霊夢/ジョバンニ氏②
「四肢を切断したり、そういう非道な事はやらないようにね?」
紫は霊夢にそれだけ言ってスキマの中に消えていった。
笑っていた、結果は見えていたからか、
霊夢はそんなのお構いなしと言わんばかりに道具を磨いている。
僕は、
床に張り付けるような手枷、
元々は手足を壁に押さえつける為の道具らしいが、
とにかくそれに拘束された右手をなんとか動けるようにと、
手首を動かし、左手で引っ張り、畳を剥ごうとしたり、
それでも枷は取れなくて、
道具を磨き終えた霊夢が「もう、動かないの」と一言言うと、
別の、その枷が飛び左手も拘束してしまった。
「紫も馬鹿ね、そんな事したら○○が大変じゃない」
「……痛い事はして欲しくないな」
「我慢しなさい、一瞬なんだから」
長い長い針を霊夢が軽く嘗めると、涎はその先を伝った。
ああ、なんとなくわかったよ、
確かに手足なんか切らなくても逃げられないように出来る。
だったら手枷足枷で良いじゃないかとは思うけど、
「可愛い顔が見れないじゃない」
との彼女の言の意味は分からなかった。
「ぐっ……」
針が手を貫通していく。
骨とかどうなってるんだろうと思ったが、どうやら骨の隙間を無理やり通しているようだ。
「ご飯は、食べさせてあげるから」
トイレはどうするんだ、と気をそらせようとしたが、
地底の主に無言で笑われそうなトラウマが起こりそうで考えるのを止めた。
もっとも、どうせ二度と会う事も無いかもしれないが、
ぴん
「うあ……がぁ」
「今他の女の事考えたでしょ」
手を貫通した針にデコピンしただけ。
「『これだけ』で勘弁してあげる、あなたが悪い訳じゃないし」
違う、いっそ全て自分の浮気性を責めるように言ってくれ。
余計にタチが悪いから。
「人の物を取るような泥棒を生かしておいた私が悪いのよ、だから、
ねえ?誰の事を考えたのかな?怒らないから言ってよ、ね?○○」
困ったような顔で霊夢が覗き込む。
悪気が無いのか、邪悪だな。
魔理沙ですら返さない事に負い目を感じてたってのに。
ぴん
「っぐぅ……」
「痛いの嫌でしょ?素直になろうよ○○」
貴方にはなにもしないんだから、そう耳元で囁いた。
「み、皆、皆だ。
宴会で皆で仲良くやってた頃の事を思い出してた、だからな?」
「わかったわ」
言を制し、霊夢は針を握る。
「ご褒美、右手は自由にしてあげるわ」
「うっ……」
針が引き抜かれ、右手の枷が解かれる。
「ん……やっぱり鉄の味がするわね」
霊夢は針に付いた血を嘗め取った。
ああ、こいつは、
ちょっと、表現とか、人の愛し方を知らないだけなんだ、
だから、守ってあげないと、変な影響とか受けないように、
霊夢の心を僕が守ってあげ
ごり
骨をずらして針が手を貫通する嫌な音。
「ぐあぁっ!」
「右手、はね」
霊夢がくすっと笑った。
拘束されていた左手にはさっきよりも深く針が刺さっていた。
「大丈夫、仕方ないよ、○○は外界人だから。
弱いもん、ここの人間より、もちろん妖怪より。
だから守ってあげる、私がずっといてあげる、
私が○○をずうっと守ってあげるからね」
霊夢が懐から小さな木槌を取り出す。
ひぃ、思わず声が漏れた。
「○○はいい子だから、お留守番できるよね……?」
すうっと、木槌を振り上げ、
針を叩く振りをした。
「幻想郷に毒されちゃっただけだから、○○は。
私が慣らしてあげる、ここで生きていけるように、
だから心配しないで、待っててね?」
「……」
「ま、っ、て、て、ね、?」
「痛っ……」
針を握ってぐりぐりとかき混ぜる。
「わ、分かったから……早く帰ってきてね」
「ええ、分かってるわ」
痙攣する左手で、
背中を追う事も止める事も叶わず、
霊夢が神社から出て行く姿を目で追う事しか出来なかった。
うっすらと、
懐かしい宴会の日々を思い起こしてしまって、
理由も無く涙が流れた。
ああ、きっと、針が痛かったんだ、
そう思わないと、いけない気がした。
感想
最終更新:2019年02月02日 18:46