「あなたはどこまでも優しいのね」
「私があなたをどれだけ拘束しようと、強制しようと、
あなたはその優しさで私を包み込んでしまう」
「あなたは私しか見ていないのに、私だけしか感じられないのに、
それでもあなたがどこかに行ってしまうんじゃないかって不安が募るの」
「最初はただ不器用なだけだと思ってた。
自分は人付き合いに慣れてないから、男性との接し方を知らないから」
「でもそういうことじゃなかった。
不器用といえばそうなのかもしれない。 でもこれはそんな生易しいものじゃなかった」
「羨ましく思えた。 あなたの側をうろつく女性が」
「アイツに取って代わりたい、アイツの代わりに側にいたい。
会話をしたい、交流を深めたい」
「私は実際にあなたと会話できてとても嬉しかった…
だからこそ、私はなおさら良くないものを育ててしまった!!」
「四六時中あなたの事が気になってしょうがない。
朝、何を考えて目を覚ましているのか。
昼間、どこで何をしているのか。
夜、家で何をして眠りに付くのか」
「もちろん、監視用に人形も配置済だし、直接私が見に行った事もあるわ」
「それでも足りない、満たされない。
やがてあなたを自分のものにすることにのめり込んで行ったわ」
「私が様々なアプローチを掛けていたとき、
あなたは何も不思議がらずに私の案に乗ってくれたわ。
散歩もデートも、自宅に招待も」
「どんどん受け入れてしまうあなたが素敵で、素晴らしくて…」
「そして…あまりにも理不尽」
「分かっているわ。 私達のような存在に目を付けられたらどうしようもないって事」
「でも、みんなの話では、その犠牲になった男達はそれでも抗おうとした。
知恵を使って、道具を使って、口先で丸め込もうとして」
「でも私が狙ったあなたは…何の抵抗もしなかった。
ただ私のものにする、私以外を見るな、私だけを愛せ。
と、半ば脅迫のような言葉をあなたは受け入れてくれた」
「…ねえ、どうして?」
「…あなたは優しい。 底なし沼のような優しさを湛えている」
「だからこそ、他の女もその優しさに気づいてあなたを狙う事がないように閉じ込めた。
独占した。 封印した」
「それでもあなたは少し困った顔をしたくらいで否定はしなかった」
「あなたには私達のような力は無い。 常識を否定するような才能も無い。
けれど、それでも、あなたには意思が持てたはず。
現状を受け入れず、ただ足掻くという意思が!!」
「なんで受け入れてしまうの? なんで否定をしないの?
なんで…諦めてしまうの? あなたを捕まえた私が悪いのに…」
「お願い…優しさで私の歪んだ想いを包み込まないでよ…
私の想いは作り変えられるべきなの…正しい方向に…」
「怒って…悲しんで…罵って…私にはそれを受けるだけの罪がある…」
「お願い…優しさで私を包み込まないでぇ…
悪いのは全部私、あなたは何も悪くないんだからぁ…」
「……決めた。 私はあなたを幸せにする」
「もう、縛りつけもしない。 閉じ込めもしない。
あなたの考えるままに生きて欲しい」
「そのお手伝いのために私を捧げるわ。
…こんなんじゃ、ちっとも贖罪にはならないでしょうけど」
最終更新:2017年07月03日 20:54