開き直り
『あら、そんなのただの言い訳じゃないの。』
そう緑色の目をした椿姫は言った。呆然とする僕に彼女は容赦なく言葉を続ける。
『灼熱地獄の調子が悪いだの、間欠泉のお湯でトンネルが崩れただの、そんなの唯の言い訳でしょうに。大体あの子が灼熱地獄を
管理しているのですから、そんなことあの子の匙加減一つの問題でしょうに。貴方、妬ましい程に馬鹿なのかしら。』
彼女の辛辣な言葉に動転しながらも僕は彼女に質問する。
「じゃあ、今までの
さとりが言っていた事は全部嘘ってこと?」
『いいえ、嘘じゃないけれど…。ただ貴方を帰したくないだけでしょうに。』
「なんてこった…。どうにかしないと。」
『どうやって?』
「どうって、だれか助けを呼ぶとか。」
『自分からのこのこ地底に行った人を助けるなんて、そんな良い人がいるのかしら。妬ましい程にいい人ね。』
「どうにかして地底を抜け出すとか。」
『空も飛べないのに?』
「じゃあ、どうしろってのさ。」
『どうしようもないでしょうに。それじゃ。』
パルシィから事実を明かされた僕は、彼女が帰った後で直ぐにさとりの所に行った。さとりは相変わらず僕に和やかな顔をしている
が、その笑顔の裏に醜い打算があると知った今はかえって嘘くさく見えてきた。
「さとり、嘘だったんだね。」
『ああ、そのことですか。別に嘘じゃあありませんよ。』
「そんな事言って、僕を地上に帰さない積りなんだろう!」
『そんなこと有りませんよ。○○さんはいつでも地上に戻れますよ…。戻れるのなら、ね。』
含むように言う彼女の言葉に僕は頭に血が上り、衝動的にさとりの部屋を出ようとする。しかしどこを見ても入った時のドアが無い。
さては催眠術で隠しているのかと、ドアのあった辺りを弄くり回すが、どこを触ってもドアノブの感触が無い。
「おい、さとりどこにドアがあるんだよ。」
『あら、そこに有りますよ。』
何時もの調子で言う彼女に、僕は堪らず悲鳴の様な声を上げる。
「なら、何でドアが無いんだよ!」
『私は別に構いませんよ。いつまでも○○さんと一緒に居られますし。』
「僕は構うんだよ!さとり、ドアを出せよ。」
『そうですね、私を抱いたらドアが出てくるかも知れませんよ。』
汗で濡れたシャツが、僕の体を冷たく冷やしていた。
最終更新:2017年02月06日 22:24