小さい時から○○は形容し難き何かに餓えていた。
別に家は普通の家族で、偶に喧嘩もするが家族の仲は良い。
友達にも恵まれている。金や食い物に困っているわけでもない。
現代社会で当たり前だが、かけがえのない日常を送っていた。
ーーーだが、何か致命的なものが欠けている気がした。
ああ、もうすぐ母の墓参りにいかなきゃ。
数日後、母の墓参りを終えた○○は都内をぶらついていた。
田舎から電車に乗って3つ目の駅で降りると墓地へ行く事ができ、
さらに2つ目の駅で降りると都会に出る。
ここには小さい時からよく来ていたため商店街の人と親しい。
その為、偶にオマケしてもらえるがこの日はどこか変だった。
(···何かやけに皆無関心というか気味が悪いな。)
いつもは活気に溢れた商店街ーーーいや、都会全体が静まり返っていた
親しい人とも最低限のやり取りだけでコミュニケーションをとる様は
異常ーーー異変ともいえるものだった
人とは完全に心の距離が縮まる生き物ではない。
必ず心の隙間が存在する。
だから私は純化させた。
突然後ろからふんわりとした甘い卵焼きの匂いと共に
女性の両腕に包まれた。慈愛を持って包んだ腕を離す気にはならなかった。
後ろを振り返ってもいないのにその人が母である確信をもてた。
ーーーいつもこんな風に貴方を抱いていたわね。
もうずっと息子を抱っこ出来ないと思ってたけど。
巡り巡ってまた会えたわね。私の可愛い息子。
ーーー無償の母の愛とねっとりとした官能的な愛が混じった底なしの蜜の愛。
母の愛に餓えて、餓えて、餓えていた○○にとってその蜜は
ずっと底まで沈んで溺れていたいものであった。
ーーーもう一度、貴方の母にならせて欲しい
ーーーもう一度、貴方と暮らしたい。
ーーーもう一度、私の愛を注ぎたい。
貴方の返事を聞かせてちょうだい?
僕は振り返って黄色と黒の服装をした母にキスをした。
そして母の胸に顔をうずめた。
ーーーさあ、行きましょう。
幸せな母と息子は遠い所に行き、後には空虚な一家と都会が残った。
最終更新:2017年05月31日 20:41