「〇〇ぅ....」寒かったのか、布団を引き上げようとして、もぞもぞと少名が腹の上で動いた。
俺は上目で窓をみやると、大きな満月の周りを黒いごわごわとした雲が取り囲もうとしていた。
唇の端から垂れた血は、嫉妬か興奮のせいなのか、わからない。ねばついた口内を舌でなぞり、目の前で行われている奇妙な光景に、私は目を離すことが出来なかった。
静かな暗闇のなか、少女が大きな男に股がり、声無くよがっている。一見すると、それらは一体の奇妙な妖に見えた。親子ほども年の差のある男女が、もつれ絡まる様は異様と形容する他なかった。
まるで獣じゃないか。
衣擦れの音が微かに鳴る暗闇のなかで、気付かぬ内に自慰に耽っていることを、快感の震えに知られた。彼らの営みは気持ち悪くて、妬ましくて、そして不思議な美しさと艶があった。涙が頬を伝うのを感じながら、膝に立てた爪が刺す傷みで、何とかその場に留まることが出来ていた。
彼が起き上がり、彼女をくみしこうとした瞬間に、視線が私の目を射ぬいた。途端、熱く蒸気した眼差しが霧散したかのように表情のない冷たさへと変わった。その冷たさは、この千年生きてきた中で最も私の心をひび割れさせた。
「ねえちゃん、優しいんだな」
森の中で、出会って
「また、案内してくれよ。予約しといたぜ」
また会おうって言ってくれたじゃない
「綺麗だよ、あんたは」
そんなこと言うのあんただけだった。
「またな」「またね」
どうしてそんな目、こっちに向けるのよ。
みんなとおんなじ目だ
びちゃびちゃと、強い雨の音がした。その場にいることが悔しくて、彼のそばにいるのが自分じゃないのが悔しかった。惨めな気持ちのままに私は彼の家を出た。坂の麓に広がる町並みは、沼ように黒々として、ちらほらとひかる灯りは雨でぼやけ、虚ろげな姿を
挺していた。
最終更新:2017年02月07日 21:48