この屋敷は本当に広いーー。勿論、いい意味で、だ。
応接間に入るまでそこそこな距離を歩いた。そこでその途中、廊下から石庭が見えた。
一度、稗田家に出向いた際に見たことがあるがこれはまるで別物だ。いや、稗田家の石庭も確かに目を見張る素晴らしさはあった。が、ここはそれと何か違う。
素人目から観てもここは閑寂さのなかに奥深い美しさを感じた。
そして屋敷の造りも良い。非常に風情がある。古屋敷の独特な匂いが鼻孔を通し、躰に染み込んでくる。

「いい場所に住んでんだな、あいつ。」

死後の判決が転生できるとなると、ここ、冥界で魂の余生を過ごすらしい。ここで気長にのんびり待てって事か…。

「それって今と変わんないな...。」

昔は用心用にと、刀が売れたこともあったが、親父が死に、今代の巫女がスペルカードルールを導入してからは全く売れていない。
時々、物好きの老人が買いに来たりするが収益はほぼ皆無なのだ。ここ最近は妖夢が買った、あの一刀だけ。
故にいつも暇なんだ。
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「さーっぱりわからん」


結局、頭を捻っても疑問は解決できずにいた。きっと俺絡みなんだろうとは察するがそれ以上は判らなかった。
――そもそもあいつは人間の俺とは違い半霊人なんだ。腹を探ったってわかりっこない。
そう割り切って問題を後回しにした。
頭を空にして天井を眺めていると、ひたひたと足音が聴こえる。

「〇〇さん、お茶とお茶菓子をお持ちしました。」

先程ここの主を呼びに行った妖夢がお茶と羊羹を持って戻ってきた。そしてにこにこと室内に入ってくる妖夢の後ろに目を奪われるほどの艶やかな、麗姿の美姫がゆっくりと中へ入り、真向いに座った。
妖夢はお茶と羊羹をそれぞれに渡した後、何故か俺の隣に座ってきた。いや、その人の隣でいいだろ。
素朴な疑問を抱いていると、その美人さんが話しかけてきた。

「こんにちは。初めまして。私、西行寺幽々子と言います。貴方が○○さん?」


おっとりとした口調でいて、しかし話し方にも艶があった。
――この人が冥界の白玉楼の主。西行寺幽々子か...。
生を捨てたからこんなにも佳麗なのかな。そういや妖夢も肌綺麗だもんな。
ぼーっと考えていると幽々子さんが俺の返事を待っているようだった。

「あー、えっとそうです。俺...ああいや私が○○です。」

「あらあら。いいわよ、そんなに畏まらなくても。もっと楽にしてね?あら、この羊羹美味しいわぁ...!」

「は、はぁ...。」

なんだが飄々とした人だな。まぁ一応は失礼のないようにしないと...。

「ごほん!!」

妖夢が話を割るようにわざとらしい咳をした。
それになんだが少し怒っている気がする。
「ふふっごめんなさいね妖夢。貴方たちからお話があるのだったわね。なあに?」

いつの間にかそれぞれの皿の上にあった羊羹がなくなっていた。待て、一瞬で食べ尽くしたのかよ。見た目と裏腹に大食なのか?
......あれ?貴方たち?

「もうずばり言います。私と○○さん、華燭の典を挙げます。」

「ぶっー!!!!っげっほ!!げっほ!!」

「えっ○○さん!?大丈夫ですか!?」

口にしていたお茶を思いっきし噴出した。驚いて変なところに入ってしまった。
ちょっと待て落ち着こう。


「っっああ、だ、大丈夫だ...。ヴっ!んん...。はぁ........はぁ........。まて今、お前なんて言った?」

「......?あ、そっか。言い方が悪かったんですね。え~と、私が、○○さんに、嫁ぎます。」

「」

頭が真っ白になった。なんだこれ。こいつは何言ってんだ?
嫁ぐ?華燭の典?だってそれはつまり――。

「まぁ!それはおめでたいわぁ!それで、それで、いつ縁組みをするの?」

「えへへ...。それはまだ決まってなくて...。」

「決まったら教えてね。...そう、成仏する前に妖夢の晴れ姿が見られるなんてね...。死んでてよかったわ~。」

ちょいと、お二人さん。当事者が置いてかれてるんだが...。こ、困ったぞ...。
一旦、整理しよう。まず、こいつ、妖夢は俺に嫁ぐといった。つまりだ。妖夢が俺に対して抱いていた感情は尊敬なんかじゃなくて...。え~と、あれだ......。
恋愛の方の、好きということ...なんだよな?

「も、もしかして、かっこいいとか、好きだ...ってのは、その...愛の、好きだったのか?」

「そうですよぉ!全然気づいてくれませんでしたねー!私なりにすっごく惹きつけてたつもりだったんですけど...。
このままだと恋が実らないまま終わりそうだったんで思い切って告白しました!うふふ、ちょっとドキドキしたけど頑張りました!」

「そう、やっぱり妖夢の独断専行だったのね。彼、そんな雰囲気でもなかったし、もしやとは思ったけど...。まぁでも、そんな些細なことはどうでもいいわよね。で、○○さん?あなたのご返事は?」

「あ、ちょっと幽々子様!!それは私が聞くんです!!」

ごめんね~妖夢~。と鈴を転がすような声で幽々子さんが悠々と謝る。
返事?それは受けるか、それとも断るかってことだよな。
...............。


「はぁ...じゃあもう一度やり直しますね。」

幽々子さんの方に体を向けていた妖夢が今度は俺の方に体を向きを変えた。
自然と俺も妖夢の方に姿勢を変え、真っすぐに目を合わせた。暗い灰色の目。
彼女は真剣な眼差しで俺を見つめる。また、俺の知らない顔をしていた。

「○○さん。私、あなたのことが好きです大好きです愛してます。
初めて会った時から、私を認めてくれた時から、ずっと......。
あなたの言葉なら、どんな事でも受け入れます。
だから、○○さん...。どうか...どうかご返事を.........。」

...................。
――俺は............。

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最終更新:2017年01月16日 20:25