日に日に年を取っていくと風邪の治りが遅いと感じる。少し蒸気している頬と頭では、外の冷たさはいい薬になる。彼女へ会いに行く先にある、池の表面には子供が駆け回れる程の分厚い氷が、気づかぬうちに張り巡らされ、冬限定の近道となる。ボロボロで固い上着のポケットに冷えた手を突っ込んで、氷の上をしっかりと踏みしめて歩き進んでいく。凍える静かさの中で、唯一自分の吐息だけが聞こえる。ポケットに突っ込んではみ出したマフラーが、歩く度にゆらゆらと振れる。
遠くで誰かの声が聞こえた、前を見上げると
遠くのほとりで小さな人影が見えた。ああ、可愛い奴め。口元がにやけてしまうのを感じながら、僕は足元に気をつけながらも彼女の方へと走り出した。
「ぶぶふ、ああ、ううん」
彼女は、うつ向きながらぶつぶつと何かを呟いていた。見れば白い雪が彼女の華奢な肩とピンと突き出した両手に積もっており、見ていて凍えそうだった。
「なあ、芳香。待っていてくれたのか」
「ううん、あ、ああ、〇〇だぁ……」
僕を、確認したのか芳香はぱっと笑顔を咲かせて、にこっと笑った。すると、彼女の紫色の唇がぱきぱきと割れてしまう。彼女の頬に振れると、少し凍ってしまったのか雪のように冷たかった。
「無茶しちゃダメじゃないか、また、青娥さんに怒られてしまう」
「怒られ、る?それ、よ、りも」
彼女は僕の説教をよそに視線を僕の手元に移した。
「て、つなぐのが、いい、な」
「でも、その手では握れないだろう?」
「*&ゞゞ&□〇」
「はい、はいわかったわかった。こうすればいいんだろ」
そういって、僕は彼女の腕を握って思いきり引っ張った。凍ってしまった彼女の腕の付け根から、気の抜けた軽い音がすると、だらりと片腕が垂れ下がった。
「痛くない?」
そういって、彼女の肩をさする。そして、膝まずいて彼女の手を両手で持ち挙げて、自分の息をかけてたり、握ったりして温めてやる。
「冷たいね。いつから待ってたの?」
「あの、青、娥がどこか、に出掛けてから」
「そうか」
雪が積もるころから、青娥が町に来ているのを聞いた。彼女が待ってたのは、おそらく何日も前からではないのか。
「ありがとう。こうすれば少しは寒さが紛れるだろう」
彼女に痛みも寒さもないのはわかっている。でも、ここまで自分を慕っている女にはそれなりの感謝と気持ちを示さなければならない。
「なあ、芳香」
「◎×*&ゞ□〇」
「君のことを愛しているよ」
いつか君が僕の言葉の意味をわかってくれるまで僕は彼女の名を呼び続けるだろう。
最終更新:2017年02月12日 18:47