彼女たちに引きずられていく私たちを奴らはニヤニヤと笑いながら見ていた。
もしも、もしもあの時私が団長を名乗り出ていたら、もしもあいつの正体に気づけていたら、もしも、もしも、もしも――
もしも、あんな事件が起こらなかったら――
こんなくそったれた結末にならなかったはずだ。
これは、私たちが人里で自警団をやっていた時の話だ。
そもそも私たちの自警団はヤンデレから身を守るための団体だ。
かなり昔からある自警団らしい。
そんな昔からあるせいで、この自警団には団長はいなかった。
正確に言えばいるのだが、どこにいるのか、そもそも生きているのかすらわからない状況だった。
それでも、私たちは平穏に暮らしていた。
だが、その平穏もだんだんと崩れていった。
ある日、団員の一人がヤンデレに捕まった。
これだけだったらただのあり得た話だった。
だがその彼女が言った独り言の中に
「内通者がいるとやはり助かるわね」
という言葉が入っていた。
もしも、この時点で内通者の正体を暴くことができていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない――
その後も団員は減っていった。
みんな、ヤンデレに捕まったのだ。
私は彼女たちに聞くことにした。
内通者はなぜこんなことをしている?と。
帰ってきた答えはすべて同じだった。
「楽しいから」
私は内通者に対して怒りを感じた。
わざわざ楽しいからという下らない理由で私たちを売るのか、
だとしたらあまりにも身勝手で、どこまでも幼稚だ――
しかしそれと同時に不安を感じた。
このままこの自警団をまとめる存在が居ないで大丈夫なのか?
前団長には悪いが、新しい団長を決めたほうが良いだろう――
もしも、新しい団長なんて決めなかったら、この自警団は、どうなっていたのだろうか――
その後、団長を決めるための会議が開かれた。
その会議は数日続いた。
その途中、内通者は逃亡した。
関係ない話だが、どうやらこの内通者は様々な場所で悪さをしでかしていたらしい。
この朗報に私たちは歓喜した。
しかし、二度とこのようなことを起こさないためにも新しい団長は決めるべきだろう、という結論に至った。
もしも、新しい団長なんて決めないでいいと言っていたら、平穏な日々に戻れていたのだろうか――
とんとん拍子に新しい団長が自ら立候補していた者に決まった。
これで私たちは以前のような平穏な日々に戻れる。
そう、思っていた。
ある日、扉を開け、自警団基地の中に入ると、そこは、
「もう二度と離れないでよ、××」
「なぜ彼女たちがここにいる!」
「この手を放せ!」
「君を手放す必要があるのかい? △△」
「こんなところに隠れてるなんて、◇◇ったらお茶目ね」
「俺は……まだ……」
「サア、☆☆、私ト一ツニナリマショウ……」
「死にたくない……死にたくない!」
「迎エニ来タワ、○○」
そこは、地獄絵図と呼ぶにふさわしい場所になっていた。
部屋は荒れ、血が壁に飛び散り、様々な場所で団員たちの悲鳴が聞こえる。
団員の中には、体の一部を失っている者もいた。
そして、ここにいるはずのない女性たちは、皆、目の中の光がなくなっていた。
その中で二人高笑いをしていた。
その人物に向けて私は叫ぶ。
「どうしてこんなことをした! 団長!!
そしてなぜ裏切り者がここに居る!!」
その私の叫びに団長と裏切り者は鼻で笑い答える。
「なぜ? 楽しいからに決まっているだろう」
その言葉を聞いたとき、私の中の何かが切れ、奴らに向けて拳を振り下ろそうとした。
だが、その拳が振り下ろされることは無かった。なぜなら、
「サア、私タチノ家ニ帰リマショウ、○○……」
その手は、彼女に、掴まれていたからだ――
もしも、彼女の手を振り払うほどの力を持っていたら、奴らを殺せていたのだろうか――
……もしも、もしもと言ってきたが、所詮、過去はやり直せない。
そして、あいつらのせいで、私たちは未来を変えることも出来なくなった。
あいつらの、せいで。
……結局、あいつらのせいで、自警団の団員は全滅、私も捕まってしまった。
奴らは今ものうのうと暮らしている。
奴らとヤンデレたちの利害は一致している。だから、幻想郷の賢者たちに奴らを裁くことはできないだろう。
だから、最後に一つ、私の願いを書くことにしよう。
もしも、この文章をヤンデレから逃げている誰かが読んだなら――
裏切り者の■■と★★を、殺してほしい
それが、私の最後の「もしも」だ――
最終更新:2017年06月15日 22:36