僕は昔から友達がいなかった。
特別人付き合いが苦手というわけではなかったが、何故か僕はいつも1人だった。
最初は寂しかったが、やがて慣れて1人でいるのが当たり前になった。

だけど僕に声をかけてくれたのが早苗だった。
なんでも、早苗も友達がいなくてずっと寂しい思いをしていたそうだ。

早苗はとても明るい子で、しかもとびきりの美少女だ。
整った顔立ちに学生離れしたスタイル、柔和な頬笑み。
話している時の物腰の柔らかさも魅力的で、どんな話を振っても興味を持ってくれた。
そんな美人が傍にいて恋に落ちないわけがなかった。
同時に、どうして早苗には友達が出来ないのか分らなかった。
こんな美人を周りが放っておくだろうか。
生じた些細な疑問も、早苗の笑顔を見てれば吹き飛んでしまい――

「改めてそんなこと言われると照れちゃいますね」
「うわっ!?」

突如横から現れた人影に思わず飛び上がりそうになる。
1人だったはずなのに、突然現れたそいつ――早苗――は、不思議そうに首を傾げながら僕を見ていた。

「いるなら声をかけろよ。ビックリしたじゃないか」
「えー? ずっと横にいましたよー?」
いや、この日記を書き始めた時、僕は間違いなく1人だった。
それでも気付かなかったという事は、それ程夢中になっていたのだろうか。

だけどやっぱり、そんな疑問はクスクスと笑う早苗を見てあっけなく霧散してしまった。
悔し紛れに抱きしめると、益々満足気になり額を押しつけられる。

どうやっても敵わない。けどまぁ、彼女が幸せなら良いや。
そう1人で納得していると、それに反応したかの様に早苗が顔を上げた。

「友達なんていなくても、○○さんの隣には私がいます」
頬笑みながらもやけに真剣な声色で早苗はそう言った。
それに若干の違和感を感じつつも、僕は黙ってそれを聞いていた。
「ずっと、ずーっとお傍にいます。誰にも邪魔なんてさせない」
邪魔する人物なんて初めからいないような、とは言わなかった。
いや、言えなかった。
そこに何か踏み込んではいけないものを感じて、背筋が僅かに粟立つ。
何かって何だよ。そんなものあるわけないじゃないか。
宙に目をやる。まるで、誰かが、僕達をじっと見ている気さえして――
やけにざわつく心を必死に抑えていると、「○○さん?」と不意に声がした。
視線を下げると、早苗が首を傾げながら僕を見ていた。

綺麗な瞳と視線がぶつかる。

それだけで、僕は何もかも、どうでもよくなってしまった。

「変な○○さん」
でも、大好きです。
しゅるりと細い腕が首に巻き付いたかと思えば、唇を奪われる。
その途端、脳味噌が益々痺れた。
あまりの柔らかさと温かさに、心まで急速に蕩けていく。
ああそうだ、自分には早苗がいる。
それでいい。それだけでいい。

反射的に自分から唇を押しつけると、一層強く抱きしめ返される。
直前まで何を考えていたのかすら忘れる程の幸福感と充実感に、僕は全てを委ねた。

「今度、○○さんに案内したい場所があるんです。一緒に行きましょうね」
唇が塞がっているはずなのに確かに聞こえたその声すらも――

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最終更新:2017年06月13日 20:06