蓋のない天井
扉を一度だけ叩くのは、決められた私達の約束。扉の向こうからくぐもって意味の取れない、彼の鳴き声が返ってきた。
「入るわよ」
ドアノブを握る時、慣れた今でも胸の痒みが走る。開いた先は暗転して、カーテンを挟んだ月の微かな光だけが彼の輪郭を捉えさせた。彼のテリトリーに侵入してきたのに、彼はずっと座り込んだまま天井を眺め続けている。それが、私にここにいていいと許された証拠でもあった
「綺麗なんだ、星。見てよ」
私達の世界に光を入れないために、片手でドアを閉めた。
「綺麗ね、今日は晴れてよく見えるわ」
真っ暗で低い天井を眺めてそういった。
ここは私達の世界。時間を止めるしか彼に触れることすら出来ないけど、この暗闇の中では溶け合って一つになれる気がする。私達だけの、いや私だけが入れる世界なの。
最終更新:2017年06月13日 19:16