楓の葉が落ちる頃になれば、凛とした空気が肌をさすようになる。目が覚めたものの、いつもより早い時間におきてしまったようで、冬の乾いた寒さと被さる布団の熱でもう少し寝ようと思った。
体勢を変えて、つぎはぎの麻布団にくるまると、古く乾いた布地の匂いと蒸れた髪の匂いがした。
今日は日雇いの予定もなく、時間も気にせず二度寝が出来るとは、幸せなものだなと感じながら、枕に眠り沈み込んでしまおう、瞬間、ふと香ばしい暖かみのある上手そうな香りが通り過ぎた。味噌だ。この世界に来るずっと前には、いつも母親が台所で味噌汁を作り、魚を焼いていた。
懐かしい香りだ。そう感じながら、どこから漂ってきたのだろうとふと疑問に思った。
自分がすむ男所帯の長屋で、朝飯を作ろうとする奴がいるのか。さては、どこのどいつか上手いこと作った女が転がり込んだな。そう考えていると眠気が覚めてしまって、水を呑もうかと起き上がるとそこに女がいた。
茶髪で、眼鏡を掛けた細身の女は機嫌のよい調子で鼻歌を歌いながら料理を作っていた。
捲れた布団の擦れた音で、女はこちらを振り向いた。
「おはよう、〇〇。上手い飯はいかがかな?」
にしし、と細い目をさらに細めてそいつは笑った。

誰だよ、お前

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年02月07日 22:19