「呆れた…何を考えているの?」
「私があなたの行動を読めないとでも?」
「そう、その目…私が1番好きなその目…その目でずっと見つめていて欲しい…」
「愛情? 情欲? そんな蕩けたものよりもずっと素敵な怒り、憎しみの瞳」
「その目でずっと私を睨みつけ続けて頂戴?」
「咲夜、そろそろ新しい相棒を彼に付けさせなさい」
「そう、まだ別の脱出方法があるように、そして、それを私が知らないことのようにして、ね」
「あら、何かしら?」
「いいのよ…そんな事」
「彼と私の逢い方は最低最悪だった。 今からそれを戻そうなんて難しいわ」
「だから私の幸せはこれでいいの」
「あなたは人間でしょう? それにメイドたちは妖精。
誰かを助け、導こうとする存在」
「それに比べて私は悪魔。 どんな物語でも敵方に立たされる存在」
「私は歪んだ愛情を物語の
主人公に注ごうとしている…そういう筋書きで良いのよ、私は」
「そしてあなたや妖精たちはその魔の手から守るべく策を講じる…」
「あなたたちは彼の寵愛を受けられる、私は彼の本気の瞳を拝める。
何も悪いことではないでしょう?」
「残念。 あと30秒早ければ脱出できたかもしれないわねぇ?」
「さあ、どうするの? 諦めてあの牢獄に戻る?
それとも私と対決してみる?」
「あら、戻るのね。
よろしい、では―」スッ ザシュッ パンッ!
「あら? どうしたの?
私はその子と一緒に牢獄に入れるなんて一言も言っていないわ?」
「その子に感謝しなさい。 あと数ミリずれていたらあなたが死んでいたかもよ」
「そうよ、その憎しみの目を私に向けなさい。
この距離なら何か獲物を持っていれば私の事を殺せちゃうかもねえ」
「でも残念だわ。 ここに丁度良い武器なんて無い。
あなたに出来るとしたら視線で私を射殺すことくらいかしらね」ケラケラ
「あら怖い。 レディーに向けて随分な態度ね?
ジェントルメンはもっと余裕を持って接するものよ?」
「ふふふ…彼も大分、他人を頼りにするようになったみたいね」
「以前は自分ひとりで脱出しようとしていたのだけれど…
さて、ここからどうすれば彼の表情をまた違うものに変えられるか」
「慎重に選ぶ必要があるわね…
うまく行けば次はどんな顔を見られるかしら」
「ふふっ…良い事を考えたわ」
「ふふ…どうしたの○○? 随分感じの違う子を連れてきたわね?
あら…誰かといえばフランじゃない」
「囚われの姫君を救い出し、姫の力で邪悪な悪魔を打ち払い、この屋敷から出るというわけね?
面白い、実に王道のストーリーだわ」
「…まあ、そんな筋書き、始めから存在しないのだけれど」
「良いわ、来なさいフラン。
制御不能なその力で、この物語を壊してみなさい?」
「やっぱり、制御不能なだけあってこうなるのね」
「どうしたの○○? そんなに震えて」
「大丈夫よ、あなたはこうしたりはしないから」
「何でも破壊できるとはいえ、流石に運命までは壊しきれないようね」
「どう、○○? 恐怖した? 絶望した?」
「あなたがどれだけ他人に頼ろうと、あなたがどれだけ活路を見出そうと、
私からは逃れられない。 それが運命だから」
「さあ、分かったらまたあの牢獄に戻りなさい。
そこがあなたの居場所よ」
「お疲れ様、フラン。
そろそろ死んだフリを止めて良いわよ」
「どう? 彼はとても優しい男だったでしょう?」
「それにしても、あなたたちは羨ましいわ…彼から愛してもらえるんだから」
「私は始めて会ったときが最悪なタイミングだったのよ」
「それ以来、彼から見た私の印象は最悪。
ここまでの『物語』の都合で、よりもっと悪いものになっているでしょうね」
「でももういいの。
これが私の愛し方だから」ニタア
最終更新:2017年07月03日 20:19