魔理沙/22スレ/621-624




 「そんなにムカつくなら、もっと殴ってもいいんだぜ。」

金髪の少女が青年にどこか媚びるような目つきで言う。
自分をもっと痛めつけても良いという狂気染みた言葉は、
○○の中にある炎を燃やさんとガソリンを振りかけるが、寸での所で○○は耐える。
自分の拳を握りしめ○○はジッと魔理沙を睨み付ける。一時は激情に駆られたものの、
拳に感じた生々しい感覚と、目の前の少女にじわじわと浮かんできた赤黒い傷は彼の精神を押しとどめていた。
もっとも火が消えた訳では無い。理性の防火壁に押しとどめられているものの、
彼の心の中では未だに炎が荒れ狂っている。脳を怒りの炎に焼かれながらも○○は堪える。
 荒い息を吐きながら手を押さえている○○。
普段からは考えられない失態に歯噛みをしながらも、自分に冷静になるように言い聞かせ目の前の少女に問いかける。

「なあ、どうしてお前が××しているんだ。」

「なあ、どうしてだろうな。」

 周囲の人を引きつけるような普段の明るい笑みと同じ様にその顔は笑っているが、
口の端から血を流しながら言うとその感覚は一転し、むしろ醜悪な感覚すら覚える。
唇の端から垂れる血を舌で舐め取りながら魔理沙は○○に話しかける。
少女には似つかわしくない妖艶な姿で○○をいたぶる姿は、
過去の彼女を知る人が見ればあまりの違いに驚くであろう。

「冗談じゃない。お前とは付き合っていないんだ。そんなことなんてしていない!」

身に覚えを無い事を言われた○○は強く魔理沙の言葉を否定するが、魔理沙はものともしていない。
嘘を付いている人間ならばどこかに表れるであろう、後ろめたさを見せない魔理沙
○○は気圧される様に感じた。
本来ならば恋人ではない彼女が言ったのならば簡単に撥ね付けてしまえることなのであるが、
○○は魔理沙の言葉が嘘だとは感じることが出来なかった。
 これがただの村娘相手ならば、簡単に嘘だと撥ね付けてしまえるのであるが魔理沙は魔法使いである。
ただの外来人には出来ない事でも、魔法使いにとっては小指一本で、
或いは指を動かしさえせずに魔法を使うことすらできる。それだけでも唯の人間である○○にとっては、
対抗できない位の大きな差であるのだが、悪い事に彼女は霧雨家の人間である。
 それも家長である父親からすれば、目に入れても痛くないほど可愛がるであろう一人娘である。
少し前までは魔理沙は父親と仲違いの末家出をし、魔法の森で一人で暮らしていたのである
が、今日この離れで○○と話している分をみると、和解することができたようである。
 本来ならばそれは、親しい友人である彼にとっても喜ばしいことであるのであるが、
ことここに至っては○○にとってはマイナスであった-なにせ相手のホームグラウンドである。

「大体俺は霊夢と付き合っているんだ!お前なんかとつきあえるか!責任をとって結婚なんて
無理にきまっているだろ!」

 無理難題を迫る魔理沙の要求を蹴っ飛ばす○○であるが、
勢いのある外面とは異なり内心では恐怖すら感じていた。
いきなり交際すらすっ飛ばして既成事実を作りに行く彼女は、有り体に言っても異常であるし、
異常者が力を持っている現状は○○にとって大変危機的なものである。
外界では経験した事の無い異常事態のターゲットにされた○○は、魔理沙に追い詰められていた。
そのために○○は恐怖を吹っ飛ばすように声を荒げる。

「別れればいいぜ、私は寛大だからな。これまでのことには目を瞑ってやるぜ。」

 言うに事欠いて別れろとは、しかも目を瞑るとは何事かと○○は激高しそうになるが、
ここで怒りを露わにしてはいけないと、息を口に貯めて怒りを押し殺す。
この場は冷静に切り抜ければならない…。

「そもそもお前とは交際していない。子供の父親は俺じゃ無い。」

 努めて声を押し殺して攻め口を捜す○○。
そもそも自分と魔理沙とは何の関係も無いのであるから、
魔理沙が言っていることは何かの間違いだと自分に言い聞かせているが、
一方の魔理沙は余裕の姿勢を崩していない。
押さえ込んだ不安がふつふつと沸く○○に、魔理沙は犯罪の告白をぺらぺらと喋っていく。

「この前の満月に○○には魔女の薬でちょっと眠って貰ってね。記憶もちゃんと消してやった
ぜ。サプライズプレゼントだぜ。」

「なんて奴だ…。」

絶句する○○に魔理沙は懐を探り決定的な証拠を突きつける。
これで決まりだと言わんばかりに○○の鼻先に突き出す。
小春日の午後、うららかな太陽は○○に冷酷な事実を突きつけていた。
幻想郷に来てからはついぞ目にしたことが無い上質な紙、霧雨商店で金持ち相手に売っている
真っ白な洋紙には、簡潔な印字と流暢なサインが入っていた。

「ほら、永遠亭の診断書。永琳のサイン入りだぜ。」

「馬鹿な…。こんな物!」

「ああ、そいつなら何枚でも好きなだけ破ってくれていいぜ。文々新聞の折り込みチラシに
出来るぐらいに用意したからな。」

○○の努力を嘲笑うかのように感情を逆なでする魔理沙
これ以上魔理沙の話に付き合ってはいられないと○○は部屋を出ようとした。
王の早逃げ八手にしかず、これ以上ここにいると更なる深みにはまってしまう予感がに従い、
○○は腰を上げようとした-そう、上げようとした。
ところで、将棋には必死という言葉がある。どう王が動いても詰みになる状況のことである。
丁度今の○○のような

「ああ、○○、私を幾ら殴ってくれても良いけど、部屋からは出ない方が良いぜ。」

「…。」

「この部屋は離れだけれど近くに使用人がいるぜ。私が手を叩けば直ぐに来るからさ…」

にやけが止まらない魔理沙が○○の方に顔を近づける。

「うふふ、一体どう思われるだろうな。○○は。」

魔理沙の吐息からは甘いような、頭が痺れるような香りが漂っていた。







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最終更新:2019年02月09日 19:51