超猟奇&ヤンデレかこれ……?って感じの問題作です。
一言で言うなら「カニバルカーニバル!!」 なにそれこわい。
しかもカニバルされるのはもこたんの方だってんだから救えない。
そんなハードすぎるグロでもイケる、って人だけ読んでください。
「えっと……アレ…アレはどこにやったっけかなぁ……?」
私の見ている前で、○○がそんな事を云いながらドタバタと動き回っている。
戸棚を開けたり、ちゃぶ台の下に潜り込んだり、甕の中を覗きこんだり…その動きは忙しない。
そんな滑稽な○○の様子を眺めて溜息と苦笑を洩らしつつ、私は物入れ代わりに使っている箱の中から包みを取り出して、ちゃぶ台の上に置いてやる。
「探し物はこれ?」
「ん? あーこれこれ! これ探してたんだよー…どこにあったんだ妹紅?」
訝しげな表情をしていた○○が、その中身を確認した瞬間に笑顔になるのを見てさらに私の苦笑が深くなる。
……別に、こいつの喜ぶ顔が見れて嬉しいわけじゃない、うん、そうだって。
「どこにも何も、昨日の内に私が纏めておいたんだよ。全く、出かける準備は前日の内に済ませて置けっていつも言ってるでしょ?」
「あーうん、それはその……やる事が色々あるとどうしても面倒くさくなってしまうというか……ごめんなさい」
ちゃぶ台の上の荷物――○○が仕事に行くために必要な細々とした道具を脇に置いて、もう何度目かもわからないお説教の時間。
○○はしばらくは言い訳じみた事も言っていたが、やがて神妙な表情になってただ私に謝り続ける。
といっても、これもいつもの光景である訳で。謝罪の言葉だって何度聞いた事だか。
「これからは気を付けること…と言っても、あんまり期待できないのが本音か」
「ぐうっ、さり気に毒舌だねもこたん…」
「もこたん言うな、反省の色が足りないよ?」
やや強めに○○の額を突いて、お仕置き。
あいたたた、妹紅先生に怒られちまったよ…なんて軽口を叩くと、彼は荷物を片手に持って立ち上がった。
「そんじゃ、探し物も見つかったしそろそろ行くよ。遅刻すると親方にどやされちまうからな」
「ん、いってらっしゃい。帰りはいつ頃になるの?」
「ま、晩飯時になるかな? 仕事帰りの疲れが癒されるような愛妻料理期待してるぜー」
「別にまだ夫婦じゃないでしょうがっ」
「あぢぢぢぢぢ!? ちょっと炎飛ばさないでよ!? 掠った、今頬掠ったよもこたん!?」
「だーかーらーもこたんゆーなっ!!」
そんな漫才染みた遣り取りをしながら、私は○○を玄関まで送る。
こういう会話は、嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。慧音ぐらいしか友人と呼べる存在がいなかった私には、こんな何でもない会話も貴重な物に思える。
最も、○○は『友人』と呼べる存在じゃなくて、もっと別の……ではあるけど。
「あ、いけね。もいっこ忘れ物」
玄関口で靴を履いた○○が、自分で頭を叩きながらそんな事を言い出した。
ついさっきお説教したばかりなのに、何を忘れたというのか…流石に私の眉も微妙につり上がる。
「また? まったく、言ってるそばから…今度慧音に説教かわって貰おうかな」
「いやcavedは勘弁! そういうんじゃなくて、だな……」
「え?」
頭に疑問符を浮かべる間もなく、私の目の前一杯に○○の顔が広がった。
そして、唇に柔らかい感触。それを認識した瞬間、私の頭の中がスパークしたように真っ白になる。
「……行ってきますのキス、なーんて…」
イタズラっぽく笑いながら頬を掻いている○○を見ているうちに、私の頭が徐々に意識を取り戻していく。
そして、再び爆発。ただし、今度の色は灼熱の赤。
「べっ…………別にいつもそんな事してないだろうがぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
「うぎゃあああああああああ!? フェニックスは流石に反則だよもこたーーーーーん!?」
羞恥心をそのまま怒りに変えて、炎の翼を背負った私を見て慌てて不届き者が駆け出して行く。
あと、どさくさにまぎれてもこたん言うな。
その姿がどんどん小さくなっていく様を、肩をぜいぜい言わせながらしばらく見送っていたが、やがてそれも見えなくなった所で私は炎を仕舞った。
「………………」
なんとなく、自分の唇を撫でる。本当に不意打ちだったから驚いたけど、別に嫌では無かった。
むしろ、ちょっと嬉しかったと言えるかも知れない。
特に、一つの決意を固めていた今日という日を思えば。
私のそれを、後押ししてくれるような彼の行動は、ありがたくも―――煩わしくも、あった。
私と○○が、この竹林の一軒家で共に暮らすようになってからどれだけの時が経っただろうか。
ひょんな事から出会った私たちは、やがてお互いに同じ想いを抱き、そして、それを重ねた。
抵抗が無かった訳では無い。私が蓬莱人であり、○○が人間である以上、その関係はとても脆く儚い。
決して覆すことの出来ない『別れ』がそこにはあった。慧音のように、『友人』という立場で付き合うのならばまだ良かったかもしれない。
でも、○○も……そして私も、それを良しとはしなかった。ううん、出来なかった。
何度も悩んで、何度も衝突して、何度も泣いて、そして何度も愛し合って。
ようやく、二人で力を合わせて、残酷な運命を乗り越えた――――はず、だったのに。
私は、ゆっくりと自分がいる家の中を見渡す。
ここ、幻想郷に流れ着いてから、何年何十年何百年と暮らしてきた、このオンボロの一軒家。
既に見なれきってしまった筈のその光景は、たった僅かの間に全く別の物に変わってしまっていた。
ここで、彼と話をした。
ここで、彼と笑い合った。
ここで、彼と食事をした。
ここで、彼と喧嘩をした。
ここで、彼と仲直りをした。
ここで、彼と愛し合った。
ここで、彼と過ごしてきた。
記憶は物に染み付くものだという。この家にあるあらゆる道具の中で、もう○○と結びつきの無い物は存在していない。
小物一つ取って見ても、私はそれに関係して○○と何があったかを思い出すことができる。
今ここに○○の姿が無くても。
これから先、○○の姿が無いのが当たり前になっても。
それを考えた瞬間に、私の体の中に冷たい物が走った。
ただ頭に思い浮かべただけだというのに、体がぶるぶると震えだす。
カチカチ、カチカチと私の歯が耳障りな騒音を掻き鳴らす。
頭が、ふらつく。景色が、歪む。立っていられなくなって、私はその場にへたり込んだ。
私は、恐ろしかった。一度『思い出してしまった』温もりを失ってしまうのが、何よりも恐ろしかった。
もう一度、あの身を引き裂くような、心を砕かれるような悲しみを味わうのかと思うと、居ても経ってもいられなくなった。
「○、○っ…………!」
震えを止めようと、必死で自分の体を抱きしめながら、か細い声で彼の名を呼ぶ。
私は、こんなに弱い存在だったのだろうか。死の恐怖、老いの恐怖を克服した蓬莱人が聞いてあきれる。
今の私は、何も知らない第三者が見れば、ただの弱虫の少女でしか無いだろう。
だから、私はこんな卑怯な選択をしてしまう。
震えを無理やりに抑え込んだ後で、私は幽鬼のような足取りで台所へと向かう。
そこにあるのは、鈍い輝きを見せる刃物。
今朝も食事の仕込みに使われたそれを、私はゆっくりと手に取った。
その刃は、前日の内にしっかりと研いである。カボチャだって簡単に切り刻む事も出来るほど、鋭く仕上がっているそれをじっと見つめる。
薄ぼんやりとした影の中で、虚ろな瞳が二つ浮かび上がっていた。
私はやっぱり、我慢できなかった。
いつか○○がいなくなってしまう事が、私の愛した男が消えてしまう事が、どうしても耐えられなかった。
だから、私は彼に『罪』を背負わせる。
呪われた不死の生。万人が追い求めたというそれは、間違いなく『地獄』でしかない。
それは頭では分かっているのに、その辛さはこの身を持って体験しているというのに、私は私を止める事が出来ない。
全てが終わった後で、○○は私の事を恨むだろうか。
まるで私があの女にしているように、恨み言を口にしながら、私を手に掛けるのだろうか。
それでも構わない。それで彼の心が晴れるのなら、私はなんだってして見せる。
私が彼に求めるのは一つだけ。ただ一つの、どうしようもなく罪深いワガママだけ。
包丁を逆手に持ちながら、私は息を整える。
○○が返ってくるのは夕食頃だ。それまでに、全てを終わらせなくてはならない。
リザレクションに掛かる時間がどれぐらいか分からない以上、早く済ませなければ。
深呼吸しながら、固く目をつむる。脳裏に彼の笑顔を思い浮かべると、なぜか涙が溢れてきた。
悪く思っているのか、それとも喜んでいるのか。私は、自分自身の心が分からない。
ひと際深く息を吐いて、力強く眼を閉じた所で、私は構えていたそれを勢いよく『自分の腹』に突きたてた。
ズブリ、と。肉を切り裂く嫌な感触と、肉を切り裂く嫌な音が、私の二つの感覚器を刺激する。
それと同時に、激痛。
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
文字通り身を裂く痛みに、私は思わず声を挙げて目を見開く。
ここが、人気のない竹林の中で良かった。集落の中であったなら二、三軒隣の家まで悲鳴が聞こえていただろう。
しばらく、どうにか息を落ち着かせようと荒い呼吸を繰り返しながら、私は自分の腹から生えた獲物に目を遣る。
めり込んでいるのは半分程。果して、これで足りるのだろうか。
ともかかく、無駄な事を考えている暇もない。そうこうしている間にも、傷ついた体が修復されていくのを感じる。
私は、もう一度目を閉じると、ゆっくりと腹の中のそれを横にスライドする。
「ぐっ、あっ、ぎぃぃぃぃぃぃっ………!!」
食いしばった歯の間から、耳障りな叫びが漏れる。
奴との殺し合いを常としている私がこうなってしまう程に、自分の腹を裂くというのは地獄の苦しみだった。
喉の奥底から、何かがこみ上げてくる。たまらず吐きだして見れば、赤というよりはドス黒い液体がべちょり、と床に落下した。
「うっ、あっ……ああっ……うあぁぁぁぁぁっ……」
気がつけば、私は声を上げながら泣いていた。
痛い。辛い。苦しい。怖い。それに加えて、自分勝手な行動に対する自己嫌悪。
あらゆる物が私の心と、体を蝕む。でも、今更止めるわけには行かない。
愛する者を失うのは、それ以上の地獄である事を私は知っているから。
私は歯を食いしばると、血を失って徐々に力を失っていく腕を酷使する。
「あがっ、がっ…うぁっ……あああああっ!!」
悲痛に泣き叫びながら、私は尚も自分の体を傷つける。
だって、こうしなきゃいけないから。
こうしないと、○○と一緒に居られないから。
こうすれば、○○と永遠に共にいる事が出来るから。
私の中に『変化』が訪れたのは、その瞬間だった。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ……あっ……は……」
ぴたりと、三分の一程まで進んでいた手が止まる。
はっ、はっ、はっ、と荒い息を突きながら、私は今突然心の中に飛来した感情に驚く。
しばしの逡巡の後、私は再び刃を己が身に食い込ませた。
「ぐうっ、うっ、うぶっ……ふっ……」
ざわざわと心がざわつく。これまでとは全く別の感情が、私の中を支配していく。
「……ぐがっ……がっ……ひっ……はは……」
ぐにゃぐにゃと、私の表情が歪んでいく。
私は、もう、それに全てを委ねる事にした。
「……あは……は……あははははははははっ………あはははははははは!!!」
自分の腹を抉りながら、私はけたたましく笑う。
嬉しい。嬉しい。幸せ。これで私と○○は一緒。一緒の体。もう、死などと言うくだらない物に引き裂かれる事は無い。
ぐるぐると回る思考の中で、私はグリグリと包丁を先へ進ませる。
「ぐぁ、ぁっ、はははっ、○○、○○ぅっ…♪ 一緒…これで、一緒ぉ……!!」
頭の中がぐちゃぐちゃに攪拌されて、自分でも何を思っているのかが分からない。
多分、今の私は錯乱しきった酷い顔をしているのだろう。
でも、そんな事どうでもいい。私は今、どうしようもなく幸せだから。
「好き、好きぃ…ぎぃっ! あい、愛してる、からぁ…ずっと、一緒だかっ…がぁぁぁっ…!!」
背を思いきり仰け反らせながら、夢中で叫ぶ。
愛しい男への恋慕を叫びながら、私の体がビクビクと痙攣する。
ともすれば、まるで自分自身を慰めているかのような。
実際、私は激しい快楽と幸福感の中にいた。
身を焼くような痛みはある。だが、それすらも一瞬で塗りつぶすだけの快楽が私の中に存在していた。
「○○っ、○○っ、○○ぅ♪ 一緒に、なるのっ…! 私と、一緒に…ぐぅぅっ…一緒になって、しあわ、せぇっ♪」
脳の中が、チカチカと白く瞬いている。もう何も考えられない。
好き。○○が好き。ずっと一緒にいたい。二人で幸せになりたい。何者にも邪魔されず、ただただ共に居たい。
狂おしい程の恋慕が、私の中で暴れ回っている。
そうして、最高まで高ぶっていた私の体は―――玄関口でこちらを呆然と見ている男の姿に気づいた瞬間、一気に氷点下まで落ち込んだ。
「…………………あっ…?」
「……妹…紅…?」
嘘。だって、夜まで戻ってこないって。まだ、まだ夜じゃないよ? 空だって明るいし、小鳥だって鳴いてるよ?
「……ど、して……? 夜じゃ……え…?」
「……荷物…忘れ物があって…だから……」
忘れ物? そんな、全部ちゃんと私が入れといたのに。どうして。私が間違えたの? 嘘、だって、そんな、馬鹿な事。
「…………妹紅……」
嫌だ。嫌だよ。そんな顔で見ないでよ。
「お前……どうして……こんな……」
聞かないでよ。そんなの、わかってるでしょう? だから聞かないでよ。私の口から、私が弱かったからって言わせないで!!
「……………」
○○が、こっちに来る。逆光で顔が見えない。見たくない。○○が私に、 の表情を浮かべてるのなんか見たくない。
嫌だ。やだ。お願いだから嫌わないで。私を捨てないで。私は一緒にいたかっただけ。貴方を失いたくなかっただけ。
好きだから。○○の事、大好きだから。だからこんな事。○○だって私の事好きでしょ? 何度も、何度も愛してるって言ってくれたでしょ?
ねぇ、お願い、もう一度言って。好きでも、愛してるでも、どっちでも良いから。お願い。私を嫌いにならないで。
「妹紅」
○○が、倒れていた私を抱き上げる。
○○の顔は見えない。見たくない。私が見ようとしないだけ。
だけど、○○はそれを許さなかった、私の顎を持って、強引に視線を合わせる。
そして、そのまま、その唇が重ねられた。
「ん、んんっ!? んんっ……んむっ…!?」
驚きに目を見開いている私に構わず、○○の舌が、私の中を蹂躙する。
何度も何度も吐血して、ドロドロとした鉄錆臭い液体に塗れているそこを丹念に綺麗にしていく。
それこそ、布団の中で愛し合っている時にしかしないような、熱烈な接吻。
やがて、ゆっくりと口を離した○○は、私をじっと見つめる。
その眼の中に、嫌悪の色は無かった。
だけど、それに安心する間もなく、私の中を衝撃が駆け抜ける。
「あがぁぁぁぁっ!?」
激痛。再び、肉体を抉る激しい痛みが私を苛む。
でも、それを引き起こしているのは私じゃない。包丁を握っていた私の手は、もう床の上に落ちている。
今、私を体を抉っているのは、私が誰よりも愛した人。○○の手が、容赦なく私を切り裂いていく。
「い、いだ、痛い、よ、ぎぃぃぃぃっ!? なん、で…!? 私の事、きらっ……ぐぅぅぅぅっ!!」
「嫌いなわけあるかよ。俺は妹紅の事が大好きだ。お前を、心の底から愛してる」
そう言ってまっすぐ私を見つめる○○の言葉に、嘘があるようには思えない。
嘘があったら、こんなに愛おしそうに私の事を見つめられない。
だからこそ、彼の行動の意味が分からない。混乱している私の前で、○○がぽつりぽつりと語り始める。
容赦なく、私の中を抉りながら。
「妹紅。俺な、何度も何度も、寝ているお前の腹を裂いてやりたいと思った事があるんだ」
「ぐっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「もちろんお前が憎いわけでも、嫌いなわけでもないよ。ただ、お前の肝が欲しかった」
「ぎっ、ぎゃっ、あああぁっ…い、痛、苦しっ…○○っ……!!」
「お前と一緒にいたかった。それこそ永遠に、お前と不老不死の長い時を過ごしたかった」
「がぁぁぁぁぁぁっ……○、○……○○……○○っ………」
「格好付けて、人間の身でもお前と一緒にいるなんて言ったけど…やっぱり俺、耐えられなかったんだよ……!」
「○○……○○……○○っ…○○、○○、○○っ!」
私は夢中で○○の名前を呼ぶ。
でもそれは、苦しいからじゃない。この痛みを止めてほしいからじゃない。
「○○、○○、○○っ、○○ぅ♪」
私は、心の底から彼の言葉に悦んでいた。まるで睦言の最中のように甘える声を上げながら、無我夢中で愛しい人の体に抱きつく。
○○が私を求めてくれていた。○○も、私と一緒に成りたがっていた。○○も、私も、同じ想いを持っていた。
それが本当にうれしかったから、私は彼に縋りつきながら強請る。
「いい、よぉっ…!! 私の体、切り裂いていいからっ…! 私の肝でも何でも、食べていいからぁっ…!!」
涙を流しながら懇願する私は、よっぽど厭らしい顔をしていたんだろう。
○○は、まるで愛し合っている時のような、少し残酷な笑みを浮かべると、強引に刃を食い込ませ始める。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「妹紅、妹紅、妹紅、妹紅っ……!! ずっと一緒だからな…俺はもう、お前の事…離さないから…!!」
「うん、うんっ♪ ずっと一緒、死なないで一緒だからっ…傍にっ……がぁぁぁぁっ…!!」
「妹紅…!愛してる、大好きだ……俺の妹紅……!!」
「ひぐぅぅぅぅっ…私も、好き、愛して……ぐぅぅぅぅぅっ!!」
それは、間違いなく異常な光景だっただろう。
男と女が、愛を囁きながら、命を奪っている。
女は、男を情欲で塗れた視線で見つめながら、その身を無抵抗で切り刻ませている。
男は、女の視線に濃厚な接吻で答えてやりながら、より一層その身を鮮血で濡らしている。
けど、私は間違いなくこう言える。
○○と私は、誰が何と言おうと、愛し合っていた。
心の底からお互いを求めて、お互いを愛して、歪んだ幸せの中にいた。
そこにあった感情だけは、誰にだって否定させない。
「ぐがぁっ……!」
やがて、私の中の異物感が消える。○○が、私の中から包丁を抜き取ったんだ。
カラン、と音を立てながら赤い刃物が床に落ちると、再び中を犯される激痛と違和感が私を襲う。
「ぐぅぅぅぅぅっ!?」
「妹紅、もうちょっとだ…もうちょっとの我慢だからな…ああ、妹紅……!!」
私の腹の中に、○○の手が沈んでいる。大きく広がったそれが、無遠慮に私の中をかき回して目的の物を探り出そうとしている。
想像を絶する苦痛に私が目を白黒させていると、○○は別の手で優しく私の頭を撫でる。
それだけで、私の中の苦痛は消えうせて、強烈な快楽へと変わっていく。
ああ、もうすぐ一緒になれるんだ……私と、○○は、永遠に一緒に………
「ひぎゃぁっ!?」
ぼんやりとした夢想から、突然現実へと引き戻される。私の中のそれを、○○の手が握っているのがわかる。
握りしめたそれを引きずり出そうと、彼が手を動かすたびに、私はうめき声をあげて体を動かす。
私は、ただ『早くして欲しい』と願っていた。でも、それは決して嫌だったからじゃない。
一刻も早く、○○が私と同じになって欲しかった。ただ、それだけ。
しばらくして、○○は困ったような表情で手を抜く。
どうやら、私の中は予想以上に頑丈に組まれていたらしい。
ちょっとの間何事か考えていた様子の○○だったが、何かを決意した表情になると、私にこう告げた。
「妹紅。悪いけど、お前の中で直に食わせてもらう」
「………!!」
その言葉を聞いた瞬間に、まるで電撃を浴びたような気分になった。
○○が、私を貪る。それは比喩表現ではなく、言葉通りの意味で。
何故だろう。何故、その事が、それだけの事がこんなに嬉しく思えるんだろう。
私の体は、期待によってぶるぶると震えていた。
そんな私の表情を見た○○は、僅かに微笑むと、その顔を私の腹の近くに持って行く。
そして、硬くて熱い物が、私の中のそれを千切り取っていった瞬間。
私の頭の中が真っ白にスパークして、意識が散り散りになって行くのがわかった。
※
「もこたんってさー、やっぱ料理上手いよなー」
「…褒めても何も出ないぞ。あと、もこたん言うなって言ってるでしょうが」
「まーそんな事言わずにお代わりおくれもこたん」
「だからもこたん言うな!!」
のんびりとした夕餉の時間。相変わらずの漫才をこなしつつ、私は○○に追加の一杯をよそってやる。
結局、彼が蓬莱人となった所で、彼自身の内面が変わるという事はさほど無かった。
慧音にその事を話した時は、二人揃って長々とお説教を受けた挙句に激しく頭突きを食らった物だが…いや、あれは蓬莱人じゃなかったら危なかったかもしれない。特に○○が。
ともかく、あれだけ苦労しただけあって、私の心の中の闇は晴れていた。
もう、何一つ心配する事は無い。何があろうと、私は○○と共にいる事が出来る。
それがどうしようもなく嬉しかったのが、表情に現れてしまったのだろう。○○がキョトンとした顔で私を見つめていた。
「どうしたもこたん? なんかいい事あった?」
「ん? まぁ…そんな所かな。気にしなくていいよ」
「そっか、じゃあ気にしない。そんで、話は変わるけどさ」
そう言って、○○が空になった食器を置く。あ、もこたん呼びを注意するのを忘れた……まぁいいや、気分もいいし。
そして、彼はお気楽だった表情を一変させると、私にこう囁いた。
「今夜も、妹紅を食べたい」
「……っ…!」
かぁっ、と自分の顔が赤くなるのを感じる。でも、それは決して嫌な気分じゃない。照れくさくはあるけど、同じぐらい嬉しい事だから。
「……うん、わかった。準備、するから」
それだけ答えると、私は台所の戸棚の奥から、いつも使っている『アレ』の入った箱を取り出す。
蓋が外されたそれの中に、大切に大切に保管されていたのは、消えない紅に染まった小さな包丁。
例の一件以来、私と○○は、共にあの狂った愛の営みに溺れていた。
不死である蓬莱人だからこそ出来る、残酷で美しい死の営み。
○○が、私を切り刻み、喰いちぎり、咀嚼する。私と○○が、一つになる。
それが、私達にとっては何よりも幸せな愛のカタチだった。
他人には理解されない事などとうに分かっている。こればっかりは、あの頭の固い親友に話す事も出来ない。
でも、二人だけの秘密、というのもなんだかちょっとだけ嬉しかったりするから、我ながら始末に負えない。
「妹紅……」
そんな事を考えていると、○○が後ろから私を抱きしめてくる。
私は、背中の彼の体に体重をかけてわが身を預けると、自分の腹に回されたその手を重ねた。
ふと、彼の爪が伸びている事に気づく。昨日切ったばかりだと思ったが、随分と伸びるのが早い。…今度は私が切ってあげてもいいかも知れない。
そっと顔だけを後ろに向けて、唇を重ね合わせる。それだけでは無く、舌だって○○と深く絡ませる。
夢中になって愛し合っているうちに、彼の犬歯と自分の舌が擦れて痛みを感じた。最近はこうなる事が多い。……○○の歯が尖って伸びてきている? まさかね…
片手に包丁を、もう片手に私を抱えた○○が寝室まで私を運び、床に横たえる。
押入れの中から出されたのは、これから起きる行為専用の布団だ。
ところどころに真っ赤に染まった血なまぐさい布団は、正直私には不快な部分もあるが、○○はお気に入りだった。
なんでも、私の匂いがするからとか……嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
「それじゃあ、今夜も……たっぷりと味あわせてもらうからな」
私の上に覆いかぶさった○○が、舌舐めずりをしながら私の頬を撫でる。
こう言う時の○○の雰囲気は、いつもと全然違う物だ。荒々しいというか、野性的と言うか。こういう姿が見れるのはこういう時だけなので、こんな○○を知っているのは私だけだろう。
それがまたなんとなく嬉しくて、私もうっとりとしながら○○の頭に手を回す。
「うん……ちゃんと残さず、食べてね」
私の言葉に、○○は笑顔だけで答える。
そして、自分の腹に熱く鋭い痛みが走った瞬間に、私は大きく悦びの声を挙げた。
この幸せだけは、誰にも絶対、邪魔させないから。
不死の蓬莱人っていいよね…いろんな無茶な愛し方もできるよね……という俺の中の歪んだ願望がぶちまけられた結果がこれだよ!!
後、ヤンデレだけどそれを受け入れてハッピーエンドなバカップルも書きたかった。歪んでるけど俺の中ではこれはピュアラブストーリーだよ!純愛だよ!!
書いててヤンデレなのがもこたんなのか○○なのかわからなくなったけど、まぁ病みの傾向があるのはどっちもいっしょやで!みたいな
もこたんだったら蓬莱の薬もそうそう用意できないからこうするしかないよね!!みたいなー
てるよさんの方だったら、こう、首絞めネチョとかすっごくいいよねぇ…とか思っちゃうが…こっちもはたしてヤンデレと呼べるかしらん。
そもそもネチョいくなって? 全くその通りだねパッチェさんや……
多分続かないと思うのでここで僅かに裏設定?というか思いついたネタをちょこっと。
ラスト、○○はこのまま行くと妖怪化するかなー、ってイメージで書いてます。
そりゃーあんた、自分も蓬莱人な上に常日頃から蓬莱人の肝だの肉だのを貪ってりゃぁ外道にも畜生道にも落ちますよ、みたいな。
果たして閻魔様にどんな罰が下されるやら……
んで、完全に妖怪化して人の血肉を食らうようになっちゃった○○とか、それを盲目的に愛するもこたんとか、人里を守るために涙を飲んで二人と戦うけーねとか。
そんな展開も夢想しましたがなんかこれもうヤンデレじゃないよね…? ついでに書きあげる気力もないよ!! って感じなのでここに書き捨てておきます。
最終更新:2010年08月27日 10:41