月都貴人専属医療班、隊長の日記12
3月10日 同期の出世頭から、短いメールが届いた
もうじき終わる、話ができたと、心労を長引かせてすまない。との内容だ
なぜ君が謝らなければならないのだ
3月11日 トイレで何度も吐いてしまった
朝起きたら、私は綿月の二人と一緒に。同じベッドで寝ていた
恐ろしいこととに、その記憶が全くない
何故だ。私自身が、嫌な記憶を封印したと言うことか
私よりも、○○の方が長く囚われているのに
同期の出世頭、彼の方が肉体的にも苦労しているのに
自分が情けない、だが体が動かない
3月12日 反乱勢力の指揮官が白旗を掲げながら歩いてくる映像が、玉兎たちの端末に生中継された
私も豊姫と一緒に
○○も
サグメの端末でそれを見ていた
映像に依姫が出てきて、反乱勢力の指揮官をいたぶっていた
横から同期の出世頭が出てきて、聞きたいことが沢山ありますと言って、連れていった
怪しまれないように、やや乱暴に扱っていたが
依姫よりはマシな扱いだ
彼も危ない橋を渡っている
3月13日 空中庭園で宴が催された
毎日が宴のような物ではあったが、今日のそれはいつもより輪をかけて酷い
○○は早く倒れたいのか、酒を煽り続けている
私もそれにならうことにした
3月14日 何の嫌がらせだ
白旗を揚げた、反乱勢力の指揮官を尋問する様子が玉兎に配信された
尋問とは名ばかりで、あれは拷問であった、その上に無意味なものであった
しかも私はあれを間近で見なければならなかった
空中庭園にいることの出来る我々は、映像ではなくて観戦できるぞと。豊姫が嬉しそうに語っていた
サグメは行くそうだ、○○を巻き込みながら
言葉尻に気を付けながら、他の参加者を聞いた
同期の出世頭もいるそうだ
行くしかなかった、彼があんまりにも悲惨である
3月15日 今日も綿月の二人やサグメと一緒に、白旗を掲げてくれた指揮官の拷問場面を見せられた
本当に、あんな物の何が面白いんだ
思わず、これ以上は危ないと口を出してしまった
建前は、聞きたいことがあるのだろうと言うことにした
しかし、あの指揮官は終わる事を望んでいた
まだ続けるのか、恨みのこもった声であった
私はそれを邪魔したようなものだ
だが、もっと酷いのは。豊姫がそのにらみつけに気付いて
苛立ちを隠しもせずに、蹴り飛ばした事だろう
同期の出世頭も、早くに終わりを与えたいのか。何も言わなかった
だがこう言うときに限って、豊姫は私の言葉を覚えている
一緒につれてきた護衛の私兵に、止血なとの処置をやらせた
○○は無表情でサグメに抱かれていた
私も豊姫を落ち着かせるために横合いに回ったが
あの指揮官、終わりたいのだろう。女を囲える私を罵倒した
よいご身分だな、夜もその調子か等と
今度は依姫が剣を振り下ろした
急所ではなかったが、神経を麻酔なしでやられたはず
叫んでいた。同期の出世頭が珍しく不機嫌な顔をしていた
だが、私の方は向かなかった。処世術なのだろう
3月16日 同期の出世頭から、恩を感じているなら月から逃げろと呟かれた
3月17日 喋る気がないのか、それとも体力が無いのか
あの指揮官は椅子に座らされたまま、うめき声すらあげない
生きてはいるようだが……
3月18日 同期の出世頭が、綿月から私兵を借りた
残党狩だそうだ
兵器の使用は嫌がったので、それが最後の一線なのだろう
私の方にやってきた彼が、諦めるなと呟いた
……分かっている
3月19日 残党がいると思わしき場所が、豊姫の端末にひっきりなしに上げられる
依姫が嬉々として出ていく
豊姫は私兵をあっちこっちにやっている
3月20日 同期の出世頭から、なにか欲しい物は無いかと言われた
文末には、諦めるなとの文字も
3月21日 いくつか物を頼んだ
酸素ボンベなども
すぐには来そうにないが、空中庭園の近くで綿月の私兵が集まっていた
物資などを積み上げていた、ここが残党狩りの拠点となるようだ
物資の用意にも同期の出世頭が一口噛んでいるのか、書類を見ながら荷物を検分していた
3月22日 遠くのエリアで小競り合いがあったそうだ
豊姫が私兵に対して、行けと短く命令していた
依姫も行ってしまった
しかしそれ以降の空中庭園の周りは、平穏そのものである
まったくもって、平穏である
3月23日 同期の出世頭が、残党がやぶれかぶれになって。無意味な突撃を繰り返すかもしれないと
そんなことを言っていたが
私は、綿月の二人に報告する彼を見ているだけであった
彼はこちらを見たが、少しの表情が固かった
3月24日 豊姫がみんなで遊びに行こうと言い出した
好きにしてくれ、もうどうでも良い
3月25日 正直な話、何を食べたか覚えていない
ただ、警備がどうので。同期の出世頭が豊姫の端末に上げた内容を
それを細かく聞くために電話をしていた
受話器のすきまから、彼の声が聞こえた
その時だけだった、私の感覚がよみがえったのは
3月26日 空中庭園にも近い集積所で爆発があった
しかし、単発であった。音も聞こえなかった
かろうじで煙が見えた程度である
3月27日 同期の出世頭の指揮している部隊が、爆弾を見つけた
さすがだ
3月28日 同期の出世頭から、またメールだ
諦めるなと
すまないと、そう返信してしまった
3月29日 また爆弾騒ぎだ
だが、組織的ではない。貴人の敵ではなかった
おまけに今回は爆発すらしていない。回路が不良品だったそうな
豊姫も、ため息ひとつで次の話題に移った
3月30日 すまない、そしてありがとう
3月31日 恐らくも何も。同期の出世頭が
彼がやってくれたのだろう
私は今、○○と一緒にロケットに乗っている
昨日、私はいつものように空中庭園に囚われていた
また今日も、何もなく過ぎるのだと思っていた
集積所の辺りから煙が上ったのも、いつもの事で。大したことは起こらないと思っていた
だが、爆発が続いた。それでも何も思わなかった
だが、綿月の二人が慌て出したのを見て
そして、
ドレミーが出ていったのを見て、まさかと思った
そのまさかは当たっていた
集積所から立ち上る煙が、どす黒くなっていった
サグメが、端末からの情報に叫び声を上げた
逆転を恐れたサグメは、○○に向かって口を空転させながら空中庭園から出ていった
豊姫に聞いたら、サグメのお気に入りの場所が燃えているそうだ
○○とよく行く場所が、である
そうかと思えば、綿月の私兵が置いていった物資も燃え出した
空中庭園の外ではあるが、綿月が慌てないはずはない
奴等も出ていった
かくして、空中庭園には私と○○だけになった
そして端末に、同期の出世頭から
諦めるなと言うメールが届いた
私は○○の手を取って、走り出した
脱出ロケット施設で、周辺の状況を見ることが出来た
同期の出世頭、彼は兵士を率いて。我々とは真逆の方向に進んでいた
彼のお陰だ……
すまない、そしてありがとう
最終更新:2017年09月11日 19:53