こいし/24スレ/2




秋が深まるとともに一抹の寂しさを感じる。
青々と繁っていた木々が色褪せ、葉を落としてゆく様がそうさせるのだろう。

そしてその感覚は、長く使ってきた自筆のノートが終わる時のソレによく似ている。

「いよいよ最後の頁ね」

くすんだ紙を一撫で、また一撫でしながら独り言を呟く。
中に書き詰められているものは小説でもなければ魔術用語でもない。
詰まっているものはこの私、古明地こいしの9年分の恋路である。


きっかけは魔法使いから聞いた「恋のおまじない」だった。
曰く、『意中の相手のことを一冊の本に書き詰めた時、その恋は必ずや稔るであろう』とのことであり、
手頃なペットが見付からずに気の向くままに放浪していた私にとっては新しい遊びとしてちょうどよかったのだ。

姉から貰った一冊の白紙の本、そして万年筆。
これを手に適当な人間の側に寄り添っては"恋をしよう"と張り切っていた。
だがそんなことをしたところで私に気付く者がいるはずもなく、本の中身は相変わらず白いままであった。

しかし○○という人間に出会ってから状況は一変した。
○○は私そのものこそ認識しないものの、何か気配のようなものは感じ取っているようだった。

その様子は私の興味を引くのに十分であり、以降ことあるごとに○○の元を訪れてはその様子を本に記した。
そうしているうちに遊びは恋へと変わり、今では大好きな○○との恋を実らせるため、
会える日は毎日のように○○の元へと通い詰めている。

そして○○の様子を書き連ねてきた本はいよいよ最後の頁を迎え、今に至る。

「いい?お燐。この余白を埋めたとき、焦がれ続けた恋路はついに終焉を迎えるの。そしてその先には○○との幸せな未来が待っているのっ♪」

「そろそろ9年になるんでしたっけ?いやぁーあのときはここまで長続きするなんてあたいには想像もつきませんでしたよぉ」

「もう、おりんってば……続くに決まっているでしょ?私は一途だもの」

そう、私は9年もの間、気変わりすることなく○○の様子を一つ一つ観察し続けるくらいには一途だ。
今や○○仕草ひとつで意図や想いまでを察することが出来るようになっている。

さあ、今こそ最後の余白を埋めよう。
成就した恋のその先を想像しながら、私は1人でトリップしているお燐を無視してペンを走らせた。

「……こいし様も一人前に恋をするようになったんですねぇ……うっうっ……さとりさまもきっと草葉の影から見守っ……ああん無視しないで!」

「おりん、ちょっと静かにして」

「にゃぁい」

愉快な友人を制止し、私は再び思考をはじめた。
この本が、私の行動に対する○○の反応が書かれた物語が幕を閉じるということは、
すなわち一つの恋が終わりを迎えるということである。

思い返せば色々あったなぁ等と感傷的な想いが湧き上がってくるが、そうしてばかりもいられない。
これからは今までの○○との関係に終わりを告げ、新たな関係へと昇華しなければならないのだ。これからは忙しくなるだろう。


「待っていてね○○。私が積み重ねた9年分の想い、今日これから伝えちゃうんだからっ!」


自身の中に溢れる愛情のうねりを胸に秘めて館から飛び出す。
そしてそのまま、一度たりとも言葉を交わしたことのないその人がいる場所へと駆けてゆくのだった。






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最終更新:2019年01月23日 22:00