気が付くと、枕元に新聞が置かれていた。

薄暗い蔵の中、読むモノと言えばこれしかない。
俺は溜息を付くと、それに手を伸ばして一面を広げる。

びっしりと書かれているのは、頭の茹だった妄想と官能小説。

果てには俺と彼女が交わっているシーンを詳しく解説したシーンまである。
全く、している間に写真を撮るのは悪趣味だから止めろと言っているのにな。

後、記事内で俺を名指しにして同意を求めたり非難したりするな。
清く正しい、事実のみを追い求める文々。新聞の名が聞いて呆れるぞ。

そう、運動後のひとっ風呂を浴びに行く前に彼女に非難をしてみたものの、

「それは○○さん専用の文々○新聞ですから問題ありませんよ」

なんてしたり顔で言われてしまった。

溜息を吐きながら、新聞の最後の欄を読む俺。
こんな歪んだ、常軌を逸した生活を嘆きつつ相応に順応して生きている俺も、随分と彼女に染められたのかもしれない。

「……生理が、止まった?」

脳がとろけそうな文体の記事には、そうはっきり書いてあった。
月の頭脳に診察して貰ったところ、一ヶ月半だそうだ。

惚気と執着に満ちた文体で書かれた記事には、おおよそ一ヶ月半前後のどの日のどの交わりで受精したのかが検証されている。
思ったより冷静な表情と思考で俺はその事実を受け容れ、俺専用文々○新聞を閉じた。

ふと、蔵の郵便受けに新しい新聞が挟み込まれていた。

天狗謹製の薬でぼんやりとする意識を引き締め、郵便受けから新聞を引き抜く。
こちらは、文々。新聞だった。表の、彼女が一般的に出している新聞。

「……つまり、近々これは事実になるって事か」

そんな諦めと絶望、歓喜と愛しさが入り交じった俺の目線の先にある記事。
そこには、『近日中に婚礼会見!? 編集長射命丸文、結婚式敢行!! お相手は……』

ふと、視線に気付き郵便受けを見る。
郵便受けの間から、文が歪んだ笑顔でこちらを覗き込んでいた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年03月04日 01:17