月都貴人専属医療班、隊長の日記9

1月1日(二年目) こんなにも重い気持ちの正月は初めてだ
しかし腹の立つことに、私の気持ちとは裏腹に並べられた正月料理は豪勢そのもの
私の人生で一番のごちそうであるのは間違いがない
しかし、綿月の二人と食べるのが条件なのならば、無い方が良い
依姫は酒の肴のつもりなのか、去年の虐殺を自慢気に話している
裏社会の一部を叩き潰したと豪語していた
それが比喩ではないのだから、恐ろしい
同期の出世頭は元日から働いているのか、豊姫の携帯端末に何度も連絡を上げていた
最後の下手人を『処分』したそうだ
新年早々、血の匂いにまみれなければならないとは

サグメは上機嫌な顔で、○○を脇にはべらせながら。明るい時間から酒が飲めるのは正月くらいだと笑っていた
お前は昼から、○○を巻き込みながらワインを飲んでいるだろうに
○○は自分が酔いつぶれる事にしたのか、杯の中身を一息に飲んでばかりであった
いたたまれない

1月2日 同期の出世頭が、綿月の二人に新年の挨拶に来た
サグメ肝いりの違法薬物浄化作戦の報告もあるのか、奴もドレミーと話を聞いている
しかし、そのお陰で久しぶりに○○と話が出来た
私が自由と尊厳を諦めていない事に彼は喜んでくれたが
いまいち話が噛み合わなかった、酔っている以上の物を感じた
まさかと思い、まだ薬をと聞いたが
ばれたとき、また虐殺が始まると言っていたので。もう手にはしていないようだ
……克服した理由が悲しいような気もするが

1月3日 宴はまだ続く
今日は外部の者も招待されたのか、同期の出世頭、彼が部下と一緒にやってきた
しかし、彼の部下とは誰とも目が会わなかったのは……処世術の上手さなのだろう
目をつけられないようにするのはもちろんだが、気に入られてもならないのをよくわかっている
やはり私は真面目すぎたらしい、だから綿月に、二人ともから気に入られてしまったと言う事か
同期の出世頭は○○といくらか話していた、珍しい姿であるが私にとってはある種の理想だ
表情以外は

1月4日 貴人の宴は長いと聞いていたが
まだ続くのには、辟易とする
連日連夜の宴は、さすがに私の体も悪くしたのか
朝方の着替えの時に、体に発疹が確認できた
酒の飲み過ぎならばまだ良いのだが、心因性であるのならば、ここから逃げる以外の治療法は無い

1月5日 同期の出世頭からメールが届いた!!
いわく、何か欲しい物は無いかとの事だ
そういえば私は、建前上は綿月姉妹専任の医務官であった
積極的な協力は出来なくとも、私の欲しい物を用意することはできるようだ
腹の底で違う使い方を考えていたとしてもだ、私が言わなければ彼も分からない

1月6日 癪ではあるが、それに事後報告でも大丈夫であろうが
空中庭園の一角に私が扱う診療施設が欲しいと伝えた
綿月は二人とも、二つ返事で許可してくれた
その日のうちに、同期の出世頭に頼んで壁だけは作った
心もとないが、奴らの視線をさえぎる場所が出来た

1月7日 高圧酸素タンクが欲しい
あれならば、少しいじれば爆発を起こせる
その程度で綿月やサグメを倒せるわけがないが、時間は稼げる
しかし同期の出世頭から、あからさま過ぎると言われた
彼にはあまり迷惑をかけたくない

1月8日 サグメの姿が見えない、○○の姿も見えない
かわいそうに……また弄ばれているのだろう

1月10日 同期の出世頭から電話がかかってきた
慌てた様子で、サグメと○○を空中庭園に呼び戻せと言ってきた
説明は後にしてくれと、彼にしては冷静さが無くなっていた
しかし、私を襲撃から助けてくれた実績がある
○○の端末に電話をかけたが出てくれなかった
同期の出世頭、彼は狂乱状態で空中庭園にやってきた
違法薬物を製造していた裏社会の一部が、反乱勢力と手を組んだそうだ
連中の第1目標は、浄化作戦のきっかけを作った○○らしい
要するに、復讐と弔い合戦が一緒になったそうだ

追記 深夜になってようやくサグメと○○は帰ってきた
そしてすぐに、ドレミーが物々しい装いの連中を集めてどこかに行ってしまった

1月11日 私あての荷物が爆発した
その音は空中庭園にいても聞こえた
箱の中身を検分するため開封したと同時に爆発したそうだ
狙いはどう考えても私だ
同期の出世頭が、裏切り者が近くにいると泣きながら叫んでいた
連中は……サグメと綿月の二人。こいつらを全員敵に回したようだ

1月15日 ○○の様子が明らかにおかしい
自分が命を差し出せば少しは状況がマシになるのかなと、力の無い目で私に向かって呟いた
馬鹿な真似をするなとだけ答えたが
なぜ、私と○○がこんなにも辛い思いをせねばならないのだ

1月20日 ○○は狙われようとしている
空中庭園から出たがるようになり、勝手に外に出ることも度々である
今日は上層階から外に向かって体をさらしているところをドレミーが見つけたそうだ

1月21日 昨日、○○が外を眺めて
いる場所に砲弾が叩き込まれた
しかし、上層階だけあり貴人も多い事から防備は万全なようで。ガラスには傷1つ付かなかった
だが、状況は最悪だ

1月22日 どいつもこいつも冷静さが無くなっていた
空中庭園以外の、○○や私が足を運んだ場所が次々に爆破されていた
その度に死者が、そして依姫なり豊姫なりサグメなりがやってきて辺りを焼き払い
ただでさえ多い死者が更に増えていた

同期の出世頭は、浄化作戦や私が襲撃された報復である虐殺の時に出来上がってしまった遺族の暴走だと説明してくれた
裏社会にも、反乱勢力にも、たくさんの遺族がいるそうだ

1月25日 これなら純狐が攻めてきた時の方がマシだ
写真や映像でしか見たことの無い兵器が、エリアの一角を焼き払っていた
幻想郷を調査した時でさえ使わなかった兵器が、辺りを歩き回っていた
豊姫は上機嫌な様子でもっと出撃させろと言っていた
サグメはわざわざ前線に出て兵器の群れを指揮しているそうだ
依姫はまた違う場所で剣を振り回しているそうだ
煙の中に人体の匂いが混ざっている気がして、吐き気が混み上がる

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最終更新:2017年09月04日 23:03