ウサギの夢うつつ
「なんか昨日、鈴仙が僕の布団の上にいたらしくってさ。」
『へえ、それはまたあれね。』
「朝起きたら真っ赤な鈴仙の目が見えてね、よくよく話を聞いたらどうやら夜の
内に僕の部屋にいたみたいで。僕の寝顔が見たくて一晩中僕の上にいたってさ。」
『あら、ホラーね。』
「道理で朝起きたら布団が重かった訳だよ。鈴仙も僕に体重を掛けまいとしていた
ようだけれど、途中で眠ってしまって僕に圧し掛かっていたからね。」
『貴方はそこに着目するの?』
「着目というより、僕の観察だね。まあ、僕も寝言で重いと言っていたようで、
鈴仙と二人でどうしたら良いかって考えてね。」
『それで?』
「なんと、鈴仙が僕の横で座っていればいいんじゃないかってね。僕はひらめいたん
だよ。まさにコペルニクスの発見とも言うべきものだね。眠くなったら、僕の顔を
見ながら眠れることだし。」
『ホラーというよりもコメディね、もはや。』
「コメディ?いや、ミステリーかも知れないよ、七洋さん。」
『どういうことかしら。』
「僕は昨日一人で帰ったんだよ。あのマンションは部外者はまず入れないんだよ。」
『ええ、そうでしょうね。二重のオートロックですし。』
「よく知ってるね。それで、僕が起きたときには鈴仙がいたんだ。」
『…。不法…侵入でしょう?』
「フホウ?僕は昨日鍵を掛けていたんだよ。しかも、朝起きた時にはご丁寧に
チェーンまで掛かっていたんだよ。」
『窓…は無理ね。三階ですし。』
「あれ、七洋さんに僕の家のこと話したっけな? まあいいや、浦戸さんにこうやって
二人っきりで話を聞いてもらっているし、何かバシッと解決できないかなって
思ってさ。こうやって話しているんだけど、どう?」
『そうね…。この私、浦戸紅子にかかれば、一つ真実が見えたわ。』
「へえ、どんなの?」
『つまり、こう考えられるのよ。貴方が一人で帰ってきて、そして朝になったら二人の
人間が部屋にいたのならば、元々鈴仙はあの部屋にいたと。』
「な、なんと!」
『っていうか、彼女が部屋に居るのは当然でしょう?同棲しているんだから。』
「そ、そうか…。あれ、じゃあ僕は何で最初に疑問に思ったんだろう。鈴仙、最初僕は
何で変だと思ったんだっけ?」
『…。私の目が今みたいに、どうして赤いのかってことよ…。うん大丈夫ね、取り敢えず
最初に合鍵頂戴。』
「はい、これスペア。」
『ありがと。そういえばあの部屋は二人では狭すぎて住めないから引っ越そうか。オート
ロックも案外不十分だし。』
「そうなの?」
『まあ、後ろにぴったりくっついて行くと入れちゃうしね。それじゃあ今から行きま
しょうか、良い部屋をこの前見つけたから……ね。』
最終更新:2017年01月16日 21:38