「いつもありがとう『ございます』鈴仙『さん』」
「え……?」
鈴仙『さん』それだけでも、彼女には耐えがたかったのだが。
そこより前の『ございます』。この二つの畏まった表現に、鈴仙は嫌な汗をかいた

「どうしたのよ」
「いや……」
彼はそういって、言葉を濁したきり。何も言わなかったし、あまつさえ距離さえ置こうとしてきた。

    • あとが辛いぞ--
いつだったか、慧音先生に言われた言葉を思い出した。
ようやく理解できたが、出来れば理解したくなかった。

彼はまだ、濁ったような態度を見せている。
その日は結局、鈴仙の方が耐えきれずに帰ってしまった。

「なんで、昨日までは普通だったのに。なんで、あんなに、距離を感じるの」
「大人になってしまったんだよ」
てゐが慰めるように言うが、鈴仙はそれを拒絶している様子だ。
「そうしなきゃ、色々と生き辛いんだよ。妖怪と違って、人間は。子供のときならまだしも」
「だったら子供のままで構わないわ」
そういって鈴仙は自室に入ってしまった。
気になったてゐが、翌朝に様子を見たが。鈴仙の姿は無かった。
だがその夕方ごろ、純狐と連れだって鈴仙は帰ってきた。
「大丈夫よ、あの子も純狐さんのことは知っているから」
どこが大丈夫なんだよ。
そのてゐの疑問に答えが与えられる前に。
純狐が妊娠したと言う、中々信じられない話をてゐは聞かされた。
……今度、天狗にでも事情を聞いてみるか。






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最終更新:2017年12月11日 19:54