「あなたみたいに、一人の外来人がこの町にふらふらとやってきたのよ」
「でも、超不細工」ひどいなぁ。
「そんな彼は、この町で職探しを始めた」
「苦節あって下水菅の整備の仕事についたわ。この町もまだまだ発展途上でね」
そういえば、雨の町というだけあって水道設備が異常と言ってよいほど完備されている。道沿いの下水道しかり、蛇口も捻ればちゃんときれいな水が出る。修学旅行で言った東南アジアよりも綺麗だった。
「熱い炎天下の下で、永遠と道を掘り進めていた彼は喉がカラカラだった。」
「堪らなくなって、こっそり仕事を抜け出して喫茶店に行ったのさ」
「急いで目ぼしいものを頼んで、ごくごくと飲み干した」
「一息ついて、さあ仕事に戻ろうとしたとき、彼のポケットには財布がなかった」
「何処かに落としたのか、仕事場に置き忘れたのか、慌てた彼は急いで店員に言い訳をした」
「だが、そこは商人の町の人間。払わなければ、呪いを掛けてもらうといい始めた」
「呪い……ですか?」
「ええ、呪いというものは金になるのよ。今は廃れてしまったけど、何件かはあるわよ」
「話が逸れたわね、この町では罪を犯したものには呪いがかけられてしまうの」
「それを聞いた男は大慌てで弁明を図ったけど、それですんだら呪いはいらない」
「店の中は大騒ぎで、通りを歩いてきた人も野次馬になって集まった」
「その中で一人の女性が人混みをわけいってきて、店員に対してこういった。この人、私の知り合いなんです」
「それを聞いた店主は青ざめて、慌てて彼に謝った」
「すみません、大変なご無礼を働いてしまいました、どうかどうか呪いだけは……とね。」どうやら話が見えてきた。
「ええ、構いませんよ。この人ってドジだから、すぐに物を落として行ってしまうのよ、ほらこれ、あなたのでしょ?」
「その手には彼の財布が握られていた」
「ああ、ありがとうございます。男は髪が垂れ下がるほど彼女に何度もお礼をした」
「いいんですよ、これも神のお導きということで。そう言って彼女は彼にほほへキスをした」
「初な男は固まってしまい、その原因はひらひらと手を振ってその場からさってしまった」
「その日から男の生活は一変した。」
「こき使われていた周りの人間からは、手を擦りながら媚びを売られて」
「町行く人達には気さくに声を掛けられ、買い物へ行くとおまけで手が塞がる」
「彼はこう思った、彼女のキスのおかげだって」
「そういうステキな生活を幾ばくか送っていると、家のドアを誰かが叩いた」
「はいはい、何時もなら居留守を使っている内気な彼も、そのときは陽気なお兄さんになって来訪者を出迎えた」
「守谷神社の□□ですが」出た、怪しい奴ら。
「〇〇さん、私達とご同行お願いいたします」
「その時、彼はどんな顔をしていたのかしらね」
「彼は民間区、貴族区そして、宗教区にへとたどり着いた」
「そこでは大きな図体を構えた女が待ち構えていた」
「君か?〇〇くんは、早苗も親と似て趣味が悪いなぁ、あははははは」
「私は、神奈子というものだ。神をやってる」何と言うか、雑な自己紹介、
それでいいのか神奈子とやら。
「おどおどしていた〇〇は、ある女性を見付けてとびきり喜んだ」
「女神様‼あのときのキスの女性がそこにいた」
「彼女は此方を振り返ると、大きな笑みを浮かべて彼の方へと向かってきた」
「ああ、来てくれたのねと彼女は彼の手を握ってそう言った」
「ねえ、お話したいから此方へ来てちょうだい」
「そう言って、彼女は彼の手を引いて彼女の部屋へと向かった」
「ねえ、〇〇。私、あなたに恋をしてしまったみたいなの」開幕ジェットコースター。恋は突然に。
「だから、私と一緒に協力してほしいの」
「この町をもっと良くするために」
「〇〇くんだっけ、楽しかった?この数日感」彼女は大きな柱にもたれ掛かりながら、くすくすと笑いを堪えながら、此方を上目づかいで見上げる。僕の天使は先ほど「」とは何処か印象が違って見えた。
「いろーんな人に親切にしてもらって、あなたに偉そうにしていた人からも媚びへつらわれてさ気持ちよかったでしょ?」彼女は僕の胸元をぐいっと引っ張ると、鼻がぶつかりそうなほどに顔を近づけた。
「私のキスも満更じゃなかったでしょ」湿った息をはあっと僕の唇に吐き出した。
「こんな生活をもっと続けたいと思わないかしら、金も人も良ければ女もついてくる。どうよ、キモいおにいさん」この子は本当にさっきまで笑顔を振り向いていた子なのだろうか。
吊り上げて、細めた青い目は僕をまるで虫か何かと区別しているように冷めていて、頬まで裂けそうに広がった口はどこかのマフィア映画さながらのようだった。
「返事くらいしたら?それともブルッちゃったのかな?」
「あ、あなたは本当に天使ではないのですか」
しばらく、彼女は固まった様子で僕を見上げていたが、口から汚い屁のような音を立てて吹き出し、ひきつったような笑いでばんばんと近くの壁を叩いた。
「あんた、本当にキモいね。天使とかガチで言う人初めて見たよ」
心底可笑しげに彼女は笑いながら、息を切らせていた。
「話、戻すけどさあ、この生活を続けてみたいと思わない?派手で、楽なこの生活をさ」
「何が条件なんですか」
「お、話が早い。見た目よりは馬鹿じゃなさそうね」
「この町にはね、まだあなたみたいに守谷を信仰していない時代遅れな人間が沢山いるのよ。彼らを、ウチにがっちり引き込むためには」
「デモンストレーションが必要なわけ」
「貧しく醜い新参ものの外来人、汚い仕事場。つらい作業、そんななかに1つの光か、指したこんだ。そう、この守谷神宮の巫女、洩矢早苗がね。」それを言う彼女はどこか投げやりで、自らを皮肉っているようでもあった。
「彼女は彼を守谷神社の使徒に選んだ。彼は守谷の看板を背負って、無知で愚かな民衆に教えを説いていく。彼の手には、象牙の指輪が、彼の服は絹で織りこまれた高価な法衣。宗教を信じない奴にはうちの財力を見せつけてやればいい商売相手になる。馬鹿な奴には、善行とパンを、こすい奴らには金と商売の匂いを。あんたにはそういう役目をしてもらう。」
気がつけば、夏の大きな太陽は、俺達の真上に登って、真っ白な光を浴びせかけていた。熱さに眉をひそめた彼女は、陰のようにするすると草履を脱いで、屋敷の中へと入っていった。障子から、生っ白い細腕がひょっこり出て、此方へ来るようにと手招きをした。彼女の豹変ぶりに、俺は唖然としていると、さっさと来て‼、と怒鳴られた。
急いで、縁側を上がって部屋に入ると、早苗は靴下を脱ぎ捨てて横になって寝そべっていた。
「それと、あんたにはもうひとつ役目かあるの」此方を振り向かずに彼女は言った。
「あんたには、いずれ私の婿になってもらいたいのよ」
「え、それは洩矢さんの夫になれと言うことですか?」
「表向きにはね、あんたが外来人って言うのがミソなのよ」
「洩矢には現世に支局が欲しくて堪らないの、今得ている信仰だけでは全然足りないのよ。そのためには、最低でも私クラスの巫女か現人神がいなきゃいけないの」
「だから、うちのクソババアどもは私を嫁がせようとしているの。そんなのごめんだわ、ただでさえ化け物にされてやりたくもない宗教なんかやらされているのに」
「何で、それを俺に言うんですか?他の人に喋ったら、大変なことになるかもしれないのに」
またもや、彼女は笑い声を上げた。しかし、その笑いは酷く渇ききっていた。
「あたしが、何であんたみたいなブスにキスなんかしたと思うの?別に、やらなくてもあの場で救ってやった借りで呼び出せたでしょ」
早苗は、自分の薄い唇を、指でゆっくりなぞりながらこういった。
「呪いよ、永遠に解けない。」
彼女が俺ににじりよると、頬に触れた。
「蛇の毒は神経毒、出血毒、筋肉毒の3つがあるの」
「私がかけたのは神経毒、最初は体がだるくなる、次は指先が震え出したり頭痛がし始める」
「最後は……まあ、なってからのお楽しみ」早苗は俺に顔を近づけて、蛇のように長い舌ずりをして見せた。
「どうする、のかな」
こいつは最初から、取引なんかする気が無かった。俺に選択肢なんざない。
「あ、あの……俺はただの凡人で、そんな事業には役にたたないと思います」
「うん」深い緑の瞳孔と鮮やかな青の光彩はさながら、蒼い太陽が彼女の瞳に宿っているようだった。
「でも、あう、うん。あの頑張りますから、助けて下さい」
「よし、契約成立ね。じゃあご褒美、上を向いて口を開けて」
「何、をするんですか。あの、僕は何もいらないので大丈夫です」
彼女は鬱陶しそうな顔で、舌打ちを鳴らすと、立ち上がって僕の顎を掴み上げて、見下ろすように言った。
「あんたはもうあたしの奴隷なんだよ、口答えすんな」
彼女の頬は少し蒸気して、目は嗜虐的に歪んでいた。ゆっくりと彼女の小さな口から舌が表れると、一度上唇をなめつけ、そして僕の口元へとつきだした。
それは、尖った舌先で、潤みから徐々に雫となり、そして糸を垂らしながら落ちていった。
最終更新:2017年02月12日 14:36