月都貴人専属医療班、隊長の日記13
4月1日 まだ下界にはたどり着かない
と言うよりは、一直線では連中の監視網にかかる事を恐れてわざと遠回りしている
○○も理屈としては理解してくれているが、だからと言って不安にならないはずはない
4月2日 これを書いている時、我々は静の海を経由している最中だ
正確には、純狐や
クラウンピース。その背後で協力していた
ヘカーティアの侵攻ルートを逆走している形だ
そこは、今現在は閑散としていた
当たり前だ、クラウンピースが配下の妖精と大暴れして、穢れを撒き散らしたのだ
穢れはまだ除去されておらず、と言うよりは除去の技術はあるそうだが
あまりにも広範囲の高密度で穢れが溜まったようで、順調に行った際の計算ですら嫌になって計画が棚上げ状態らしい
また、それの指揮をやってくれる人物もいないそうだ
貴人には頼めない、そもそも
サグメがあの時に最前線にいたこと事態があってはならない事だそうだ
やや皮肉だが、私や○○のような貴人のお気に入りは、指示や連絡が届きやすくとも
お気に入りが穢れるのをどの貴人も嫌がるので最初から除外
ドレミーのような私兵もやっぱり除外、貴人達も手駒は無駄には減らしたくない
それに私兵はもはや、貴人の狂信者である
そんな優秀な配下を穢れさせてくださいなど
たとえ作業後にキレイに出来たとしても、そんな提案をすることすら、どの指揮官も出来ないのだ
では玉兎は?残念ながら、それも出来なかった
イーグルラヴィのような、調査任務が任せられるようなのもまれには存在するが
そう言う優秀な者ほど、逃げる
同期の出世頭のような、逃げようとしない者もいる事はいるが
貴人の私兵以外で、優秀な者を使い潰したくない上の意向で除外
また、それ以前に。貴人ほどではなくとも、玉兎だって月の存在だから穢れることを嫌がる
そう、誰もいないのだ
行きたくない者ばかりで、行っても良いと言う奇特な聖人も周りが行かせてくれない
だが、下界へ逃げる我々には関係がない
むしろこれは、良い隠れみのである
本当に、皮肉だ
4月3日 順調に行けば4月4日から5日へ、日付が変わるか変わらない頃に
下界へ、幻想郷に着陸できる
さらばだ、月よ
見上げる以外では、もう2度と会わないだろう
○○も徐々に話をしてくれるようになった
笑顔も戻ってきた。幻想郷では料理がやりたいと言っていた
私も、町医者になれたらと考えている。やんごとない方々の相手はもうやりたくない
これが我々の、本当の姿だ
4月4日 これから突入軌道に入る
さらばだ、月よ
ざまぁみろ!!月の奴等め!!!
月よ、見えているか!?
私と○○が、お前たちを見上げながら大笑いしている様子を!!
4月5日 少々着陸が派手になりすぎたか
捕まってしまった
しかし、日記帳が取り上げられなかったのは幸いだった
○○は違う部屋だが、自由に会うことが出来る
犬耳を持った見張りが外にいるので、建前は軟禁や幽閉だが緊迫感は見当たらない
月から逃げたと言うのを信じてくれてはいるようだ
守谷神社には感謝している
4月6日 犬走椛と言う方から、尋問を受けた
医者だと言ったら、いくつかそれに関わる質問を受けた
止血の基本、骨折の際の固定、それも部位毎に解説した
救命の基本、心肺蘇生の基本
手術に関しても答えた
犬走さんは女性なので、帝王切開についても解説した
また武人と見受けたので、銃創に対する処置
火傷、凍傷など低体温症、裂傷、その他様々な処置についても
こちらの方が受けがよかった
枕元輸血の危険性を解説した際は、聞き入ってくれた
ようやくマトモな、その上知的な方に会えて
少し涙が出てきた
犬走さんも、途中から私と○○のやった事を
逃亡ではなく亡命と表現してくれた
4月7日 守谷神社の巫女である早苗さんから、周辺の掃き掃除を頼まれた
それは別に構わない
辺りにいる白狼さん(犬耳の方たち、犬走さんも同じ種族)も数が減った
完全に自由では無いが、敵意が無いことは信じてくれたようだ
それらに関しては、喜ばしいことだが
ウサギの女性が私と○○に会いに来たのには緊張感が走った
早苗さんにも連絡が無かったようで、驚いていた
あれは演技ではない
そのウサギ、一目で分かった
地上ではない、月のウサギだ
チラホラと逃げたウサギの話は聞いていたが、こんなにも早く会えるとは
鈴仙・優曇華院・イナバ
彼女はそう名乗ってくれた
早苗さんが、部屋を用意しますと慌てていたが。鈴仙は無視して私に質問した
月では何をやっていた、と
正直に話すことにした。やましい点は無いが、取引の材料もない
今は、誠実さ以外に武器がない
全て話した。我々が飼われていた事を
鈴仙さんは、私と○○が綿月やサグメに飼われていた事を知って、言葉を出すことが出来なかった
それに言葉尻でも、彼女を信じる気になれた
鈴仙さんは、我々の境遇を
好かれて『しまった』と表現してくれた
恐らく、彼女も大丈夫だ
今日は、私の話を聞くだけで彼女は帰ってしまった
早苗さんが、次はご連絡をと言って。鈴仙に忠告していた
4月7日 犬走さんが再びやってきた
恐らく、私を試しているのだろう
傷の消毒に関して色々相談された
だが、度数の高い酒をぶっかけると言う知識はある
また酒が作れるなら、蒸留にせよ醸造にせよ。知識も設備もそれなり以上に存在している
作ろうと思えば、蒸留器で消毒用アルコールがすぐに作れる
少し苛立ったので、専門用語をぶちまけながら説明した
4月8日 犬走さんが、今度は○○に話しかけていた
さりげなく犬走さんの後ろに立って話を聞くことにした
内容は、他愛も無かったが
途中で○○がサグメの機嫌を取っている時の
あの時と同じ雰囲気を覚えて、犬走さんの肩を掴んで止めさせた
すると、ずいぶん○○の事を大事に思っているのだなと
嫌味などは無く、感心するように言ってくれた
そうだ、これが普通の反応であるはずだ
4月9日 犬走さんが私に、○○の事について少し聞きたがった
○○が、彼は隠してこそいるが怯えていると
犬走さん以外の何かを、上側から何か来ないか気にしていると
更に言えば、やや女性恐怖症のように見えるとも
むしろ、よくあの程度で済んでいる
4月10日 守谷神社の指導者である八坂
神奈子と言う方から、良い話をもらえた
私達が逃げざるを得なかったことを信じてくれた
まだ完全な自由とは言いがたいが、私の医者としての技術を買ってくれた
犬走さん等の、白狼天狗は哨戒役だから
生傷が絶えないそうで、転落事故などもそれなりにあるそうだ
なるほど、無視できない状況だ
だがそれよりも嬉しかったのは
八坂神奈子も、○○に同情してくれたことだ
分かるらしい。彼が、周り全部に怯えている事を
サグメから逃げれても、まだ奴の残り香が○○を怯えさせているのだ
それは悲しいことだが
犬走さんや八坂さんのように、気づけるこの人たちは信頼できる
4月11日 この山にある医療機関がすぐに建てれる質素な小屋なのは構わない
山の中だ、雨風がしのげるならば十分
重要なのは、医者に知識と技術と誠実さがあるか
それから、周辺が衛生環境の維持に努めてくれるかだ
とにかくあそこで酒盛りをやるな!!
吐くな!帰れ!寝ろ!!!
4月12日 だから医療機関で酒を飲むな
怪我人は、確かにそれなりにいるが
シラフの怪我人は少なかった
一番多いのが、酔って喧嘩したとか。酔って転げ落ちたとか
はなはだしい時は、嘔吐物で足をすべらせた者だ、しかも自分の
はっ倒してやろうかと思った
4月13日 もしかしたら我々は、てい良く酔っぱらいの相手をさせられていないか?
だが、○○は笑っている
この酔っぱらいたちは裏表が無いと言っていた
良く言えばそうだろう、私は連中を直情的だと表現している
だが……○○の笑顔に。裏表は無い
ご機嫌取から解放されたのだ
4月14日 隣に新しく小屋を建てることにした
酔っぱらいをそこに放り込んでおく
飲むなと言っても無駄だから、せめてここでの酒盛りは止めさせる
月にいた頃と違い、作業は全てこちらでやらねばならない
しかし、悪くない
飼われていない、囚われていない
それを、作業で証明できている
○○も、慣れない力仕事だが。爽やかに作業を行っている
最終更新:2017年09月18日 20:51