古明地さとりのカウンセリング15
こんばんは。地上の昼はまだまだ日差しが照りつけて暑いですが、夜は風が大分涼しくなってきましたね。はるばる遠路お越し頂くには、随分マシな気候に
なってきたのかも知れませんね。まあ、私のように地底にいる妖怪は地上には行けませんので、想像の世界でのお話ということになりますが。どうでしょうか、
私に色々お話していただけませんか。秋には少々早いですが、あなたのお悩みは秋晴れの様に心が晴れることになりそうな予感がしますので。
そうですか、奥様に雁字搦めにされてしまっているという事ですか。成る程、中々にお辛い思いをされている様ですね。流石は人里一番の名家の稗田家と
いったところですね。奥様も書き物をされているだけありまして、細かい所にも良く気が付かれる様ですし。それも相まって束縛をされていると感じられる
原因になっている見たいですね。
ほほう、それだけではないと…。そうですか、権力と財力を振り回し、周囲を傷付けても貴方に執着を見せるという事ですか…。それは大変な思いをされ
ているでしょうね。うっかり反抗でもしようならば、全てを押しつぶすように反撃の手を伸ばしてくるというのは、流石は歴史を記録してきただけがありま
すね。歴史の記録に置いては、所々に闇の様な表に出さない部分というものが、ままありますからね。歴代の記憶を引き継ぐということは、そのような闇に
葬り去られた水面下での暗闘を、しっかりと知っているという事でしょうね。しかも、歴史の勝者が自分の体面に都合が悪いので、こっそりと隠そうとした
いわば隠された成功談の証言人という訳ですのでね。まあ外の世界からすれば小さな村とお思いでしょうが、意外に歴史は繰り返すといったもので、外の世界
でも通用することは割かしにあるものなのですよ。
まあ、そのような執着をまともにぶつけられては当然ですが、堪ったものではないですね。いくら自分だけで立ち向かおうとしても、周りにいた善意の人ま
でも同時に迫害をされるのであれば、貴方の罪悪感が刺激されるのは私にも分かりますよ。しかもそれに対抗しようにも周囲の人は彼女の味方ばかり、おま
けに彼女とまともにやり合えそうな人外の連中も、何かにつけては彼女の肩を持つとなれば、四面楚歌といわんばかりですね。
さて、どうすればいいかという訳ですが、私の様な妖怪ならば自分の気にくわない余計な事をされたのであれば、相手をぶちのめすことで一件落着させるの
が、一番に手っ取り早くて簡単な解決方法なのですが、そうそう上手い話しは無い様ですね。まあ、貴方も色々と手を尽くされているようですが、知恵比べで
勝負されるのは、少々どころか、随分と分が悪い勝負ですね。そして貴方の心を読みますと、これが一番大切なのですが、貴方には彼女への狂気が無いのです
よ。ええ、まあカウンセリングに掛かっている最中に、お前は狂っていないと駄目出しをされるのはこいつは藪医者なのではないか、と思われるのは当然なので
すが、貴方はとても理性的に解決をされようとされていますね。
そう、彼女がとても狂気に満ちているのに、貴方はあくまでも理性で対応をされようとされています。彼女の狂気を理性で溶かすことが出来るとお考えなの
でしょうが、ええ、それはとても良いことなのですが、それは貴方の表の顔なのですね。そして表があれば裏が有ると…。
そうです。貴方はこれまで幾度も、彼女に対して理性的に常識的に対応して、そして力及ばずに周りに被害がもたらされるといった一連の流れを行っています
が、それは実は周到に計画されたものなのですよ。おまけに主演女優は彼女ですが、監督と脚本は貴方なのですよ。
驚きましたか…。そうでしょうね、これまで自分が苦しんでいたことが、実は全て自分が行ってきていたものだと知ってしまったのですからね。貴方の無意識
は実に巧妙に隠していましたので、貴方がこれを知ることは今まで無かったのですがね。実は是までの彼女の狂気は貴方が作り上げたものでもあるのですよ。
さて、驚いたところで、一気に貴方の内面に切り込みましょうか。この様に貴方の心を切り裂かないと、内面に隠された深層心理は中々尻尾を出さないのですよ。
まあ、暫くのことですので、少々我慢をお願いしたいものですね、残念ながら嫌と言われてもやらせて頂きますが。
貴方の心の奥底には、外界での怒りが溜まっていますね。自分が尊重されなかったと、愛されなかったと、そういうことへの怒りと欲求が貴方の心に充満して
いるのですよ。そしてそれは此処幻想郷にて、彼女と出会うことで化学変化を起こす訳なのですね。貴方の外面はあくまでも、彼女の狂気に対する被害者であり
ますが実は、裏では貴方は彼女に対して、狂気と執着を発揮するように仕向けていたのですよ。まあ、これは無意識のレベルで行っていますので、貴方や彼女が
気が付かないのは無理も無い話しではあるのですがね。そして貴方に仕向けられた彼女は存分に、貴方を愛して特別扱いをする訳ですが、貴方の場合には更に
少々厄介ですね。
実は貴方の心には自分が満足出来なかったことに対して、周囲への怒りも持っているのですよ。まあ、外界のカウンセラーならば、自己愛の不足なり、ニヒリ
ズムなりミュンヒハウゼン症候群なりと思う存分に解釈してくれそうですが、私にはそこまでは興味が無いものでしてね。彼女が周囲に対して怒りをまき散らす
ときに、あなたは一見心を痛めているようですが、実は心の奥底では喜んでいたのですね。まあ、そこまで露骨に言ってしまうと貴方の自己イメージの崩壊にも
なりますから、ここはそうですね…、スッとしたとでも柔らかく言っておきましょうか。実はこのドラマには再現性がありましてね、言ってしまえばいくら貴方が
表で努力しようが、裏で本当に思っている通りのことが何回も起こるのですよ。貴方が幾ら色んな策を講じようが、彼女がそれをかいくぐって、貴方は彼女の執着
に捕らえられ、周囲は彼女の怒りによって破壊されると。いやはや、中々にあっぱれな事ですね。ですから、貴方は彼女に対して心の底からの狂気や反感を感じる
ことは無いのですね。なにせ、貴方自身が彼女にやらせているのですから。
ですから、貴方が幾ら努力しようが、本当は無駄なことなのですよ。そして今日もまた、奥様は貴方の策略などお見通しですよ。荷物持ちの丁稚を買収する案は
良かったのかもしれませんが、外界の思想家が言うように、「人間は恩よりも恐怖で動く」ということなのですね。
さて、晴天には霹靂が落ちることがありますねぇ、それでは奥様どうぞお入り下さいな…。
最終更新:2017年09月04日 22:56