月都貴人専属医療班、隊長の日記14
4月20日 全身ずるむけの怪我人が運ばれてきた
しかし運んでいる者も、怪我人も
どちらも赤い顔で。おかしな様子で笑っていた
おまけに、臭い。どこかで吐いたのだろ
つまりは酔っぱらいだ、またしても
消毒するから待っていろと言ったそばから
連中、焼酎を口に含んで傷口にぶっかけた
思わず、消毒薬を頭からぶちまけてやった
しかし、かなり酷いはずなのだが
耐えれるどころか、衛生観念から含めて教育せねばと言う思いに駆られる
やはり月は、おかしな場所だったのだろう
ここよりも、である
4月25日 犬走さんが様子を見に来たので
これ幸いとばかりに、衛生環境の重要性を解説した
特に、焼酎を口に含んで傷口にぶっかけるのだけは止めさせろと言った
犬走さんは、メチルアルコールでなければそんなに悪くないと言っていた
あんたもかよ、そう言う問題じゃない
4月26日 ○○が酔っぱらいどもに食事を振る舞いだした
確かに、料理がやりたいとは言っていたが……
腹がふくれれば、少しは酔いが覚めるでしょうと
理屈は分かる
ついでに金も取れとだけ忠告した
まだ守谷神社の預かりと言う立場だが、いずれは先立つ物が必要になる
4月30日 また鈴仙さんが来た
誰が来ても、怖じ気など見せずに会話してやろうと言う気概を持っていたが
やはり、同じ元月の民が相手だと。気持ちが分かるからどうしてもやりにくい
ましてや同じ逃亡者どうし
しかも今日は、鈴仙さん以外にも客がいた
まさかイーグルラヴィとも会えるとは思わなかった。逃げたとは知っていたが
清蘭と鈴瑚と言う名前だそうだ
やはり、呼び会うと言うか引き付け会うのかもしれない
同じ立場の者どうしで
○○が隣の小屋で料理中なのは、幸いだった
言わなければ、気にせずに済む
話がしたいなら私だけにしろと言っておいた
鈴仙さん達も、今日は挨拶だけだと言って帰ってくれた
小屋から聞こえる酒盛りのばか騒ぎが、せめて長く続いて欲しかった
あの緊張感よりはマシだ
5月1日 鈴仙さんが来たことは、結局○○には話せなかった
○○は、今日も隣の小屋で料理を作って酔った白狼に振る舞っている
山奥で料理をしてくれる者がまずいないので
暖かいと言うだけで、客付きが良い
それに、味も良いのだから客がついて当たり前だ
私も食べたが、中々才能がある
月でもやっていたのかと、そう、不覚にも聞いてしまった
料理を待っている時は、
サグメが余計なことをしないそうだ
これを聞いてしまったから、月ウサギが私に会いに来たことは話せなかった
5月5日 鈴仙さんが何日か来なかったので、不意打ちに近かった
しかし、以前に私が言った
○○ではなく私に会いに来いと言う忠告は、聞いてくれているようだ
ただ、嫌な言葉を聞かされた
貴方達を売りたくない
早苗さんにどう説明すれば良いんだ
5月6日 今日はイーグルラヴィの二人がやってきた
彼女たちも、○○ではなく私に声をかけた
ちょうど○○は買い出しに出ている
見計らったのだろう
しかし鈴仙さんよりも敵対的だ
月で自由を奪われていた事は知っているようだが
それでも、事務的と言うか。言葉に感情を乗せていないと言うか
なのでカマをかけた、我々の事は知っているだろうと
あくまでも紳士的に、二人には答えたが
清蘭は、私達より良い暮らしをしていたくせにと怒鳴り散らした
鈴瑚は止めていたが、腹の底は清蘭と変わり無さそうであった
所々で私を見る目付きが、呆れと蔑みに満ちていた
さすがの怒号に、酒盛りをしていた白狼も覗いてきた
だが私は黙って聞くだけであった
同じウサギでも、いきなり怒鳴り散らす無礼者と
つい最近に来たとは言え医者とその友人である料理人
周りの評価はどちらが高いか、論ずるまでもない
鈴瑚の方が周りの感情に気づいて、清蘭を引っ張っていた
清蘭は引っ張られながらも、私と○○を貴人と大差ないと罵っていた
すぐに帰ってくれたのは嬉しいが
だが、早苗さんには相談せねばなるまい
それも早い内に
○○が帰ってくる前に、守谷神社に、イーグルラヴィが来たことだけは伝えておいた
5月7日 早苗さんが来てくれた
気づかって、○○よりも先に私に話をいれてくれた
それから幻想郷の勢力関係も
鈴仙さんは他にも月人と一緒に暮らしていて
その拠点が、不穏らしい。他の月人が深刻そうな顔をしているとか
我々の逃亡を隠せるはずが無いのは重々承知しているが
私と○○が月から逃げ……その後どうなったか
考えなくても分かる
迷惑ならここから立ち去るとだけ言ったが
早苗さんは、守谷神社の威信に関わると言って。もう一度守谷神社で寝泊まりするように提案してくれた
本当に、ありがたい
5月8日 洩矢諏訪子と言う方と出会った
今まで出会わなかったから分からなかったが、守谷神社の二枚看板のひとつだそうだ
通りいっぺんの挨拶しか出来なかったのは、今考えれば心残りだが
またここで寝泊まりせねばならない状況に、○○も不穏さに気付いている
不安を静めてやる事に意思気が向いてしまっていた
5月15日 良くない状況だ
しばらく何も無かったから油断していた
鈴仙さんは、こっちの気持ちには理解を示していたが
彼女は上役の命令には忠実なようだ
間違いなく我々を調査?それとも、監視なのか
彼女の姿を見かけたので、会いたければ手紙なりで連絡を取ってからにしろと言って帰らせた
最低でも、○○とは接触させたくない
彼はまだ不安定だ
しかし去り際に、また。あなた達を売りたくないと。
それだけで済めばまだ良かったが、それでも、命令されたら教えなければならないと。
そう言って、立ち去った
仕方なく、早苗さんに相談した。私達のために、彼女には荷物を背負わせている格好だ
本当に申し訳ない
早苗さんと相談した結果、白狼に話を通してくれた
その日の内に、護衛が付いた
早苗さんや
神奈子さんにお礼を言ったが、彼女たちはこっちにも意地とメンツがあると
そう言って気にしないように明るく言ってくれた
5月16日 ○○が日中で使うような、動きやすい服で就寝していた
貴重品も、持てるだけ持っていた
いたたまれない
しかも、寝言でサグメに許しを請い願っていた
あまりにも哀れである。思わず叩き起こしてしまった
5月19日 早朝であるが、これを記す
よりにもよって、今日は私が○○に起こされた
寝言で泣き叫んでいたのだ、この私が
夢の内容まで、残念ながら覚えている
綿月姉妹だ……綿月姉妹が、私にまとわりつく悪夢を、私は見ていた
5月20日 寝るのが怖い
綿月に襲われる。そんな夢ばかり見る
5月24日 判読不能
5月25日 情けない、情けない、情けない!!
長いこと囚われていた○○の方が、まだシャンとしているのに
なぜ、私は。ああああ
眠れていない、だが、だが、たが
これは、これは
以降、判読不能
5月30日 ○○です
私は今、隊長さんからの口述筆記を頼まれています
ここから先の文章は、隊長さんの言葉です
綿月は何故、私なのだ
綿月ほどであるならば、私よりも、私よりも、私よりも
格が良い者がいるはずなのに
何故、私なのだ。
これより先は、泣き出したので文章に出来ませんでした
感想
最終更新:2017年12月11日 19:50