とある白狼天狗の日記

12月17日 sun
山をほっつき歩いていた人間を発見。警告を与えようと試みるが、どうにも様子がおかしい。体が衰弱仕切っており今にも倒れてしまいそうだ。
このままの状態で山を降りさせても麓にたどり着くまでに倒れてしまうのが関の山だ。山の中で人間の死体が見つかったとなれば哨戒役の自分達の面倒ごとが増えてしまう。体力が回復するまでの間、自宅で保護という形で住まわせることにした。

12月19日 Tue
例の少年だが、どうやら峠は超えたようだ。意識を取り戻し、目にも生気が宿ってきている。しかし、不思議なのが、全くと言ってこちらの呼び掛けに応じてくれないことだ。何か物事を問いただそうものなら、とたんに目の色が恐怖の色に染まり、ガクガクと震えだし始める始末だ。
とはいえ、与えた食事などは口にしてくれているので、さほど問題は無いのだが。

12月21日 Thu
例の少年はもう、山を下山してしまえるほどに体力が回復していた。が、もう少しこの場に留まらせようと思う。何故か彼のことが気になって仕方がないのだ。この気持ちは何なのだろうか?

12月29日 Fri
少々時間はかかったが、少年が徐々に口を開いてきてくれるようになった。今日は軽い自己紹介をし合った。
前々から胸に引っかかっていたこの気持ちだが、ひょっとしてこれは恋をしているのではないのだろうか。彼を目の前にすると妙にドキドキして、胸騒ぎがする。
.....早まるな、妖怪が人間に恋をしてしまうなど、愚の骨頂だ。嗚呼、自分がどうにかなってしまいそうだ

1月10日 Wed
自分はどうにかなってしまったらしい。年が明けても、例の神社で行われる大宴会の時も、哨戒役の仕事の最中でも、どんな時でも彼のことが頭から離れない。胸が飛び出しそうな気分はもう抑えられなくなっていた。
熱心にお話を続けたかいなのか、彼もだいぶ口を開いてくれるようになった。小鹿のようにガクガクと震えていたあの日の影はもうどこにも無い。

1月25日 Tue
少年、基、○○を見つけたあの日のことを問いただしてみた。
どうして、あんなに弱りきっていたのか、どうして、こんな場所をほっつき歩いていたのかを。
曰く、元は外の世界から来た外来人なのだが、外の世界にいた時に気を病んでしまい、そのままここに辿りついてしまったらしい。人と会話するのも億劫なほどの状態で、それが災いして里の人間にいびられ、ストレスのはけ口として八つ当たりを受け続けたことで里の居場所もすぐに追われてしまう結果となり、途方に暮れていた所に迷い込んだのかこの山だったのだ。
私は酷く激怒した。自分の良心が痛んだのか、それとも、彼を想う気持ちからなのか....どちらか一方だとしたら後者であろう。もう私は彼の虜なのだ。

2月10日 Sat
彼の話を聞いてからというものの、モヤモヤとした感情は収まりを知らない。この日記も、もはやただの恋愛ノートになってはいないだろうか。
○○くんの話を聞いた時からずっと考えていた。妖怪が人間に恋をしてしまうこと、そして、自分の心の奥底に芽生えつつある。どす黒い感情も。
彼を魅入ってしまった理由なんて分からない。だが、それがいい。理由もわからないような恋愛感情こそが運命の人を示しているサインのような感じがして私はたまらない。彼自身も、人と会話するのも億劫だと言っている割には、私にかなり早い段階で心を開いてくれた。きっと、きっと、彼にとっても私は運命の人に違い無いのだ。そうだ。きっとそうに違いない。私達は、運命の糸で繋がりあっているのだ。

日記はここで途切れている.....

7月20日、木曜日。きょう、いまこのしゅんかん。
私はどす黒い感情に飲み込まれてしまった。里で、彼にひどい仕打ちをした人間を、彼に代わって復讐してあげようという気持ちに。彼が復讐を望んでいるのかどうかなんて分かる訳がない。単なる自分の身勝手なエゴだ。本人はそれを望んでいないかもしれない。それでも、それでも、私が○○くんの救いの女神になってあげないと、そんな気持ちがすべてを飲み込んだ。

「ふふっ、ダメよ。ちゃんと、ちゃんと報いは受けなくちゃ....」

愛する○○くんの前で、彼のことを痛めつけていた里人の首を、私は.....
彼はまた、あの時のように小鹿のように震えながら涙を流している。私はあなたの女神様になれたかな?それとも、悪しき邪神のようなものになっちゃったかな?もうどっちでもいいや.....私は○○くんの女神様。こんな一介の白狼天狗に出来ることは限らている、それでも私は○○くんのためなら何でもする。例えそれが復讐であっても、単なるお話し相手であっても、女神の私がすべてをこなしてあげる。

「ふふ、ずっと、ずっと、ずーーーっと一緒ですよ。」

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最終更新:2017年11月18日 14:55