古明地こいしの深層心理
ねえ、あなた本当に、お化けや妖怪なんていないって思ってる?
ふーん、そう。じゃあ、最近視線を感じているのって気のせい?一人で部屋にいると気配を感じるのも?
あと、この声って何なのかしら。気のせい、妄想、脳の病気、あなたはそう思い込みたいようだけれども、
残念でした。全部外れです。
じゃあ何なのかって?だから言っているじゃない、妖怪だって。うーん、非科学的、って言われてもねぇ。
私が居るのは事実だし、そもそも科学って何かしら。全てを科学で解明できる世界ならば私の存在を断定
できる筈なのに、あなたがそれを出来ないのなら、あなたの科学は結局のところ、手が届くところでしか
存在できないってことじゃないかしら。ええ、勿論昔の人に比べればそれでも大分進歩したんだけれど、
それでも神で無い身は、いや神すらも全ての森羅万象を司る事は出来ない。
だから私も存在しているのだけれど、でも最近の科学も私達の存在に迫って来ていてね、どうやらどっか
の科学者が言うには、私の存在はある種の情報らしいわ。そう、情報、ええ、そのコンピューターとやらに
入っている情報と同じ意味の情報よ。かけ算をしても私は一人、あなたが居ればもっと違うかもしれないけ
れどね…。そう残念。ああそう、私の正体だったね。何と私は幽霊と似た存在のようです。
え、さっきからそう言ってるって?うーん私はお化けの存在を信じるかって言ったんだけれど、私がお化
けや幽霊だとは一言も言っていないわ。似た様な物だって言われてもね。私からすれば天と地とも違う訳な
のよね。まあ、どっちが上って訳じゃないんだけれど。そうね、例えば宇宙人がいたとして、あなたは地球
にいるから、犬や魚と同じ存在だと言ってきたら、あなたはどう思うかしら?きっと、「自分をそんな物と
一緒にするな!」って思うよね。だから私としても声を大にして妖怪だって言っておくわ、声しか無いけれ
ど。
声だけの物が存在できるのかって?だから私は情報として存在しているって、言われるんでしょうね。姿
は無い、形も無い、目には見えず、だけれども声は聞こえて確かに存在する。摩訶不思議な存在だけれども、
妖怪ってそんなものだしね。じゃあ何処に居るのかって?良い質問だね。寺小屋の半獣なら花丸をくれる質
問だよ。私はなんと、人の無意識に存在するらしいの。あ、らしいって、言われても私が存在するのは事実
だけれど、私が自分で何処に居るのかってのは、ホントの所私にも分からないのよね。私が存在するのは自
分でも感覚として分かるんだけれど、ここが何処だかは分からない。上も下も無く、距離も無く、時間も無
く、唯其処に漂う様な感覚なのね。
人間には意識があるの、意識と無意識。フロイトなんていう人は、人間にはその無意識があると発見したよう
だけれど、無意識は普段は浮かんでこないの。だから無意識っていうんだけれど、脳の中で意識していること
に比べたら、無意識はとても大きいの。丁度氷山が見えている部分よりも、海面に沈んでいる部分が大きいっ
てことと同じね。その無意識は普段は人は感じないんだけれど、実はあなたの心の中で大きな役割を果たして
いるって知っていたかしら。私も最近お姉ちゃんから聞いて、そのお姉ちゃんも外来人がら読み取った情報な
んだけれども、人間の行動は大半が無意識で説明が付くらしいの。あなたが普段何気なくしている動作、起
きたり歩いたり、物を取ったりするその動作は、寧ろ意識的にしない限り無意識が司るものなの。どう、無
意識が大きいって実感が持てたかな。そしてその無意識は何と人と繋がっている様なのです。科学者の人は
脳の神経が人をミラーリングするとか、人の無意識には太古の神話的なモチーフが埋められているとか言って
いるけれど、まあ要はあなたと他の人の意識は深い所で繋がっている部分があるってこと。だから私はそこを
使って、どこにでも行くことが出来るし、誰の前にも現れることが出来るの。今やってる様に。
人間は脳で物を見ているって聞いたことある?普通人間は目で物を見るって思うよね。確かに目から光は
入り、それは神経に刺激を与えるんだけれども、その神経は脳に繋がり、脳で映像を認識しているの。そして
それは他の感覚でも同じ。人間が感じととる感覚は、脳に伝えられるんだけれども、それは脳で組み立てられ
るの。そしてその情報は正確に脳で再現しているのじゃなくって、その人の脳が勝手に強めたり、カットした
りしているの。当然よね、だって全ての情報を24時間感じていたら、あなた廃人になってしまうものね。
あ、そうなっても私が世話してあげるからね。私ペットの世話が得意なんだ。
えー、要らないの?そう、じゃあ続きだけれど、その脳が世界を認識するときに、意識や無意識のフィルタ
ーを通じて世界を見ているの。いわば皆、色眼鏡で世界を見ているようなものね。そしてその無意識に情報と
して私は存在しているの。つまりあなたの脳内に映るゴーストのようなもの。これがさっき言った、存在して
いるけれども、存在しないってこと、私は外界に物質としては存在していないけれど、人の無意識には存在す
る。そしてあなたは私の姿を居ないのに見ることができるの。こういう様に。
えへっ、じゃーん。どう・・・?うん、良かった、驚いているけれど、拒絶していなくって。
折角行くのだものね。ん、何処って?それに答える前に先に言っておくね。私は情報として存在するって、言
ったけれど、実態としてそこにはいないから、私のことが見えるには、私のことを知っておく必要があるんだ。
まあ、絶対って訳じゃないんだけれど、それでも知っている方がイメージがし易いからね。だから妖怪は自分
の存在を人間に知らしめるんだよ。そうでないと実体として体を保てないからね。名無しの権兵衛ではただの
有耶無耶でしかなくて、妖怪には成れないんだよ。だからこれで私の世界に連れて行けるね。
え、・・・。どうしてって、どうして?私のいる世界に連れて行ってあげるんだよ?どうして嫌がるのかな
- ?地霊殿は楽しいよ。お姉ちゃんでしょ、お燐でしょ、お空でしょ、あと色々な妖怪が居るから、とって
も楽しいよ。ふーん、どうしても嫌なんだ。あなたが何も言わなくっても、無意識は拒絶しているね。私、
だいっ、嫌いなの、それ。
言ったよね、私は無意識に居るって。だからあなたが何処に逃げても無駄だよ。私はあなたの直ぐ側に居るん
だから。ほら、今だって声が聞こえるでしょ?あなたの後ろに私は居るよ。ああ、壁を背にしたって無駄だよ。
無意識には距離や物質は存在しないんだから、だから、ほら、こうやって、ズルズルズルって引きずりこめるん
だよ・・・。
最終更新:2017年06月13日 20:02