うちのいそうろうさん
長い坂をゆっくりと上ってくる、背の高い痩せた男は両脇に汗の染みを滲ませて、西日を背にしながら、うつ向き歩いてくる。
その姿を認めた瞬間に、鏡台に飛び付いて、鏡で口元について乾いた涎と隅についた目くそを拭って、とびきり濃い口紅を引いた。
湿った生臭い暑さに湯だってしまいそうになりながらも歩を進めると、額から鼻のとんがりにまで伝った汗が、歩くたびに左右に揺れた。重い一歩を引きずって、また地を踏むと同時にぱたぱたと汗が地面に落ちていった。
下駄の足音が近づいて来る、前をみやると小さい女の子が、両手をしなるように振って走って来た。
少名、小さい小さいその子はもつれそうになりながらも笑顔で走り、そして俺の胸に飛び込んできた。
俺は彼女の頭を両手で抱きすくめて、乱暴に髪を掴んだり引っ張ったりしてやった。彼女も痛がる様子も見せずに、俺の臭いを身体に染み付かせるように頬を胸元に、擦り付けている。少名は手探りのまま俺の中に見えない何かを探している気がした。
しばらくお互いの存在を確かめあった後、名残惜しく距離をとった。
「行こうや」
「行こうね」
俺たちは寄り添いながら自分たちの家に入った。
最終更新:2017年02月06日 22:41