古明地さとりのカウンセリング12

 おや、これはこれは珍しい方ですね。あなたのような人が来られるのは予想だにしていませんでしたよ。いや、将来のことを無闇に予想すると鬼が笑うと人は言いますので、
あれやこれや言うのは無粋なのかもしれませんね。さあ、それではお話下さいな。あなたのその悩み事をご存分に。

 成る程、一本気で生きてきたのはいいが、周囲から孤立している気がすると。そして恋人からも本心では疎まれているのではないか…と言う訳ですね。確かにあなたのその
角のように真っ直ぐ生きて行くのは、色々ご苦労があるでしょうね。夏目漱石のような文豪も、「情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」
と嘆いていた位ですしね。まあ流される人生もそれはそれで根無し草のようで、不安定なものなのですが、義侠心と男気を合わせて生きているのは、やはり一筋縄ではいか
なかったのでしょうね。まあ、それを可能にしてきたのは鬼の力ということですから、正に人生万事塞翁が馬、というやつなのでしょう。

 ええ、そうです、あなたのその力こそが、孤立の原因なのですよ。全ての無理と道理を押しのけるその力こそが、あなたを孤立させる根源なのですからね。あなたがいくら
自分の正義を貫こうとも、それに付いてこれる人はあまり居ませんからね。精々が、鬼のお仲間といった具合でしょうから、ですからこの地底に引きこもる羽目になったので
しょう?余りに強すぎることは、相手に隔絶と断絶を抱かせてしまいますからね。ですからあなた達鬼は人間の奸智に破れてしまったのでしょうに。いくら強かろうが正道のみ
では人の世は生きられないのですよ。そしてそのあなたの頑固さは、あなたを蝕んでいますね。いくら堅固な意思であろうが、弾力が無ければ脆いもの。あなたのその正義は
あなたの弱い精神の裏返しなのですよ。

 おや、怒っていますね。しかしあなたがどう思おうが取り繕おうが、あなたの内面は弱く脆いのですよ。第一本当に強いならば、いくら外野から物を言われようが、反応する
ことが無いのですからね。人は傷口を触られた時が一番反応するのですよ。そう、恋人にも嘘を求めないと言えば格好は良いですが、結局の所は嘘を付かれるのに耐えられない
というだけの話なのですからね。ええ、全ての曲がっていることを受け入れられないからこそ、そしてあなたが不幸にもそれを実現できるだけの力があったからこそ、あなたは
純粋な世界を求めて、それが今正に限界を迎えて崩壊しているのですからね。

 ふむ、どうすればいいかですか。いやはや、残念ながら、私にもお手上げなのですよ、正直な所は。きっとあなたも、どうしようもなくなって、ここに来られたでしょうね。
ええ、お気持ちに添えないのは残念ですが、ここまで極まったものはもはや、どうしようもないのですよ。長年続いた歪みを解消するのは大変なことですからね。しかし、一つ
だけ良いことがあるならば、全ての物事は変化をするということですね。驕れる平家は久しからずと言わんばかりに、極に達した流れは何れは反対の動きを作り出すのですよ。
あなたのその苦悩すらも、いずれは解消する時が来ると、そうあなたが知ったことだけは、唯一の良いことなのかも知れませんね。

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最終更新:2017年08月21日 20:57