この文書は今までにこの幻想郷において
様々な女性に娶られていった外来人たちが行方不明になるまでの記録を残したものである。
なお、(意味は無いが)各外来人たちのプライバシーに配慮し、各犠牲者(?)の名前は全て○○で統一させて頂く。
人を喰らうは我が為 臓を喰らうは腹の為
けれど貴方は食べれない 心を大事にしたいから
心の臓は貴方の気持ち 私の為に捧げて欲しい
その青年は宵闇の妖怪に惚れられた。
切っ掛けはごく単純なものだったという。
『家の前で行き倒れていたのを助けたんですよ』
仮にも妖怪が相手なのに随分と呑気なものである。
『いやだって、目が覚めて話されるまで分からなかったし。
パッと見だとただの女の子だったんですよ?』
…この幻想郷においては真の意味で『ただの女の子』の人数は本当に少ないが…。
『妖怪って怖いものだとずっと思ってたんですけど、
意外と話してみたらそんなに恐くなくてですね、そこそこ仲良くなれたっぽいです』
そう、それでも忘れてはいけないのだ。
彼女らは自分たちとは違う存在である事を…。
『という事で連れてきました。
ルーミアちゃんです』
「んー? あなたは食べても良い人間?」
一体、何故連れてきたのか、本当に謎である。
『いや、とりあえずこういう妖怪がいるって紹介したくて』
「なー○○ー? あとで魔法の森にいこーよー」
『あー、別にいいけど紹介し終わってからね』
出会って数日でデートの約束とはすごいものだ。
この男は。
「そんなんじゃありませんって!!」
『デートってなんだー?』
「あー…ちょっと先輩ィ!?」
しばらく家の中が賑やかな事になったのは言うまでも無い。
ある日の夜のこと。
「ここにルーミアがおかしくなった証拠があるかもっ」
「た、確かではないけどね…」「止めようよチルノー…」
外から不審な声が聞こえたため慌てて扉を開ける。
「「「うわっ!?」」」
見れば氷精は手にツララを構えていた。
あとちょっと応対するのが遅れたら家に綺麗なオブジェがくっ付いてしまっていたかもしれない。
「ルーミアと○○を最近見かけないんだ」
「2人はよくここに来ていたんですよね?」
「だから手掛かりとかないかなぁ~…と思って」
とりあえず、何か変わったことなど無かったかどうかについて聞いてみる。
「あ、そういえばあたい、3日前に○○とルーミアに会ったよ!」
「なんだぁ、手掛かり持ってたじゃん」「わざわざここに来る必要も無かったね~」
「でも、○○に近づいたらルーミアがすっごい怖い顔してたよ。
あたい、びっくりして逃げちゃった」
やはり、いつも通りの事態が発生しているようだ。
「ねえねえ、ルーミアは大丈夫なの?」
「ちゃんと元に戻る?」「私たちと遊んでくれる?」
どれも約束はできそうにない…
いや、もっと恐ろしい事態に発展する可能性すら有り得る。
「もー! 人間はやっぱり役に立たない!」
「ダメだよ
チルノちゃん…多分、私たちの手には負えない」
「人間の大人どころか妖怪にさえ手に負えないなんて…
ルーミア、どうしちゃったんだろう…」
落ちてしまったんだろう。 きっと。
数日後、戸を叩く音で目が覚める。
『あけ…開けて下さい!!』
聞き覚えのある声。
○○の様だ。
『…ふぅ
先輩、お久しぶりです』
怪我1つ無い割には何かしらに怯えているようだ。
『ルーミアについてなんですけど…
本当は妖怪って、恐ろしい生き物なんだな…って…』
何を見たのかを問い詰める。
『妖怪ってどういう生き物なのか、どうやって生きているのか知らなかったんですよ。
だからルーミアに聞いてみたんです。
そしたら…』
ゆっくりと手で制止を促す。
言い始めれば恐らく、止まらなくなるだろう。
『…俺は、ルーミアが怖いんです。
今まで優しくしてくれてたのは、実は俺を大事に取っておくためなんじゃないかって。
俺が特別おいしそうだから、デザートみたいな感じで取っておいてあるんじゃないかって』
人間、極限状態に追いやられると有りもしない妄想を考え出すものである。
『俺…外の世界に帰ります。
外の世界も面倒なことだらけですけど、食い殺される恐怖におびえて生きるよりは数段マシだ』
その言葉を言い終わった直後、辺りが闇に包まれる。
『あれ、先ぱ…な、何も見えない!?
先輩! どこ!? どこにいるんですか!!』
恐らく、彼女は追いついたのだろう。
図らずも、帰還宣言をした事が彼女の怒りを買う形になってしまった。
『うわ、何か掴まれて…離せ! 離せえええええ!!』
無駄な抵抗をすれば自分の身も危ない。
私は一切手を出す事が出来なかった。
気が付けば闇は消え去り、
部屋の中は○○が来る前と同じ状態に戻っていた。
数日後、何食わぬ顔で○○は私の家に訪ねてきた。
『どうも、先輩』「わはー」
一瞬、お礼参りでもしに来たのかと警戒をした。
『いや、あの後ルーミアから、
なんで俺を食わないのかについて一生懸命説明してもらったんですよ』
よくぞ話が聞けたものである。
『そしたら…あの、なんていうか…その…可愛くて…
あのっ! 本日、プロポーズしましたっ!!』
うわお。
『とりあえず、俺の目の前では食事シーンを見せない様にお願いする事で手打ちってことで…』
本人が幸せならそれで構わないさ。
「○○が笑顔で頭撫でてくれて嬉しかったのだー
今度からは私がなでなでするねー」
『ねっ!? 可愛いじゃないですか!!』
彼の気迫から人間とは少々遠いものを感じ、
彼がその内どうなるかについて大体察した。
直接食べると怪我させちゃうから 心を食べる方法を
心を食べるための術 それは心を愛で埋める事
彼の心をいっぱいにして 私で彼を埋め尽くす
それが心を食べる事
最終更新:2017年07月10日 21:44