目が覚めると、そこは薄暗い見知らぬ空間だった。
これだけでも充分奇妙だというのに、おまけに身体も動かない。
縄で縛られているわけでもないのに、不思議な力で拘束されている。
「おはよう○○…目が覚めたんだね…」
耳元で声がして、俺はハッとした。
声の主は俺の背中から離れ、俺の正面に座る。
俺の妻、八雲藍だった。
「藍…?ここはどこなんだ…?」
「ここは紫様のスキマ空間の中…そしてあなたが動けないのは私が術を使っているからなんだ」
「何故こんな事を…?」
「わからないのか…?本当に…?」
わからない。それどころか今まで何をしていたのかすら良く思い出せないのだ。
「もしかしたら術を強くしすぎたのかもしれないな… ではあなたに説明してあげよう…」
藍は俺を優しく抱き寄せ、口を耳に近づける。
「…結婚した時にあなたにプレゼントしたあのマフラーは、私の毛で作ったんだ… そしてそれにはある結界を施してある…」
「その結界というのはな、あなたに私以外の女が近づいた時に…その事をを私に知らせるための仕掛けなんだよ もしそうなったら紫様のお力を借りてあなたを監視するんだ…どうだ?完璧なシステムだろう…?」
どこか自慢げに語る藍に対して、俺はただ呆然とする事しかできない。
「そして昨夜…その仕掛けが作動し、私は事態を確認する事になった いつものように単なる仕事での接触だろうと思っていたよ………… でも、違ったんだ あなたは私の知らない女と楽しそうに話していたんだよ」
それを聞いて俺は思わず「えっ?」と声を出してしまう。
「うふふふ…やっぱり覚えていないんだな 私は紫様の協力を得て、その女と話している途中のあなたをこの空間に連れ去ったんだよ…?」
藍の説明を受けて、朦朧としていた意識が目覚めていく。
それに連れて薄れていた記憶も戻ってきた。
「…その女の人はどうしたんだ?」
「………それをあなたが知る必要はないさ…まあ…相応しい罰を受けているだろうがな…♪」
「……」
「…ソイツが心配なのか…?私より…ソイツが心配なのか…?生涯を共にすると誓いあった私より…?……そんなの許さん………でも、そうじゃないとわかっているよ あなたは騙されているだけなんだよね…」
「えっ…?」
「あなたはあの女に騙されているんだよ 卑劣な手を使ってね… きっとヤツは私が羨ましかったんだ 誰よりも素敵なあなたに生涯を捧げたこの私をな… 何百年も運命の人を待ち続け、そしてその運命の人と結ばれた… 私はあなたに全ての初めてを捧げ、あなたも私に同じ物を与えてくれた… 初恋、純潔、ファーストキス… 全てがお互いの色で始まり染まっていく…そんな完璧な純愛が羨ましかったんだ」
「藍…」
「…ソイツは私達の世界を侵そうとした… 私のあなたに術をかけ、あなたを奪おうとした…!でももう大丈夫だよ…?私がその術を解いてやる…再び私の匂いで、私の色だけで染めてあげる…!」
藍は俺を抱きしめる力を強くする…。
藍と俺は口づけをし、藍は強引に舌を絡めてくる。
「○○は私だけを愛せば良いんだよ…?私の生涯において愛する人があなただけのように、あなたの生涯で愛する女は私だけでなくてはならない…」
痛いほどに強く、苦しいほどに深く唇を重ねる。
俺はそんな藍を一度離れさせ、口を開いた。
「…なあ藍、俺の鞄はどこにある…?」
「鞄?それならすぐ近くにあるが…」
「その中に…その…白い箱はなかったか…?」
「箱…?まさか…」
藍は鞄を持ってきて中から白い箱を取り出す。
「これの事か…?」
「ああそうさ…開けてみてくれるか?」
俺がそう言うと、藍は恐る恐る箱の蓋を開ける。
「これは…首飾り…?それに…私とあなたの名前が彫ってある…?」
「うん、プレゼントだよ… 今までの感謝と、これからの誓いを籠めた… 昨日はそれを買いに行ってたんだ」
「で、でも…!じゃああの女は…!」
「職場の先輩だよ… こういうプレゼントって何をあげたらいいかわからなくて…相談に乗ってもらっていたんだ」
「じゃ、じゃあ…アイツが吐いた言葉は事実だというのか…?そんな…なら私は…!」
藍の瞳からぽろぽろとしずくが流れ落ちる。
そしてその場所に崩れ落ちてしまう。
それと同時に俺の拘束はなくなり、俺は藍を抱きしめた。
「誤解…解いてくれたかな…?」
「うっ…ううっ…ごめんなさい…!私…私っ…!」
「こんなに藍が俺を想っていてくれるのに、俺が浮気なんてするわけないだろう?…愛してるよ、藍…」
「ひぐっ…あなた…!あなたっ…!ありがとう…!愛しています…!これからもずっと…!」
最終更新:2017年02月12日 13:56