ひどく蒸れた、だらしない夜だった。自分に絡みついた彼女の肌は、粘ついた甘い熱が伝わってくる。
「痛いよ正邪」
嫌気な肌を削る音とともに怖い冷たさが背筋を走る。背中から彼女の白い腕へと伝う生ぬるい血がささくれた畳を染めた。
若く逞しかった私は求められるがままに体を正邪に押し付けて、彼女は焚き付けるようにちくちくと私の体を傷つける。嬉しそうに私の下でくねらす汗ばんだ正邪は柔らかくそして愛しかった。その弄らしい生き物に誘われた、私は一頭の鯨にもなり、彼女を飲み込んだ。
まぶしい月明かりに、光った汗の飛沫は彼女のものか、私のものか。
「もっと押し潰してよ、隙間がなくなるまで」
母のように馴れた声は朝の訪れまで私の耳元で囁かれた。


一回り大きな、私の赤子は、玉の汗を降らせて甘えてしまっている。息を切らせて、勢いがなだらかになってくれば、蠢き始め縋る。
これに震えぬ女がいるか。目前の南天の実をついばみ、育む。いつか枯れて無くなるこの実かと思えば、惜しくなり爪を立てる。
悲鳴ともつかぬうめきはさらに私を焦らせる。腕からつたう血を舐めて見せると小さな目が開ききり、化け物が映った。
懸命に暴れる男を抱き締め、誉めてやりたい。遠い。私の胸を千切り、彼の胸板を剥がしてやりたい。彼の耳元で甘言を囁く。
肺が潰され、息が掠れて、白く溺れた。

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最終更新:2017年01月16日 21:01