怒り、悲しみ、嫉み、驕り
そういものに囚われない修行をしてきた
鍛えれば鍛えるほどに、精神は高潔で健全でなければならない。力の使い方を誤るからだ
…では、正しさとはなにか。
自分の感情にのまれること、それが誤りだというのなら…
この気持ちも誤りだというのでしょうか
彼は読んでいた本を閉じるとぐっと背伸びをする
目を閉じる私が寝ているのか確認するためなのか、私の頬を撫でる。
そろそろ起きないとまたおこられるぞ美鈴、と優しく囁いてくれた
口の端がつり上がりとっくに狸寝入りはばれているだろう、彼もそれを知ってイタズラをしかけてくる
頬を撫でた指は唇に軽く押しつけられる、口づけされたのかと驚くがすぐに他愛ないイタズラだと気づき思わず笑みをこぼしてしまう
私は仕返しとばかりに彼の頬を捕まえて、こちらに引き寄せる。
彼の頬が紅潮する。私もこんなに彼の顔が唇が近くにあって紅くなっているかもしれない
額が合わさる。唇と唇を近づける、吐息がわかるぐらいに、近くて
柔らかく優しく、愛しくひとつになる
頭と体に温かな彩りがゆっくりと広がっていく…
時間を忘れてしまう
魔法のようで
運命はここなんだと感じる
嫌な気持ちを、破壊していく
顔を合わせて、二人して笑う
美鈴、そろそろ起きないとおこられるぞ
大丈夫です、大丈夫
起きなくても、大丈夫
ドレミー「人が眠る時、魂の置き場が必要となります。それが枕です」
必ずしも枕が必要というわけではありませんが
睡眠とは肉体と同じく魂も休める行為なのです
睡眠時に魂は肉体から離れます、夢の世界へ
ただ、稀に
『帰ってこれなくなる』ことがあります
すると現実と夢の境目が不安定となり、魂の戻らない肉体の覚醒を妨げます
仮に肉体が覚醒しても、魂は戻ってきてはいないので現実を『夢』だと錯覚します
紅美鈴は今まさにその状態です
夢に囚われ、起きることができません
起きたとしても魂は帰ってきていないのなら
それは『紅美鈴』に似た『誰か』です
『紅美鈴』ではありません
無理矢理起こすことも可能です、眠らせないことも同じく
ですが、魂は帰ってきません
それができるのは紅美鈴の魂と肉体を繋ぐ精神ただひとつ
彼女の魂は今夢の世界で『幸福』に包まれている
『起きたくない』と、思っているのです
私には、どうすることもできません
誰かに否定できますか?
誰かの『幸福』を
少なくとも私にはできません
最後にひとつ
この状態が続くといずれ肉体はいらぬものになり魂だけの存在になります。繋がっている精神も消えます
…どういう意味か?それ以上の言葉はありません。『そのまま』の意味です
小悪魔「あなたの、せいじゃありませんよ」
…【俺が美鈴をふらなかったら】?
それは、それはあんまりですっ…
『ひどい』です!
こうなることがわかっていたなら美鈴さんをふらなかったとでも!?なんですかそれ…
それのっ…それのっどこにっ…『愛』があるっていうんですか!?
それが『優しさ』だってあなたは言うんですか!?
そんなのっ…ひどすぎます!優しさなんてこれっぽっちもない!!自分勝手でっ…残酷な言葉ですよ!
自分にっ…責任があった方が気持ちの置き所があるからっ…そう思いたいだけ!
惨めで哀れなだけです!!あなたも!!美鈴さんも…!
私も!!
じゃあ、こんなことになるんだったらって、わかってたら
『恋が叶わない』って最初からわかってたら!!
『好きになるな』って言えますか!!
『好きにならずにすんだ』って思いますか!!
『誰も不幸にならなかった』って…そう、思いますか…?
…美鈴さんが、弱かった。それだけの話じゃないですか…叶わなかったからって…本当に、それだけ…
…私はそうなってないでしょう?
私だって、好き。あなたのこと
だったら私も同じことをするって言えば付き合ってくれますか!?愛を囁いてくれますか!?
嬉しく、ないですよそんなの…
…叶わなかった、それだけなんです
それだけ、なのに…
悲しみを糧にできるほど、強くはなかったから
最終更新:2017年04月08日 04:45