易経講座2
今日も今日とて紅魔館に向かう。私が彼女の図書館に向かう様になってから、昔はちょこちょこと行っていた馴染みの居酒屋や食べ物屋といった、他の場所にはめっきりご無沙汰と
なっている気がする。居酒屋で知り合いと駄弁るよりも、図書館で本を読む事の方が最近楽しくなってきていたし、図書館に行けばそこらの食堂では見かけられない様な、分厚いス
テーキや卵をふんだんに使ったオムレツといった食事が、年代物のワインと共にいつの間にか出てくる。幻想郷ではまだまだ貴重な砂糖を、贅沢に使ったパンケーキを食べながら、紅茶を
飲みながら本を読む彼女を見る。貴重な図書ならば、食事をする時ぐらいは片付ければよさそうなものであるが、彼女はその本を常に机の上に置いている。まるで私とその本から片時も
目を離したく無い様にも思えるが、この本の魅力からすれば些末なことであるように思える。
私は今日も本の続きを、ページを捲ることすらももどかしく感じながら読んでいった。
乾為天
この卦には天を表す要素が二つ入っております。まさに古代中国で偉大とされた天子、即ち皇帝として中華全土に君臨するように、大きな力が集まりさながら竜のような巨大なものと
なっているイメージが適当でしょう。大きな力が得られますので、貴方の願いを叶える最適な状況と言えるでしょう。
古代の聖人はこの卦を竜の一生に例えて、人生の状況を比喩しております。この卦は最初の卦であり、この卦の次に紹介されている坤の卦と合わせて、物事の基本とも言えるのかもしれません。
占例 乾為天 変爻無し
ある人物が、とある女性との縁談について相談に訪れられたことがあります。元々はその女性は父親との反目の末、里を飛び出して魔女となった末に一人で魔法の森で生活をされて
いたそうですが、年頃となり気になる外来人の男性が出来たそうで、仲人を通じて縁談を申し込んできたとの事でした。
魔法の森に住む魔女となれば外来人ならずとも、いや信心深い里の住人ならば一層そうなのかも知れませんが、普段は気乗りがする話しではないのですが、男性にとっては真に何とも意地
汚い話ではあるのですが、その女性は里で一番大きな店の主人の娘であり、しかも婿養子になった暁には将来の大旦那となることが約束されているという、なんともはや、見逃すには少々惜し
い話であったのでその男性はこの縁談に乗って良いかと相談に来た次第でありました。
しかしやはり気になるのは、女性と結婚して上手くいくかというものです。いくら愛が有ろうとも、魔女の秘薬で無理矢理作られた愛では、相手が例えなよ竹の姫といえども無理になるからには、
是が非でもこの縁談に乗りたく男性としては相談にやってきた訳でありました。
今回の男性の縁談について占ったところ、乾為天の変爻無しという結果となりました。以前の占いでは変爻として一から六までの数字が示されていましたが、占いの方法によって
は、変爻が出ない場合があります。その場合は乾為天の中で全ての要素を含むものとして、全部の爻を参考にして結論を出す場合が一般的です。
乾為天は竜の一生を表しています。竜は万物の中で剛胆な力を表すものであり、昇竜門という故事から分かる通りに立身出世の象徴でもあります。そこで此の縁談についても男性の
栄達からすれば最良と言うべき卦でありますが、易経は出世の方法についても伝授しています。
原典の最初には「小さな竜は使ってはならない」としています。これはいまだ権力が小さい内には積極的に打って出るのでは無く、地盤を固める必要があると教えています。そしてその
次の文章には「地上に上った竜は、賢者の力を得なければならない」と意訳すると書いてあります。賢者に当てはまるのは当然に元魔女であるその女性となり、彼女の力を得て大空に羽ば
たくように勢いを増すことが出来ると、易経は教えていることとなります。
その他にも色々と易経は教えているのですが、ひとまずは之れを心の中に置き、商売に専心するように男性には伝えておきました。ちなみに男性が大変気にしていた縁談の相性ですが、
世に一つとまではいかなくとも、相当に良いと占いは告げておりました。
私はそれを見てある懸念がありましたので敢えて、「大変に良いので絶対に逃してはならない」と少々大げさに助言致しました。するとそれを聞いた男性は是非にと縁談に臨み、大いに
商店を発展させました。
さて、ここまでは目出度し目出度しというお話でありますが、易経にはある原則があります。即ち世の中には常に同じでいる物は存在しないという、中々捕らえようによっては残酷なもの
が御座います。平家物語のくだりを暗唱する琵琶法師ではないですが、驕れる物は久しからずと言われるが如く、易経の乾為天の卦においてもその栄光は永遠に続くものではありません。
乾為天の六爻において「昇りきった竜は下がるのみ」と、その幸福の終焉を予感させる文章が告げられています。
男性の商売には現代の知識を利用したものであったため、女性の実家からの元手があれば、成功は約束されたようなものでした。しかも、女性が魔女として鳴らしていた時代に築いた
魑魅魍魎の人脈によって向かう所に敵は無しと言わんばかりの状態でした。ですのでその女性については男性としても喉から手が出るばかりに欲しいものでありました。昔は。
しかしながら乾為天の豪運は男性に実力を呼び寄せたと錯覚させるものであり、次第に英雄色を好むと言わんばかりの状況となっていました。次第に女性の方は悲嘆に暮れ、男性の心変わりを
恨むようになりました。すると流石は腐っても鯛と言わんばかり、魔女の呪いはその男性を覿面に蝕んでいきました。そしてとどめとして周囲の人間が男性にそっぽを向けば、あとは男性の
運命は易経の教え通りに崩れていき、最後には全てが無くなりました。
私としてはこれを見越しており、男性に対して仕事に集中すべきと助言した訳ですが、それでも真面目な好青年をここまで変えた運命は、非常に荒々しく恐ろしい物だと思わされました。しかし
男性にも一つだけ望みがあります。私が以前に絶対に逃してはならないと助言した女性をそれでも失わなかった事です。乾為天がら下り坂になった運命は、男性のすべてを奪い去って行きました。
財産、人脈、信用、そしてあれだけ親しく情を交わしていた周囲にいた女性達も、彼を捨ててしまい山地剥の状態になりますと、もはや彼に唯一残されたのは妻であるその女性だけでした。
しかし易経は、全てを無くした男性に唯一残った女性こそが、この運命を切り開く鍵となると示しています。
易は変化を司ります。今はどん底の男性であっても再び蘇るでしょう。
最終更新:2017年02月12日 19:06