霊夢/1スレ/520-521 539-541




「嬉しいっ・・!」
飛び込むようにてゐが抱きつくと
○○は優しく受け止め抱き締めた。
「私の能力目当てだったとしても…貴方に愛されるなら、私っ・・」
○○はそれに応えるかのように、てゐの頭を優しく撫でてやると
手を繋いで微笑んだ。
「えへへ…」

少し離れた物陰。
其処に、音も無く、気配も無く。
霊夢がそれを覗いていた。
霊夢は○○に以前から想いを寄せていたが
彼とお喋りする訳でもなければ、知り合いですらなかった。
ただ、○○は毎日の様に神社に来ると、ごく僅かではあるものの
賽銭を入れに来ていたので、数少ない参拝客の彼を知っているのは当然…
の、はずだったのだろうが。
賽銭を入れに来る○○を知った時、霊夢は神社に居なかった。
加えて言うと、私が居なかったから参拝に来た、と思い込んだ。
霊夢が居る際はどこぞの悪魔だのスキマだの…
そういった客が転がり込んでいる事は珍しくなかったからである。
そして、○○の参拝する時間は決まって朝早く、日が昇る少し前と
どこかの鬼と鉢合わせる事もなかった。
霊夢は元々、金に執着心があった訳ではないので
始めは○○に対する興味のようなものしか持ってはいなかった。
だが、○○がいつものように参拝に来たある日、ふと口にした言葉―

―こんな所に住んでみたいものだ―、と。

…。
普段来ない参拝客のせいもあってか。
それとも女性とばかり付き合っていた反動か。
霊夢の想いは一気に膨れ上がり―
そして、次第に彼への興味はいつしか「それ以上の何か」へと変化していた。

「○○…ぁ、彼の手があの兎の手に…」
そう、あれからずっと彼を見ていた。
暇さえあればずっと彼の傍に居た。
家も知ってる。仕事も知ってる。
趣味は、何か。何が得意か。
好きな食べ物も。嫌いな物も、苦手な物も。
どういう時、どんな仕草をするかだって把握してる。
ねえ、だから○○。いつでもうちに来て・・いいんだよ?
だから、ねぇ。そんな兎に優しくしないでよ。触らないでよ。
ずるいよ。私だって○○の匂いを感じたいのに。
貴方がそう言ってくれるまで我慢してるのに。
ねえ…

ずるいよずるいよずるいよずるいよ
ずるいよねぇねぇねぇズルイズルイズルイズルイ

なんなのよ あの兎は

―ねばいいのに

ああ、そっか

いつもみたいに、すれば

だから そう これはそういうことね


イヘンガオキタンダ


迷いの竹林の途中。てゐがスキップしながら帰路についていた。
「~♪・・○○」
そっと手を胸に当てて○○の名前を呟き考える。
人を騙すのが好きだった私がこんな風になるなんて…
○○と幻想郷で出会えて本当に・・幸せ。
だから…あの人には絶対に幸せになって欲しい。
「な~んて素直に言えたら・・あははっ」

ドガッ!

「ぎゃあ!!」
突然、後頭部に激痛が走る。
間髪を居れず腕を掴まれ、捻られた。
(何っ・・!?どこの馬鹿妖怪よ、私を狙うなんて!!)
慌てずてゐは思考を回転させたが、その正体も目的も…
想像からは全く外れていた。
「えっ」
「素敵…これが○○の匂いなんだ」
「み、巫女なの!?あんた何やって・・いぐあぁぁ!!」
グシャッ。
鈍い音。
腕が折れてはいけない方向に、曲がる。
「う・・ぁ・・あぁ・・」
「はぁ・・もうダメ、我慢出来ないッ…!」
ペロッ。ベロベロベロッ。
「ひ・・ひぃゃぁぁぁあああ!!」
舐められた!?何、何なの?
こわい、こわい。助けて、助けて皆、たすけて、○○―!
「たすけがぁぅっ!い゛ゃぁぁああ!!」

「うるっさいわねぇ。
私は異変を解決しに来ただけなのに。
まぁ・・いっか。こいつが黒幕なんだしね。

○○があんたとくっつくなんてありえないもの。
そう、これは異変なのよ」
「み、巫女ぉ・・あん・・たま゛さかぁっ!!」
「さて、と―
貴方の手足でも持って帰ろうかしら?
幸運のお守りとして。
異変が解決した事を証明しなくっちゃね・・ね?○○・・。
○○の為だったらなんだって出来るンだからァッ!!」
―った笑顔で、そう言うと。
霊夢は針を―

(・・○○っ…!ごめん。ごめん、ね―。)
鋭い痛みが手足に走り。
てゐの意識は徐々に、闇へと飲まれていく。
(私…あなたと幸せに・・幸せに・・してあげられそうにない・・ゃ・・)
それでも。
「おね・・が・・○○に、は・・ひど・・しな・・で。」
全ての力を振り絞り。光は消えた。

「今日は○○の匂いで眠れるのね・・良い夢が見られそうだわ」
四肢のない無残な死体を足蹴に。
血の滴る手足を頬ずる霊夢には、その声は届かなかった。

数日後、日の出前―。
てゐが死んだ事を知り、○○は今日も一人神社で泣いていた。
それを幸せそうに見ている一人の少女の存在を知らぬまま。
知らぬまま、押し殺すように。こう、呟いた・・

「お前は絶対に幸せになんかなれない―」
何もしてくれなかった、神に向かって言ったのか。
無力な自分への言葉だったのか。
そして○○がどうなるのかさえ―誰にも分からなかった。


誉めて頂いた方、陳謝。
528から注文の御代は頂きました、ご馳走様。
さて、おかわりをご所望な方が居たので無理矢理完結させてみた。
おやつなので、味の保障はしませんが、良ければ御賞味あれ。
___

てゐが死んでから、少しの時が流れ。
○○は一人部屋に閉じ篭る時間が多くなり
仕事で出掛ける以外には、全く何も手に付かなくなっていた。
そんな重い空気の立ち込める部屋の扉を叩く音―
「お邪魔するわ」
来訪者は、八意 永琳。
「…酷い有様ね。安易に想像出来たけれど」
○○は聞いているのか、聞いていないのか分からない表情のままだった。
「てゐの死因―というよりは殺され方が分かったわ。
多分、踏みつけらながら手足の骨を折った後
何かで突き刺し、手足の肉を削ぎ落とす。
巧く出来なかった部分もあったみたいで、引き千切った箇所も―」
ガタッ。
「何でてゐがそんな酷い目に合わなければいけないんですか!」

「何で・・何で・・・」
突然声を荒げた○○を気にする様子もなく、永琳は続けた。
「結論だけ言うわ。犯人はまともな奴じゃない。
そして、次に狙われる可能性を考慮すると―

次は、あなたが狙われる可能性が一番高い」
「…。」
「・・どうするの?第一被害者候補」
少し目を細めて言ってやる。
「・・どうでもいい・・死んだらあいつの所に行けるんだ。なら・・」
予想通り、とでも言わんばかりの顔の永琳。
「―そう。がっかりしたわ。私も。そしてきっとあいつもね―」
用は済んだと言わんばかりに外に出ると、静かに扉を閉じられた。
「・・てゐ・・俺は・・・」
誰にも聞こえない程度の掠れた声で、○○はブツブツと唸るだけだった。

「―ねぇ」
「…。」
「なんであんたが○○の家に行くのよ出てくるのよ近付くのよ
卑猥、不潔、汚らわしい鬱陶しいッ!
折角あの兎を始末したってのにさぁぁ」
「やはり、貴方が犯人だったのね…。
凶器は針、使い手なんてこの幻想郷じゃ数え―」
「異変がstage1で済む筈も無いって事かしら
まぁ当然よね当たり前だわ
そう、さっさと倒して○○を助けなきゃ
早く早く早く

はやくはやくはやく」
「・・っ!?人の話を聞きなさ―」
「はやくはやくはやくしないと

ハヤクハヤクシナクチャ

危ないのよ、来てくれないのよ
いつまで経っても○○がぁっ!!」


「師匠、遅いな…」
帰りの遅い永琳を心配し、鈴仙は一応○○の家へと向かっていた。
一応、である。
蓬莱の薬で不死となっている永琳ならば例え何があっても大丈夫だろうし。
―そう、思っていた。
今この瞬間までは。

「…なにあれ」
○○の家より少し離れた裏道に、永琳の顔と片手が生えていた。
いや、飲み込まれている、というべきか。
「し・・師匠っ?!」
「・・良い所に・・。一度しか言わないわ、良く聞きなさい」
「どうしたんですか、これ!?一体何が…」
「貴方とゆっくり話してる余裕はないのよ。
いい?あの巫女・・私達蓬莱人ですら○○を誑かす存在だと思っている。
今の私のこの姿―殺せないなら封印すればいい。そういう考えみたいね。
…多分あの巫女が出会っている妖怪への対策は
完璧と言えるほど用意されているかもしれない。
長い事生きてきたけれど、こんな結界を作り出すなんて…
やっぱり只者じゃなかったってわけか…。

いい?姫様を頼むわね。
波長を操る能力を最大限に活用すること。
逃げる事を第一に考えておきなさい。
余裕があれば、○○を囮にするくらいはしてもいい。
そうすればもっと時間が稼げる筈。
どんな手を使ってでも構わない。
逃げるのよ、絶対に。

これは命令・・いえ、お願い。どっちでもいいわ。
これから飲みこまれる私には、その結果がどうなるか、分からないもの」
「師匠ッ!らしくないですそんなのっ!!
いつもみたいに余裕たっぷりに、何とかしてみせて下さいよぉっ!!」
そして彼女は、少しだけ。ほんの少しだけ、笑い
「ごめんね。『鈴仙』。もう、疲れちゃった。限界なの―」

「―耳障りだと思ったら、まだ居たの」
グシャッ。
彼女の師匠は踏みつけられ、姿を消した。

「し・・しょ・・?」


(ねぇ聞いて○○ 私またあなたを守ったよ
あなたを狙う卑劣な奴は いっぱいいっぱいいるのそれでね
知らないよね ううんでも知らなくてもいいの
あなたが居ればそれでいいの

だから私 あなた 待ってる

待ってるの・・

待ってるから・・・

待ってるから・・ね


    • あれ)


聞こえてしまった。
塞ぎ込んでいた彼は、永琳の『配慮』で漸く重い腰を上げ
てゐの事を思い出しながら、歩いていた。
けれど―

「・・・○○を誑かす存在・・・」

「・・・あの巫女が・・・」

「・・・囮にするくらいの・・・」

耳に入ってきた言葉。
今見ている光景。
そして、月の兎の断末魔―。

こいつが・・こいつだ・・・
「お前・・てゐをおおぉぉぉっ!!!」

鈴仙を始末した感傷に浸るあまり、○○の気配に気付かなかった。
いや、気付いた。彼が後一歩で彼女に触れられる範囲まで近付かれてから。

(○○が近付いてくる

○○が来てくれた

○○が私に会いに来てくれた!)

霊夢はまるで悪夢から覚めたかのような表情で、笑った。
瞬間、霊夢の胸に

―ズブリ

激痛。

(あ・・れ・・?)

痛い。何でこんなに痛いんだろ。
ずっと我慢してたからかな。うん、きっとそうだ。
もっと早く○○に話しかけてみれば良かったんだ。
見ているだけなのが、辛くて、切なくて。

でもね、こんな痛み、気にならない。
○○が私を見てくれた。○○が話をしてくれた。
でも、○○ったら、さっき何て言ったの?

    • ちょっとふらふらするなぁ。
初めまして・・って言わなきゃダメかなぁ・・
あ・・違うかな・・・いつも来てくれてるんだもん。
ありがとう・・か・・な。)

○○の手にはメスが握られており、霊夢の左胸へと貫通した。
永琳の『配慮』で置かれていたそれは。
(生きてる意味を失うのは苦しいわよね。
でも、貴方の積み重ねてきた歴史なんて
須臾に過ぎないって事、覚えておきなさい。
それも分からないガキなら、死になさい―)
そう添えた、文章と共にあったもの。
○○はこいつを突き返してやろうと外に出た。
そして、永琳の『配慮』は生きる意味を与えた。
もっとも、悪い形で。

「うあああぁぁぁぁぁぁあ!あぉぁぁ!」
言葉にならない声を上げながらでメスをかきまわす。
死ね、死ね、死んでしまえ!!
憎しみの全てを込めた○○の目が、霊夢と重なった。
何でこんなに嬉しそうなんだ。
もっと痛がれ、苦しめよ!


「嬉しいっ・・」
瞬間、抱きしめられた。
    • 意味が、分からない。

何処かで聞いた言葉。
同じ様な瞳で。同じ様な表情で。
そして同じ髪の色の大好きだった娘が。

「○○・・愛して・・る」
手を繋いできた。くれた。

どうして良いのか・・分からなくなった。
メスを握る力は抜け、霊夢の体重が○○にかかる。
そのまま倒れこむ様に、霊夢は永い眠りについた。

○○は泣いた。泣きながら、その名前も知らない少女を抱き止めた。
ただのどうする事も出来なくなった。
血溜まりはやがて月の様に丸く広がり○○と霊夢を覆い尽くしていた。

やがて○○も倒れた。
立ち上がることも出来なかった。

最後に彼らを見守っていたのは、無関心な神でも。
無力だった、○○でもなく。
空に浮かぶ、まあるいまあるいお月様。


兎 兎 何見て跳ねる

ねえ、兎は だーあれ?

~了~

追記

ヤンデレスレがこいしちゃんで賑わってるし
本スレは神綺様の食べ放題でお腹一杯。

さて、明日は雛か衣玖さんをおやつにするかもしれません。







感想

  • これいちばんすき -- 通りすがり (2023-07-09 12:28:43)
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最終更新:2023年07月09日 12:28