守矢の富くじキャンペーン、出たー!』
『大当たりならなんと…秋神様の御信託が付いてくる!』
<気に入られた方はそのまま秋神様と将来をご一緒にキャンペーン付き!>
『さあ…あなたもわずかな可能性の希望に掛けてみませんか?』
『お問い合わせは妖怪の山、守矢神社まで!』
すっごい変なCM…
まるでどこぞのテレビショッピングのような…。
『見つけましたよ、○○くん』
…CMじゃない!?
『もう…あんなにメールを送ったのにどうして返事をくれないんですか?
ひょっとして、恥ずかしい…とかですか?』
あ、そうか。
これはテレビ電話でも何でもない、単なる放送だ。
画面に映っているのは僕が裏切った東風谷早苗じゃないし、
彼女が呼びかけている○○はきっと別人だ。
『中々大変でしたよぉ…さっきのみたいにテレビ番組を作って何とかそっちの世界に飛ばして…
それでもっていろんな人を経由して○○くんに情報が行くように考えて…
あ、そういう話が聞きたいわけじゃないんですよね?』
でも、なんでこの女は僕の事を探して求めていたかのように話すのだろう?
『心配しないで下さい。 私を裏切った事については怒っていませんよ?
むしろ今となっては、あれは私への試練だと受け止めています』
何でこの映像は、今の僕の状況を理解した上で話すように作られているのだろう?
『だから…怖がらないで、一緒に私とまた暮らしましょう?
大丈夫です…心配しなくてももうすぐ会えま』プツッ
ツゥイン『一日の朝はきゅうりから始まるよ!』
<河童のにとりちゃん、健康的だね!>
…なんだったんだ、今のは。
ふふ…ようやく会えました。
あのときからしばらく経ちましたが特に姿に変わりはない様ですね…
ああ…楽しみ、楽しみですね!
…途中で切れちゃったのは、残念でしたけど。
「それにしてもすっごいじゃん早苗! 外の世界にも電波が飛ばせるなんて!」
「まあ、あれだけ色んな実力者の協力を取り付ければねえ…
いやしかし、以前とは比べ物にならないほどの信仰が集まってきたね。
外の世界の信仰を忘れた人間たちも、ある程度は神を信じるようになったってことかな」
「いや多分、可愛い女の子に目が眩んでるだけじゃないかな」
「…うう」
「しょうがないよ、昔とは信仰の形が変わったってことだよ」
お2人も私の事はほとんど気に掛けなくなってきました。
警戒して監視されることはもうありません。
やりたい放題です。
「次の撮影は何だっけ?」
「あれだよ、確か…主のカリスマ特集」
「ああ、あっちこっちの勢力の主を集めてカリスマに関する会議をしたりするんだね。
ウチの代表は?」
「私だよ諏訪子」
「あ、そこは早苗じゃなくて神奈子なんだ」
「成果を挙げたという意味では早苗が一番なんだけどね…
残念ながらカリスマという定義で早苗は企画段階で弾かれちゃったらしくて」
「ふーん、残念」
信仰も集まり、神通力も強くなり…あとはどう連れてくるか。
まあ、引き込むだけならもう、すぐにでも済みそうなので、シチュエーションを考えましょう。
ふふふふふ…
『昨日のにとりちゃんマジカワだったわ』
『やべーよなあの衣装とリュックサック』
『素もぐりの時間も半端なかったわ』
『あれどーゆートリックだろうな』
『可愛くてエンジニアとか中々最高じゃね? 色々ウチにある機械譲って反応を見たいわ』
『僕の身体も分解して点検して欲しいです』
『いいからそのオイルだらけの身体絞れよ』
皆は、知らないんだろうか。
あの、背筋が凍りつくような放送があったことを。
「よう、○○。
通販とかで守矢のお守り買えねーかなぁ…
ま、あーいうのは偽物だから成立するCMだろうけどな」
…知らないのだろうか?
「昨日、早苗さんが映ってたよ」
「そうそう、だからお守りと富くじっていう奴で」
「違うっ! 皆に語りかけてたでしょ!?
早苗さんに良く似た人が!!」
『語りかけた…?』
『いや、CMでお守りと富くじの宣伝をしてただけだったぜ』
『ネットで検索しても出てこないんだよな…お守り、良さそうなんだけど』
『にしてもCMとはいえ、深夜番組でウチの元マドンナに似た人を見るとはなぁ…』
「待て待て待て待て…落ち着け○○。
お前、何を見た?」
僕は昨夜あった出来事を話した。
CM中に早苗さんが映ったこと、僕に対して話しかけてきたこと。
「マジで…?
他の奴の話も聞いた限りじゃ、その放送はお前の所以外では流れてないみたいだな」
「…何なの、どういうことなの!?」
「落ち着け落ち着け…心霊現象みたいなものはなかったか?
例えば、手がどっかから伸びてくるとか」
「…なかった」
「ほら、そいつの言ってる事はハッタリだ。
そいつがお前をさらうって言うなら、放送直後に誘拐するんでも何でもできるだろう?」
言われてみれば確かにそうだ。
放送直後に僕をさらう事はできたはず。
彼女が、人間じゃない何かであれば。
「な? やっぱり誰かのいたずらなんだよ。
にしても○○にだけそんないたずらとかタチ悪いよなー」
『小心者だからなー』『心霊トリックの好きなストーカーにでも付き纏われてるのか…?』
『ストーカーって対象を怯えさせるような奴だっけ』『人によるらしいぞ』
本当に全部、知らない人からの僕へのいたずらなんだろうか。
そう思いながら僕は、いつの間にか守矢神社だった場所に来ていた。
「ねえ、早苗。
聞こえなくても良いから、聞いてくれるかな」
僕はもう、面倒になった。
「何で君は僕を求めるの?
君は何者なの? どうしてこんなことをしてくるの?」
自分の中のありったけをぶちまける。
「君の事は嫌いじゃない、むしろ好きだった。
だけど、別世界に連れて行かれるのは凄く怖かった。
しかも、連れて行かれたら二度と帰れないかもしれないと思うと、行く気がなくなった」
周りから見たら非常に奇妙な光景だろうな。
誰もいない神社の社にまで入り込んでぶつぶつ言っているのだから。
「裏切っておきながら虫のいい話だとは思うけど、
もう二度とちょっかいを出さないで欲しい。
僕の心を、乱さないで欲しい。 お願いだから」ブーッブーッ
<1件 メッセージを受信しました>
「こんなタイミングでメール…?」
『
だ
め
で
す。
』
「…ッ!?」
突然、体が宙を浮いた。
数秒前まであったはずの床はなく、ただただぽっかりと穴が空いていた。
僕はそのまま開いた穴の中に落ちた。
「うわああああああああ!?」
ついに…ついにこちらに○○くんを呼び込むことに成功しました!
今日は最高の日ですね!!
早速、連れて帰らなくては!
「諏訪子様、神奈子様! 今日はとても良い日ですね!」
「おや、早苗…いつもと比べて更に調子が良いねえ」
「ええ、ちょっと落し物を見つけまして!」
「ふーん、落し物ねえ」「テレビゲームでも見つけた?」
「じゃじゃーん!!」
「「!?」」
あれ、お2人ともあんまり喜んでない?
(ど、どうやって連れてきたんだい!?)
(私も知らないよ…まさか!?)
なんですか、皆で勝ち取った報酬みたいなものなのに。
「早苗…悪い冗談はやめてくれ…」
「そ、そうだよ…まさか、ここ最近信仰を高めるために色んなアイデアを考えてたのって…」
私は努めて、笑顔で答えます。
「はい、○○くんをこちらの世界に連れてくるためです!」ズゴッ!! ヒョイ
神奈子様が随分険しい顔をしていらっしゃいます…。
どうしてでしょうか。
「早苗、悪いことは言わない。
すぐに帰して来るんだ」
「うん、早苗…いくら私でもそれは流石にマズイと思うな」
「大丈夫ですよ…○○くんは外来人としてここにやってきてそれを守矢神社で保護した、
それだけの話ですから♪」ピシュンッ!! スッ
諏訪子様まで…どうして2人とも分かってくれないんでしょう?
「なあ諏訪子…これって私の責任かね」「いや、私の責任もあるでしょ」
「「ともかく、早苗を止めないと」」
もう、頭が固いんですから。
「仕方がありません…格の違いを見せてあげます」
―ねえ○○。 起きて、起きてよ―
「…こ、こ、は?」
「おはよう、○○」
目に映るのは涙で目を赤らめている彼女らしき姿。
「○○…心配したんだよ」
僕は…神社に行って、そこで床が抜け落ちて、それから…?
「どうしたの…○○? 私の事、忘れちゃったの?」
ああ、何故かこの声を聴くと安心してしまう。
あの頃の彼女の声みたいだ…。
「早苗、もう少し寝かせてやりなよ。
○○は疲れているんだよ」
「そうそう」
「…そうですね。
自分のことだけを考えていて、○○のことを全然考えていませんでした」
さ、な、え…?
「○○? 大丈夫です。
もう、絶対にあなたを離しません。
今度はずーっと一緒ですから…そうだ、例え人間としての限界が来ても、
神様として一緒にいられるようにしましょう」
最終更新:2017年01月16日 03:24